表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/111

20話

 エベルヘルムと一緒に部屋を出た。彼はそのまま工房の方へと歩いていく。律儀に部屋の外で待っていたユレルミはスッキリした様子の俺に少し驚いたみたいだ。


「殿下のところに行く。ついて来い」


「あ、了解です」


 殿下がどこの部屋にいるかはユレルミが把握していたから彼の案内に従う事にした。



 ドベル族の集落は山脈内部の馬鹿でかい洞窟の中に作られている。この洞窟も高さはおよそ八十メートル、幅は二キロ、奥行きが六キロもある巨大な洞窟だ。中央には幅二十メートルほどの道路があり、道路の中央には洞窟の天井を支えている巨大な柱が連なっている。

 道路のすぐ両脇には各種商店が並んでおり、その後ろに段々畑状の家屋が並んでいる。ぱっと見の雰囲気は南米のスラムに似ているけどあそこまで無秩序ではなく、きちんと計算された雑然さがあった。ちなみにどの建物も立派な石造りとなっている。


 上から俯瞰すると楕円状になっている洞窟は南北に伸びており、帝国領に面した南側の入り口付近には商人用の取引所や宿泊施設なんかが立ち並んでいた。


 今回俺達が入ってきたのは本来なら裏口にあたる北側の出入り口だ。だからいきなり攻撃されたらしい。おかしいな、前回俺が単独で来た時は特に攻撃はされなかったんだけど……。


 ちなみに洞窟の中央には巨大な鍛治場がある。ほとんどの武器やら防具やらはここで作られているようだけど、集落内に点在する職人達の工房にも小規模ながら溶鉱炉などの施設が存在している。


 中央道路から東西には魚の骨みたいに細い道がいくつも伸びていた。それぞれの道は採掘用の坑道へと繋がっている。さらに家と家の間や家の上を細かい路地が走っていて死角も多く、攻め落とすのはかなり難儀するだろうと思われる。街を守るのがドベル族でなくても、だ。仮に攻め落とせたところで攻撃部隊の損耗はかなり大きくなるだろう。


 今のところドベル族と敵対するつもりは全くないけど、こんな事を考えてしまうのは一種の職業病とも言える。ほら、FPS廃人が無駄に高所からの狙撃を警戒するのと一緒だ。


 ま、俺の知り合いの軍人は意識的に警戒するんじゃなくてほとんど無意識に大通りや人混みを避けていたんだけどさ。意識的か無意識かが素人とプロを分ける指標の一つだと思う。



 帝弟殿下とそのお供の文官達が収容されている建物は俺の部屋からそれほど離れていないところにあった。


 扉をノックし、あらかじめ用意しておいた口上を述べる。



「第一独立警護小隊指揮官、今後の予定についてお話したく参りました。入室の許可を頂きたく思います」


 しばらくして中から、


「どうぞ」


 と声が掛かった。


「失礼します!」


 扉を開ける前に一言声を掛け、入室。まったくめんどくさい儀式だけど、元の世界にいた頃から慣れているからあまり問題はない。


「よく来た。その椅子に座れ」


 部屋の中には長椅子に寝そべった帝弟殿下しかいなかった。


「はっ、失礼します」


「そう固くなることはない。今は口うるさい爺達もいないからな」


「はっ、ではお言葉に甘えて。

 早速本題に入りたいと思うのですが、当初の予定ではこの集落に一泊した後、帝国領に向けて出発するつもりだったのですが、殿下や兵どもの疲労が想定を上回っております。私としては滞在期間を五日に伸ばしたいのですが、よろしいでしょうか?」


「構わない。全て指揮官殿に任せよう。だがあまり到着が遅くなると後々の対応が面倒だからね、とりあえずの使者だけ帝国に送りたいのだが」


「分かりました。人選はこちらでしても?」


「構わん。が、文官を一人は連れて行った方がいいだろう」


「ではすぐに手配します。騒がしいところですが、ゆっくりとお体をお休めください」


 敬礼し、殿下の部屋を出た。


 とりあえずやらなきゃいけないことを終わらせなきゃいけない。ゆっくりと休むのはその後だ。


 トルニを呼びつけ、ついでに文官の中からそこそこ高位の人間も呼び出した。

 文官はセクストゥスとかいう名前でそこそこ大柄な中年男だった。北方の血が入っているのか帝国人にしては肌が黒く、髪もやや赤みがかった黒髪だ。ガタイもいいからぱっと見は歴戦の兵士にも見えるけど、兵役以外で軍にいたことはないらしい。実戦経験もないとのことだった。


 俺としてはセクストゥスと聞くとどっかのイギリス人が書いた詩に出てくる「恥ずべき悪漢セクストゥス」が出てくるけど、このセクストゥスには恥ずべきところもないし悪漢でもなかった。むしろ好印象な感じがする。


「いやあ、私のような者が殿下の名代に選ばれるとは。もちろん光栄に思いますがやはり恐縮してしまいます」


「殿下の無事を本国に伝える重要な役割です。此度の戦役の行方を左右する任務となりますので、ぜひセクストゥス殿には任務を遂行して頂きたい」


 戦役云々は下級士官であるところの俺には全く関係ないし興味もないのだが、帝弟の奪還に成功したっていう功績はしっかりと帝国貴族に教えておきたい。


 俺の部隊からはフレギとウェルクを選んだ。理由は簡単、この二人がほとんど無傷だからだ。この二人には俺からの手紙を持たせている。宛先は我らが軍団長アンドレイだ。使者を送り届けた後はアンドレイ率いる本隊に合流する予定なので、俺が得た情報と勲功についての要望を書いておいた。とはいっても俺は文字が書けないからトルニに代筆させたんだけど。

 セクストゥスの方には殿下が書いた手紙を持たせてある。内容は俺の手紙と同じく敵勢力に関する情報、それと俺に与える勲功の推薦。まあつまり内容に大した違いはないって事だ。


 手紙を渡した後はすぐに出発させた。坑道の出口まではドベル族の案内役をつけてもらうことに した。ほとんど一本道だから迷うことはないだろうけど、念の為だ。



 さて、これで大体の指示は出し終わった。後は……ああ、あの騎士の拷問……もとい、お話があったな。ま、それは明日でもいいだろ。今の精神状態だと重要な事を聞く前にお話が終わってしまいそうだ。


「おい」


 振り返ると、何やら不敵な笑顔のイルマが立っていた。どうやらトルニの説得は失敗していたらしい。さっき会った時はなにも言ってなかったけど、どういうことだろう。


「上官に対する言葉遣いを忘れたか?」


「おまえなんか、上官じゃない」


 どうにも雰囲気がおかしい。明らかにまともな状態ではない。


 ふと、イルマの背後にある暗がりの中に誰かが立っているのが見えた。よく目を凝らしてみると……あの特徴的な赤毛は、ポンコツしかいないな。


「おいポンコツ、お前そこで何をやっている?」


「ぽ、ポンコツって言うでない! わしは契約者の様子を見に来ただけじゃよ」


 俺の言葉にポンコツは一瞬だけ気色ばんだが、すぐにあの冷徹な声に戻った。よくわからない奴だ。


「どういうことだ? お前、今まで一度もそんな事……」


 そこまで口に出して、やっとポンコツの言葉の意味が分かった。


「……イルマ、この馬鹿と契約したのか?」


「わたしを なまえで 呼ぶな!」


 言葉と共に振り下ろされた剣をバックステップで避ける。同時に遺物をガントレット状に展開。


 イルマの握っている剣は見たことのないものだった。


 柄は大体二十センチ強、刃渡りは一メートルほど。刃の部分は緩やかに波打っており、鍔は精巧な蔦の細工になっていた。フランベルジュというやつかな。


 刀身からは湯気のようなものが立ち上っているけど……あれは冷気かな。明らかに周囲の気温が下がっているのが分かった。


「おまえはわたしを、なかまをうらぎった。絶対に、ゆるさない」


 イルマは無造作に立っているだけだが、やたらと刃圏が広く感じられて俺は余計に間合いをとった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ