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13話

「はい、いえ、それもそうなんですが、その、傷を塞がないと……」


 右腕でしっかりとヘルネの肩を保持し、脇腹の傷を触ってみる。……確かに結構血は出てるけど別になんてことはない。痛いけど。泣いて全てを投げ出したくなるほど痛いけど。モルヒネがないとかなりキツい。自分でもよく頑張ってると思うし、俺の頑張りに水を差さないで欲しい。


「でもさっきから力むたびに血、噴き出してますよ」


 ぴゅーって、と横から口を出してきたイルマの口の形は凄く可愛いって思ったけど、そんなことは超どうでもいい。

 さっきからふらふらすんのってそれが原因か。もうだめ。休もう。


「……ここら辺で小休止」


 手近な木の根元にヘルネを下ろす。うん、容体は安定している。依然として意識不明のままだけど。

 いやいや、他人の心配してる場合じゃないな。止血しなきゃ俺が死ぬ。


 服をたくし上げ、ベストのポーチから止血キットを取り出した。


「あ、私がやりますよ」


「いや、お前は周辺警戒を頼む。大丈夫、昔からこういうのは得意だったんだ」


 応急処置をしようと近付いてきたイルマを遮ったのはみんなご存知トルニさんだ。

 なあ、なんでお前が出てくんのよ。女に治療されんのと男にされんのは精神力の回復にずいぶん違いがあるのよ?


 トルニは手慣れた様子でよくわからない肉厚で幅広な薬草を傷口に貼り付け、その上から包帯を巻いていく。確かに手際はいいし自分でやるよりもだいぶ早く処置は終わったけどさ……ねえ?


「騎兵です。数は六、敵の本隊の方から来ます」


 小声でイルマが報告した。


「異変を察したかな」


 どうやって察したかはわからないが、だいたい予想はつく。


「迎撃しますか?」


 なんとも好戦的な事でよろしい。


「いや、銃声を出すのはまずい。やるなら白兵で仕留める事になるけど」


 街からも捜索隊が出てるはずだ。俺が敵の立場だったらスルーだけど、あの強情なチビが俺達をみすみす逃がすなんて考えられないし。ああ、そういえば人質も奪還してたんだっけ。だったら確実に捜索隊は出てるだろう。


 ウェルク達は無事に支援部隊(の生き残り)と合流出来ただろうか。途中で捕まってたら俺達の犠牲は全部無駄だったことになる。ともかく今は信じるしかなかった。


「……万全の状態ならともかく、今はキツいですね」


「なら潜伏だ。おい、ヘルネを藪の中に移せ。お前達はばらけて隠れて、攻撃する場合は俺の射撃の後に続くよう」


「了解」


 三人とも別々の藪の中に伏せる。俺はヘルネの上に覆い被さる形で息をひそめていた。


 敵の騎兵は何かを探す様子もなく、馬を駆け抜けせていった。しばらくして身を起こす。


「出るぞ」


 脇腹の痛みはだいぶ和らいではいたけど、それでもまだまだ痛みはある。あまり集中して物を考えられないくらいには痛いままだ。


 しばらく黙って歩き続けていると、やがて木の枝やなんかで偽装した馬車が見えた。近くの茂みからウェルクとフレギが出てきた。


「隊長、ご無事でしたか!」


「ラウリが死んだ。ヘルネは意識不明。くそ、大損害だぜ」


 ラウリが死んだと聞いて、一瞬だけウェルクが硬直した。


「ならば治療は我々にお任せ頂こう」


 ラウリとは幼馴染だったというウェルクにかける言葉を探していると、馬車から老人が出てきてそう言った。この老人は支援部隊の生き残りの文官の一人だ。


「あなた方はまず殿下に挨拶をお願いしたい」


 そういえばそんな奴を助けるのが目的だったな。二等兵を助けるのとは重要度が違うのが唯一の救いだと思っておこう。そうでもないととてもやってられない。


 俺は馬車のそばに歩いていった。将校らしく、悠然と余裕を持った足取りでだ。こんな時間の無駄はさっさと済ませて早く撤退したい。


 片膝をつき、視線を下へ。……やっぱ俺から話しかけないといけないのかな。

 とはいっても正しい言葉遣いやら礼儀やらなんてわかるはずもない。王弟といったら帝国で皇帝についで敬意を払われてる人間なわけだし、下手な事を言って覚えが悪くなるのは避けたい。

 俺は異世界人だから多少の無礼は許されるんだろうけど最低限の礼儀くらいはあるってところを見せないとな。


 記憶の中から以前読んだ小説の言葉遣いを検索する。やべ、うろ覚え過ぎる。


 俺は一度静かに深呼吸してから口を開いた。


「帝国軍第三臨時編成軍団第一独立警護小隊長、冲野優一、殿下に拝謁の栄誉を賜りたく参りました」


 心臓バクバク言わせながら口上を述べたわけだけど……なんか、違う。どこが間違ってるのか分からないんだけど、どこかが間違っているのは分かる。


「君が私をさらった救世主かね?」


 さらったのに救世主とはこれいかに。奪還時にちらっと見た外見ではもっと厳つそうな口調かと思ってたけど、わりとフランクな喋り方をする人のようだ。


「はっ。畏れ多くも……」


「いい、いい。楽に話せ。お前は堅苦しいのはあまり得意ではないようだし」


 俺の見苦しい口上を遮って殿下は言った。

ファンタジー要素がほとんどない件について。

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