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6話

 兵隊は走るのが仕事。


 どっかのお偉いさんがそんな言葉を残していたけど、まったくその通りだと思うのでとりあえず走らせる事にした。


 朝起きて五キロ。それが終わったら朝食で、その後は新式魔銃と同じ重さの鉄棒を抱えての連携訓練。一般部隊の中から不幸な兵士を拉致……招待して要人警護の訓練。


 昼飯を挟んで午後の訓練はその日の俺の気分によって変わる。日が暮れるまで走らせる事もあれば山脈の方に偵察に行ったり、構造物から溢れてきた魔物を討伐したり。

 新式魔銃が届いた後はほとんどの時間を魔銃の習熟に費やした。俺が使っていた現代の銃とは違って単純な構造をしているが、今までこいつらが使っていた魔銃と比べればかなり複雑になっている。これに一番時間が掛かったな。もちろん、毎日最低十キロは走らせている。


 山脈には小規模な構造物が多いけど、断固として入ったりしなかった。あんな悪どいポンコツみたいなのにまた遭遇したら精神が耐えられない。



「というわけで諸君。我々の初任務だ」


 所定の訓練を終えた隊員を集めてちょっとしたブリーフィングを行うことにした。


「ここから東に二日行ったところに不帰順部族の村があるのは知っているな?」


 テーブルの上にこの周辺の地図を広げた。この世界に出回っているようなほとんど絵と変わらない不正確なものではなく、アンドレイが指示してわざわざ測量までさせたものだ。まあ、測量に使った器具の精密さはお察しレベルなのでこの地図も地球のものと比べたら不正確極まりないのだが。


 六人のオルカ族はみんな真剣な顔をして地図を睨みつけている。いや、今からそんな気合入れられても。


「で、帝国の行商人ご一行がこの部族と交易しようとして捕まった。これの救出だ」


「奪還対象と敵勢力の数はどれほどでありますか」


「対象は四名。斥候の報告によればそれぞれ別の場所に監禁されていると思われる。敵の兵力はまあ、だいたい二百程度だろう。もちろん最低数でその数だ」



「我々の部隊だけで作戦を遂行するのですか?」


 トルニが言った。


「バックアップに軍団から騎兵と輸送部隊が出る。が、村の中に突入して行商人を奪還する。で、ついでに火を放つ」


「放火までしてしまっては占領した際の統治に影響が出ると思うのですが」


 これはイルマだ。優秀な人材だがどうも俺のことを信用していないらしい。事務仕事が得意なようだから、信用を勝ち取れた時は副官にしようと考えている。


「皇帝陛下……から全権を委任された使者殿は出来る限りの事をやれと仰られた。火を放ち敵勢力を混乱させる事は脱出に必要だと考える。それに占領統治だのなんだのは政治家の仕事だろ」


「我々六人で突入ということは、夜間に奇襲ということですか?」


「七人だ。当然俺も出る。……襲撃は払暁の一時間前に行う。隠密作戦となるので基本的に魔銃の使用は禁止。弾薬に関しても弾倉を各自三つのみ携行すること」


 そこで一旦区切る。トルニ達はどうも納得していないようだ。


 ま、護衛任務がメインだと言われてたのに初陣が敵地に潜入だもんな。ちょっとした詐欺にあってる気分だろう。


「出撃は明日の夜明けだ。トルニ、全員に騎馬を用意させろ。ついでに軽量の馬車も一台」


 トルニに指示を出し、解散した。


 あー、優秀な副官が欲しいなー。一から全部俺が説明しなけりゃいけないのは疲れる。


「おーおーずいぶん立派な指揮官ぶりじゃのう」


 わざわざ煽るような口調で話しかけてきたのはポンコツだ。テーブルの上に腹這いになって頬杖をついている、


 ……ポンコツの事を認識できないトルニ達は真剣に地図を見ていたつもりなんだろうけど

 、俺にはみんな真剣な顔でポンコツの形のいいケツを睨みつけているようにしか見えなくて笑いを堪えるのが苦痛なほどだった。


「なあ、そんなに俺の邪魔して楽しい?」


「お前さん、自分がそんな面白い存在だと思っとるの?」


 久々にブチ切れちまいそうだぜぇ……


 そんな俺の気配を察したのか、ささっとテーブルから降りるポンコツ。


「ま、まあお前さんはよく頑張ってると思うよ、わしは。うん、じゃ、わし用事あるから!」


 ちっ、逃げやがった。


 抜きかけていた剣を元に戻し、部屋の片隅に置かれたソファに身体を沈めた。


 あー、疲れた。屋敷まで帰るのはめんどいなー。ま、ここにも入浴施設はあるみたいだし、今日はここで寝ようかしら。


 というわけでアンドレイの執務室まで歩く。宿泊の名目は明日の出撃に備えてだ。まだ日没してすぐだけど、最低八時間は寝たいからな。


 許可は簡単に下りた。ついでに浴場の使用許可もとる。



 石鹸なんて上等なものはないけど魔術のおかげでお湯だけは浴びれるから、ここの浴場はよく利用している。まあ使うたびに使用許可取らなければいけないのは面倒だけど、下手に女性の入浴中に乱入して信頼を地に落とすのはもっと面倒だから妥協している。


 軽く口笛を吹きながら脱衣所の扉をくぐった。


「んな!?」


 どうやら先客がいたようだ。ふむ、ポンコツもなかなかいい身体してるな。湯上りなのか、メリハリのある褐色の身体に水滴が垂れているのがエロい。まだ乾き切っていない赤毛が背中にへばりついているのもいい。ポンコツなのがもったいない。実に残念だ。


「なッ、なにをしとるか!?」


「早く出てけよ。俺が脱げないだろうが」


「いいながら脱いでるんじゃない!」


 うるさいポンコツだな。正直なとこ、先客がいてそれが女だってわかった瞬間は心臓が止まるかと思ったんだけど、それがポンコツだとわかった瞬間に平常心に戻っていた。こいつは優れた精神安定剤だな。


「第一、わしの裸みといて無反応とはなんじゃ!」


 なんだこいつ、見られたいのか見られたくないのかどっちなんだよ。


「ちっ、うっせえな。反省してまーす」


「なんじゃお前は! なんじゃお前は!」


 二回も言うほど大事な事かな、それ。


 とまあ喚き続ける戯れ言製造機は放っておいて全裸になる。俺が最後の一枚になる頃には戯れ言製造機ことポンコツはなぜか泣きながら脱衣所を出て行った。見られたがりのくせにメンタル弱すぎないかしらあの子。ま、露出狂って奴は見せた相手が平常心を保ったままだと一番ダメージ受けるとか言うし、あいつも泣いていたのはそんな理由だろう。くだらない。


 とまあポンコツの事は完全に頭の中から消去して俺はゆっくりと入浴を楽しんだ。

ラッキースケベなハプニングには決して動じない、というかそもそもそんなハプニングは起こらない。


そんな小説を書いていけたらなと思っています。


決して書けないわけではありません。ありません。

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