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8話

 ちなみに俺の馬車は一般部隊に所属している兵隊を徴用して操縦させている。俺は荷台の上で銃の整備を行っていた。周りには撤退時に必要となると思われる分の弾薬が積んである。


 整備なんて何十回と繰り返しているからほとんど無意識にできる。

 地球の民間軍事会社にいた頃からの習慣となっているから今更やめる気はしなかった。


 なにもやることがないから、生きてあの構造物を出たであろうシェネル達のことを考えてみる。中川がいなくなった今でも冒険者を続けているんだろうか。あ、でも貴族だって言ってたし王国軍に編入している可能性もあるな。王国軍がどういう編成になってるかは知らないけど。


 動向がいまいち読めないのは中川の幼馴染だと言っていたあの八極拳中学生だ。あの性格から推測するに軍に編入することも中川無しで冒険者を続ける事も可能性は低い。

 どんな状況にあるかは多少の興味はあるけど、基本どうでもいいことだな。現に俺は帝国軍に所属しているんだし。


「あの、十人長殿」


 御者をやらせている兵士が言った。名前は確かユレルミとか言ったっけ。軍団の主力である銃兵ではなくその他大勢にあたる槍兵部隊に所属している兵士だ。年齢はまだ十六歳で最近軍団に入営したばかりのはずだ。


「なんだ?」


「あの、僕にも魔銃の使い方、教えてもらえませんか?」


 うむ、入隊したばかりなのか、言葉遣いが拙いな。


「構わんけど。でもお前槍兵だろ? 徒手格闘の方があってるんでない?」


 俺の部隊が徹底して射撃と徒手格闘の訓練を行っていることは軍団の誰もが知っていることだ。


「だ、だって銃の方が強いじゃないですか! 遠くから攻撃できるし!」


 何を興奮してるのか知らんが、落ち着け。あと前を見ろ前を。

 だが銃の強さを理解しているのはいいな。この世界の人間はどうも、うちの軍団の銃兵部隊の連中ですら魔銃の効果には懐疑的だ。


「よくわかってるじゃないか。だが銃の利点はそれだけじゃないぜ。わかるか?」


 素質を確かめる意味でそんな質問をしてみた。


「えっと……あっ、近距離でも武器として使えます!」


「五十点」


 容赦のない俺の採点にユレルミはあからさまに項垂れた。こういう分かりやすい反応をしてくれるのはいいな。俺の部下はどうにも愛想が悪い。改善すべき点を教えても真顔で「努力します」で終わりだもん。や、真面目なのはいいんだけどさ。


「質問を変える。遠距離系の小規模魔術と比べて銃撃はどんなところが違う?」


「魔術はあまり見たことありませんが……」


 ユレルミはぶつぶつ言いながら頭を捻っている。どうやら数少ない魔術の記憶を探っているようだ。

 結構な時間考え続けて、俺が飽きて煙草に火をつけたあたりでユレルミはばっと顔を上げた。


「音です! 音、音がうるさい!」


 お前がうるさい。

 何事かとこちらを見た隊員達に軽く手を振って配置に戻らせる。


「正解。じゃ、音が大きいと敵はどう思う?」


「えっと、びっくりします」


「そう、驚くんだ。ついでに言うと生産体制さえ整ってれば大量生産が可能だ。つまりよりたくさんの銃、より大きな音で敵に影響を与えられる。魔術師を大量に育成するよりも低コストでな」


 なかなか優秀な生徒だな。たとえ無知でも頭の回転が早い奴に物を教えるのは面白い。


「でも、量産は難しいんじゃないですか?」


「今はまだな。だが俺がいた世界じゃそれが可能だった。魔術なんてない世界でだ。一時期は全人口よりも多い銃が出回ってたくらいだし」


「こんな複雑なものをそんなに……まるで魔法みたいだ」


 俺が持つ銃を見ながら感慨深そうにユレルミが言った。この銃もそれほど複雑な機構じゃないんだけどな。だがこの世界の技術レベルからすれば十分にオーバーテクノロジーだ。このレベルの物が量産されるにはあと数百年は掛かるだろう。


 つまり、それまでの間俺の部隊の持つ瞬間投射火力に及ぶものはほぼいないということ。少なくとも俺が生きている間は無双しかできないというわけだ!

 ま、例外は魔術師だけど絶対数が少ないので除外する。戦場じゃとにかく逃げて、休息中に寝込みを襲ってしまえばなんてことはない。


「お前、やる気があるなら俺の従兵でもやるか?」


 なんとなくそんな提案をしてみる。ちなみに従兵というのは身の回りの世話をしたりする、いわばパシリの事だ。従兵を付けられている大抵の指揮官は階級的に直接戦場に出ることは少ないから、安全でとてもおいしい立場なのだが、もちろん俺はばりばり戦場に出なきゃならんのでただおいしい訳ではない。


「本当ですか!? ぜひお願いします!」


 予想以上の食いつきにドン引きしてしまう。いや、だから前みろって前。脇見運転はよくない。


「軍団長に伝えておく。ま、暇な時にでもいろいろ教えてやるよ」


 手駒が増えるのはいい事だ。ちょっとしたオアシスになれる存在ならなおよし。


「隊長、先行している騎兵部隊からの伝令です」


 最前衛で警戒を命じていたヘルネが馬を寄せてきた。その隣には帝国軍騎兵の鎧を着た男が息を切らして立っている。馬は適当なところで休ませているようだ。


 ユレルミに馬車を停めさせた。


「敵の戦力の詳細と直近の動向です」


「聞こうじゃないの」


「どうやら目標の街には周辺の不帰順部族の戦闘部隊が集結しているようで、現在確認できているだけでも六百はいます。あなた方が到着する頃にはさらに増加しているかと。これ以上敵の数が増加するようなら有力な援護は与えられない、との事です」


 命令書も用意してない辺り、相当急いで来たのだろう。

 伝令はさらに言葉を続けた。


「それと、保護対象の行商人の素性と現況が判明しました。

 対象のうち一人は皇帝陛下の弟君、ルキウス帝弟殿下です。現在殿下とその従者は別々の建物に捕らえられており……」


 聞き間違いだといいんだけど。なんか、とんでもない敬称が付いた気がしたんだけど。


「捕らえられており、さきほど一人が処刑されたと」


 あー、あれだ。この国の権力者に恩を売る機会だと思えばいいか。うわ、やりたくねえ。

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