5話
腹を満たしたら次は食糧品を買い込まないといけないのだが、あいにく俺は保存食の知識なんてゲームか本からのものしかない。
固い燕麦パンは当たり前として(あるかどうかわからないけど)水は腐りやすいから薄めた酒だったっけ。あと生姜……じゃなくてニンニクもいるんだっけ。よく覚えてない。
確実にわかるものといえば干し肉だか塩漬け肉か。曖昧じゃねーか。だめじゃん。
まあとりあえずそんなとこだろう。どこで仕入れればいいかすらわからないが。
とりあえず村の中央広場まで来たけど、だめだ店閉まってる。これはあれだね、宿屋デビューだね。言葉わからないからハードル高すぎるわ。
せめて何系の言語かわかればいいんだけど、さっき軽く聴いてみた限りじゃ、ラテン語に一番近い気がした。ラテン語とかわからねーよ中学の時に挫折したわ。sum動詞四十八種類ありますとか本当にやめてほしい。おかげで中二病から醒めたわ。
ラテン語に一番近いのは確かイタリア語だったと思うけど、当然わからない。専門外だ。
さきほどの店まで戻る途中、やたらとガタイのいい男たちが村に入ってくるのが見えた。そりみたいなものに鹿かなにかの死体を載せている。どうやら狩りにでも行っていた連中がいたみたいだ。
その先頭を歩く男と目が合った。あ、こっちに来る。
「セレ・エクシュラム?」
「言葉わかんないよ」
手をひらひらさせてアピール。男は構わず話し続ける。
「セレ・リュプブリカ? セラム・レコンティム」
男は俺が着ている外套を指差しながら言った。
「エル・シュティン・ブリガ。ケム・レア」
こっちへ来い、といった感じで男が手招きする。男はそのまま、通りから少し離れたところにある建物の中へ入っていった。農民にしては立派な家だ。さっきの集団でも先頭に立っていたし、顔役的な存在なんだろう。他にできることもないし、男についていく。
家の中はそこそこの広さがある山小屋、といった感じだ。土間の真ん中に火を焚くとこがある。なんて名称かは忘れたけど、確か炊事と暖房で両用できるとかなんとか。今も火が中で燃えていて、その上には鍋が掛けられている。玉ねぎとなんか野菜のスープか。もしかしたらなにか肉が入ってるのかもしれないが。奥では木製の簡単なテーブルがあり、その上にはでかい焼いた肉の塊が置いてあった。
恰幅のいい女が出迎えに出てきた。男の家族だろう。赤ん坊が奥で寝ているのが見えた。
顔役は女に何事か耳打ちすると、女は小さく頷いて別の部屋へ行ってしまった。
顔役がテーブルにつき、手招きする。少し警戒しながら対面に座った。目の前には肉の塊と、平べったくてやたらと固いパンがテーブルに直起きされている。これを皿がわりにするんだろう。
しばらくして女が木製の皿に暖かいスープをよそったものを持ってきた。久しぶりのまともな食事だ。
顔役が普通に食べるのも見て、俺も食べだした。
……まあ、あれだな。あんまりうまくない。なんかこう、一味足りないんだ。だけど、どんなに微妙でも腹が減ってればひたすら食べるだけだ。変な薄味になれればおいしいとは感じるし。
驚いたのは、肉を切り分ける顔役が使ったのが、腰に下げた短剣だったことだ。ねえそれ、さっき鹿を解体してたのと同じのですよねえ?
そういうマナーなら仕方ない。俺も短剣を抜こうとしたけど、顔役が俺のパンにさっさと盛ってくれたから不器用をさらさずにすんだ。
というか、もしかして俺、歓迎されてる? なんか上等そうな酒出してきたんだけど。匂いを嗅いでみるに、ビールかエールか、麦系の酒だということはわかった。