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5話

 トルニは小さく頷き、五人の方をちらりと見た。さて、彼らの試験には合格できたのかな。


「第三臨時編成軍団『スレール』第一遊撃銃兵トルニ・カレヴァ以下五名、これより軍団司令部付第一独立警護小隊に着任致します!」


 見事な敬礼。この世界の敬礼ではなく地球でお馴染みの伸ばした右手のひらをこめかみに当てるあの敬礼だ。アンドレイはこんなとこまでロシア風に訓練している。


 ……どうやら合格したみたいだな。これでやっと一安心。


「第一独立警護小隊結成式を終わる。解散!」


 え、これって結成式だったの? 初耳なんですが。


 六人が中庭から出ていくのを見送った後、アンドレイは俺に向き直った。


「ご苦労だった。トルニ達には認めてもらえたようだな」


「まあな。自信はあった。ところで俺の装備はどうすればいいんだ。こんな剣一本じゃ役立たずのままだぜ」


 支給された片刃の短剣を持ち上げる。


「士官は武器自弁が原則だ。とはいえ君は一文無しだからな、軍団の資金から準備金を出そう。オクタヴィア」


「は。十人長、準備金だ」


 軍の階級は軍団副官のオクタヴィアの方が上なのでそれに合わせた言葉遣いになっている。とは言っても帝国語には敬語がないのでほんの少し格式張った言い方になっているだけだ。まあ敬称だけはやたらと豊富だからそれだけ気を付ければ問題はないだろう。


 ずっしりと重い巾着袋を受け取った。中を覗いてみると、鋳造されたばかりらしい状態のいい金貨が八枚も入っていた。


「多過ぎないか?」


「魔銃を発注するならそれくらいはいる。訓練用の弾薬も君が用意しなければならんしな」


 アンドレイの言葉に納得する。俺のやり方じゃ尋常じゃない量の弾薬は消費するだろうし、そもそも相場がわからないから資金はいくらあっても足りないなんて事はないだろう。


「なるほど。了解した。訓練内容なんかは俺が決めてもいいんだよな?」


「もちろん。ただ少しばかり元老院からの注文があってな……」



 †



 私が新設された部隊に転属になって一ヶ月。未だに訓練らしい事はなにもしていなかった。そもそも部隊長である正体不明の召喚者の姿を結成式以来見ていないのだ。噂では山脈に隠れ住むドベル族のところまでわざわざ銃を発注しに行っているらしい。


 わざわざドベルなんかのところに行かなくとも、この街にも立派な鍛冶屋がある。そりゃ人間とドベルじゃ比べられないくらい鍛治の腕には差があるけど。そもそも魔銃なんてものは誰が作ったところでこれ以上よくなりそうもないんだけどな。


 ま、大方の予想はつくんだけど。ドベルは手先が器用でよく人間向けの装飾品なんかを作っているから武具にそれはそれは立派な装飾の武具なんかを揃えて来るんだろう。



 †



 ……やっと、人間がまともに暮らしている区域まで辿り着いた。大量の積荷を載せた馬車の荷台で身体を伸ばした。


「疲れておるようじゃの」


「お前と違って俺は働いてたんだぜ。あんな屈強な筋肉ダルマと共同生活なんて地獄だった」


 俺はこの一ヶ月、冶金技術の発展しているというドベル族とかいう亜人の元へ後装式魔銃の開発を依頼しに行っていた。

 アンドレイが言うには、王国はともかく帝国で一流と呼ばれている鉄砲鍛治には後装式魔銃を造れるだけの技術はなかったらしい。


 で、数世代は先を行ってると言われているドベル族の集落へ向かったんだ。



 アンドレイの話を聞く限りドベル族ってのはよくファンタジーに出てくるドワーフに良く似た種族と聞いていたんだけどね。


 確かに全身筋肉で髭もじゃで頑固で鍛治が得意ってのはよくある設定通りだ。

 ただな、全員が全員二メートル近い身長ってどういうことなのさ。というかあいつら好戦的過ぎる。あいつらに俺を認めさせる為に一体何人と組手をやらされたことか。おまけに坑道の中に潜む怪物退治をやらされたり、ある意味この世界に来てから初めてのファンタジーな経験だ。


 だがそのおかげで魔銃を発注できたんだからいいか。気に入られたから料金も格安にしてくれたし。


 ドベルの鍛冶屋には七挺の後装式魔銃を発注した。おおまかな設計は俺が担当して細かい技術面での摺り合わせはドベル族に任せた。


 一週間ほど待って試作一号となる最初の一挺が出来上がった。いま手元にあるのはその一挺だけで残りは順次納品となる。


 この銃は俺の注文通りの後装式、機関部と銃身を切り離して整備できるようにしてある。

 ライフリングに関してだが、現在利用できる鉱石じゃとても実用に耐えられない耐久度になってしまうから今回は見送った。どうにも耐久度が高い鉱石は未だに精錬できていないようだ。


 給弾は五発入りの弾倉を用いることにした。弾薬は軍団で使っている物と同じものを流用した。


 薬莢は開発に時間が掛かるようなので火薬代りに使う燃素にしか反応しない都合のいいファンタジックな素材で作られた紙を流用した。


 燃素が薬室内で爆発する際に薬莢代わりの紙も燃焼するから空薬莢が発生しないので排出する為の機構は省いた。


 代わりに薬莢付きの弾薬が切れた場合の応急処置的なものを薬室の上部に設けた。


 この部分の金具を手前に引くと薬室が露出するのでそこに直接弾と燃素を入れるんだ。


 ちなみにこれを七挺注文するのに金貨五枚持ってかれた。大幅に値引きしてもらってこれなんだから普及しない理由もわかる。弾倉と特製弾薬も合わせたら準備金はほとんど残らなかった。


 複雑な機構だけあって整備の間隔は短いのはなんてんだが、そもそも市街地での要人護衛が目的なんだからあまり気にしなくてもいいだろう。



 差し当たっての訓練はこの新式魔銃の分解整備から始めることになるかな。あ、まだ届かないから連携から始めよう。あと徒手格闘。こんなところで俺の技術を流出させたくないんだが、こいつらが役立たずのままで俺の足を引っ張ったりくたばられたりすると俺の負担が増えるからな。諦めるしかないか。

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