11話
とりあえずシェネルに服を貰い、着替えてからお説教を受けることになった。説教の内容はまあ察していただくとして、自分がどんな状況にいるのか聞くことにした。
「ともかく、怪我も良くなったみたいね」
「わりと重傷だつたんだけどな。ところで、ここはどこ?」
捕虜に情報を与えるのは渋るかと思ったんだけど、そんなことはなくシェネルは簡単に答えてくれた。
「私たちが占領した帝国の港町よ。ノイエ・サンシエルってとこ」
王国語での呼称は聞いたことがないからわからないけど、占領地って事は北部の街だろう。なら脱走しても問題はないか。
しかし、ただ逃げ出すってだけなのはいただけないな。うん、何かしらやって逃げよう。物資の集積地に火を放つとか。
「いろいろ聞きたいことはあるんだけど……体調の方は大丈夫?」
尋問する相手の体調を気遣うとか、優しいなあ。中東の武装勢力の皆さんにも見習って欲しい美徳だ。
「問題ない、質問に答えるくらいなら」
「そう、良かったわ。ならまず一つ目。あなた、なんで生きてるの?」
……こんな状況じゃなきゃイジメられてるみたいだ。でもまあ、質問の内容は妥当だ。
「あなたと契約した魔術師は接続が切れたから死んだみたいだって言ってたけど」
「そんなこともわかるのか」
「召喚と契約の魔術は、かろうじて魔術の枠に入ってるだけでほとんど魔法と言ってもいいくらいの物なのよ。当然、契約魔術の効力は相当なもので、契約を切るにはそれこそ死ぬしかないくらい。で、さっきの質問に繋がるわけ。どうやって生き返ったのか、って変えてもいいわ」
なるほど。別に死んだつもりはないけど、シェネル達はそう思っていたわけか。
「にしてはあまり取り乱してなかったな」
そう、あの街でルキウスを奪還した時、こいつはそれほど驚いてるようには見えなかったし、クラウディアに至っては殺そうとしてきたし。
「私は貴方が生きてるって信じてたから」
……。
な、なんか恥ずかしいな、面と向かって言われると。
「そいつはどうもありがとう。お前の質問に答えるなら、運が良かったとしか言えないな」
「どういうこと?」
「これ」
そう言って俺は装飾品状態の遺物を掲げた。
「逃げ込んだ部屋でこいつを見つけたんだ。その時に怪我も治ったから、その影響じゃないかな」
ざっくばらんに説明した。なんとなく、ポンコツの事は黙ってたんだけど、話したところで信じてもらえたかは怪しいけど。
「ちょっとよく見せて……。ああ、すごいわね、これは。神代級の遺物じゃない。そうそうあるものじゃないわ」
「反応薄いな」
「普通なら驚愕で心肺停止くらいはあるのかもしれないけど、召喚者と行動していれば神代級の遺物はいくらか見たことあるのよ」
なるほど。確かに中川達は国内のほとんどの構造物を攻略していたとか言ってたな。これくらいの遺物はみたこともあるだろう。
「その……聞き辛いのだけれど、コウヘイはどうなったの?」
沈痛な表情を見るに、結果は分かっているのだろう。
「助けられなかった。俺もあの後すぐに殺されかけたから。こいつを手に入れてあの魔物を殺した時には、あいつの遺体もなかった」
まさか俺が食ったなんて言えないし。あの蜥蜴野郎に泥を被って貰おうか。死人に口無しとも言うしな。
「そう……そうよね。でも、本当に良かったわ、あなたが生きていてくれて。それじゃ、次の質問。なぜ帝国軍に? 王国に帰ろうとは思わなかったの?」
どことなく責めるような口ぶりだ。
ざっと経緯を説明する。
「そんな事があったのね……」
シェネルは静かに言った。