幕間2 ちょっとした帝国のお話
まるっと変更しました
帝国東部に位置する帝都ウェスウィははじめ、名前すらないただの漁村だったと言われている。当時、西大陸では大小八十もの小王国が乱立し戦乱の世となっていたが深い森と海に囲まれた名無しの漁村に手を伸ばす国は皆無だった。
このなにもない漁村が大帝国の首都となったきっかけは今から七百年以上前に起きたウェスウィ火山の噴火だ。
名無しの漁村から南西へおよそ四十ツェル離れたところに、ウェスウィ火山があり、その麓付近に勢力を持つ都市国家が当時『ウェスウィ』と呼ばれていた。
ある夏の日の深夜、ウェスウィ火山は吹き飛んだ。今はもう絶滅したとされる魔法使いの大規模な実験が行われただとか、ウェスウィ火山に棲む竜とウェスウィ軍の戦闘によるものだとか、原因の憶測はいくつもあるが現在では大規模な噴火が原因とされている。
噴き出した土石流と火砕流は麓に広がるウェスウィの街を飲み込み、小さな漁村のすぐ三ツェル先まで迫って止まった。
この噴火の跡から大量のマナ鉱石が発見され、これをきっかけに小さな漁村はウェスウィと名を改め、西大陸の統一を目指したのだ。
私はそこでペンを置いた。集中力が切れているのか、後半の文章はかなりひどいことになっている。正直修正はめんどうだ。また新しい羊皮紙を出してこなければならない。もういい、今日は寝よう。最近また蝋燭代の出費が増えてきた。たまには節約しなければ。
というか、誰だ、歴史家とかいう職業をつくったのは。そしてそれを私に勧めた愚か者は吊るされてしまえ。「公平な視点」? お前に都合のいい視点の間違いじゃないのか。
心の中で己の支援者を罵りながら、蝋燭の火をオイルランプに移す。ああ、この油だってただじゃないのに。実家の漁村ではよく鯨を獲っていて、鯨から採取できる鯨油を使っていたため油はタダ同然だったのに、この街ときたら思いっきり高値だ。ふざけてるのか。この街まで私を馬鹿にするのか。
ちくしょう、なにが辺境伯だ田舎者のクソ野郎め。
ぶつぶつ呟きながら屋敷の廊下を、自室に向かって歩く。途中で玄関ホールを横切るのだが、ふと兵士の持っている武器に目がいった。四キュビットほどのやや短めの槍のような武器だ。上を向いている先端には穴があいている。
「なあ、君。これが噂の魔銃という奴かね」
「え? あ、うわ、はい、その通りでごぜえます」
いきなり背後から話しかけられてひどく飛び上がる兵士。声はまだかなり若かった。
私は兵士に魔銃の説明を求めた。この優秀すぎる頭脳を以て話をまとめるとこうだ。
普通の魔道具とは違い、使用者自身のマナはあてにしない遠距離武器。筒先の穴からから弾丸と呼ばれるものを詰め、狙いをつけて引き金を引くのだそうだ。
燃素の瞬間発生の原理を応用したものらしい。弾丸と魔銃のそれぞれにマナを添加しているのでたとえ使用者が外界のマナを操れない一般人だとしても魔術師になんとか対抗することができるようになった、とのことだ。
よくこんなことを思いつくものだ、と感心するとともに、私は歴史が動く気配を感じた。
技術の進歩とは軍事の進歩でもある。軍事が進歩すれば戦争が変わるし、戦争が変われば世界の勢力図が一気に塗り替わるだろう。
私は予測する。おそらくこの魔銃を開発させたのはこの領地を治める糞辺境伯だろう。ならこいつはこの画期的な武器を隣国との内戦に使うのだろう。馬鹿だ。この技術があれば一時的にだろうが王国を占領できたかもしれないのに、あの馬鹿野郎は目先の利益にしか目がいかないのだろう。