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20話

 拠点としていた炭焼き小屋で目を覚ますと、隣に赤毛が寝ていた。

 ……こいつ、俺が使っていた毛布をはいでやがる。道理で寒いわけだ。


 とりあえず蹴っ飛ばして起こした。昨夜は見張りと暖炉の番を頼んでおいたはずなんだがな。


「なんで寝てるんだ?」


「んぉおあ……。なんじゃいきなり……」


「おーいポンコツー、なんで寝てるんですかぁー?」


 ガシガシと脇腹を蹴り続けていると、ふざけた事を抜かしていたポンコツがやっとはっきり目を覚ました。


「い、痛い! やめんか!」


「うるせえ俺が質問してんだ、ちゃっちゃと答えろポンコツ」


「だあ! 朝っぱらから人の事をポンコツ呼ばわりとはなんじゃ! お前さん、命の恩人に対して労わりの気持ちとかないの!?」


 うるせえポンコツだな。


「取引だからな、貸し借りはなしだろう。というか、なんでお前はすやすやとお眠りになられていたんだクソポンコツさんよぉ」


「なに、なんでお前さんそんなに機嫌悪いの? 低血圧なの?」


「心配しなくても血圧は正常だ。つーかいい加減質問に答えろ」


「はぁ……。そんなの、眠かったからに決まっておるじゃろ」


 あれ、なんで俺、「そんな事もわからないなんて……もしかしてコイツポンコツ?」みたいな目で見られてんの?


「見張りが! 眠ってたら意味ねえだろうが!」


「いたい! やめろ、わしの頭を叩くな! お前さんなんかよりずっと価値のあるあたまなんじゃぞ!?」


 バシバシと頭をはたくと、やっとポンコツは毛布から這い出てきた。


「ちっ、やっと起きたか。行くぞ」


「どこへ? わし、朝ごはんがたべたいんじゃが」


「朝飯なんて上等なもんはねえ。というか昨日話しただろ、今日はちょっとした隊商を襲撃して飯だの金だの頂くんだよ」


「とんでもない極悪人じゃのう……」


 俺が人間をやめたあの構造物を出て既に一週間が経過していた。どうやら俺が内部にいるうちに構造物自体が転移したらしく、その外は見事な雪山となっていた。


 とりあえず、ファーストコンタクトをとった狩人っぽい格好の男に襲われたので軽く返り討ちにして防寒具や武装、所持品を奪ってからは雪山で見つけたこの炭焼き小屋を拠点に生活していた。


 食料品なんかは俺宛の討伐隊なんかを襲撃して確保していた。昨日は三人組の行商人を襲ったかな。おかげでそれなりの品質のパンを入手できたんだ。まったく、神代級遺物とは便利だな。装飾品状態のままでも腕力強化の効能はそのままらしい。


 ここがどこかははっきりとは分からないんだけど、討伐隊の連中が持っていた盾に帝国の紋章が描かれていたから、帝国の勢力図内である事はほぼ確定だ。



 ポンコツの失礼な言葉を軽くスルーして扉を開く。


 包囲されていた。


 二秒間だけ固まったあと、静かに扉を閉める。


「どういうことだよ!?」


「い、いきなりなんじゃ!」


 小屋から二十メートル程度離れたところに銃を構えた兵士が四十人、一定の間隔で並んでいた。視界に入っただけでこれなんだから、きっと小屋全体が包囲されているはずだ。銃兵の後ろの木陰には槍だのなんだのを持った兵士がやたらと隠れていたし、これは逃げれそうもない。


 今の所は攻撃してくる気配はないが、いよいよ帝国が本格的に討伐に乗り出したと考えるべきか。まじかよ、俺一人にこの数かよ。


 ファンタジー系の小説で怪物だの化け物だのを討伐する為に部隊を派遣するってのはよくある話だが、大抵は討伐する側の視点から描かれている。まさか俺が討伐「される側」でこんな場面に遭遇するとは思わなかった。ちくしょう、ひどい異世界だぜ。


 いくら神代級遺物のおかげで身体能力が強化されているとはいえ、耐久力諸々は据え置き、というかそもそもあの人数の相手にたった一人で立ち向かうとかちょっとごめんなので、さっさと投降することにした。


 扉を開き、両手を頭の後ろで組んでゆっくりと外に出た。十メートルほど歩いて両膝をついた。


 討伐部隊は全員、防寒着の上から白いポンチョのようなものを羽織っていた。丁寧にも銃にまで白い布を巻きつけている。


 ちなみに俺は初日に狩人から奪った防寒着を着ている。端のところに毛皮で縁取りされたフード付きのケープに裏地に毛皮を打ったマント、ブーツも毛皮付きの物だ。ムートンブーツっていうのかな、あれに似た感じ。とはいっても実用性しか考慮されていないから地球の物よりだいぶ無骨な印象がある。

 本当はこれまた毛皮付きの手袋があったんだけど、奪った後に着けたまま遺物をガントレット状に形状変化させたら弾け飛んでしまったんだ。


 そんな全身もこもこの着ぶくれデブな格好のまま雪原の真ん中で膝をつき、銃を持った兵隊に囲まれてるってちょっとしたお笑いみたいな状況だ。


 しばらくそのままの体勢で待っていると、木陰の向こうから誰かが歩いてくるのが見えた。

 大柄なその男は暗緑色の迷彩服を着ていた。赤いベレー帽を斜めに被っていて、見るからに異世界人、というか地球人だ。


 脳内で該当する迷彩服を検索。迷彩服の下に白黒のボーダーシャツを着ていたから、ロシアかソ連の空挺軍あたりの人間だろうと予測。仕事柄多国籍軍と接触する機会が多かったから各国の戦闘服はだいたいわかるんだ。


 とはいっても俺はロシア語なんてわからんので言葉が通じない事に代わりはない。


「この状況で投降を選択するとは、頭は悪くないようだな」


 驚いたことにそのロシア軍人の言葉は理解できた。彼の話すロシア訛りの英語は、多国籍軍内で使用されている簡略された高速英語だったからだ。


 返答を頭の中で翻訳してから答える。このタイムラグがかなりもどかしい。


「正規軍とは争わないに限る。俺の敵は武装勢力だったんでな、慣れないことはするもんじゃない」


 言葉があってるか不安だったが、どうやら杞憂だったみたいだ。

 ロシア軍人は俺の言葉にニヤリと口元を歪めると、黒い手袋に覆われた手を差し出してきた。


「ようこそ、帝国へ。私はアンドレイ・ニカノロフ。見ての通り、帝国で士官をしているよ」

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