18話
この話も相当胸糞わるい表現が出てきます。お食事前と直後の方はご注意下さい。
二時間ほどかけて内臓を除くほぼ全ての肉を食べ尽くした。頭部は頬肉くらいしか食うところがなかったからなかなかグロい形で残骸の中に放置してある。
周囲には血生臭い臭いが立ち込めていて、全身に返り血を浴びた俺からも当然臭っているはずだ。
生で何キロも食べ続けるのも無理があるから途中ライターで炙ったりして趣向を変えたりもした。
とはいえ血抜きもロクにしていない生肉を食ったんだ、うまい訳が無い。おまけに全体的に埃っぽくてとても食えたものじゃない。
胸筋と腕の辺りは筋肉が発達していてかなり筋張っていたから食うのに時間が掛かった。おまけに顎が痛くなるし。
美味いと思ったのは背骨の中落ち部分と腹の辺りかな。この部分は比較的食べやすかったけどやはり生肉は生肉だ。低温のライターとはいえ火で炙った肉はどこの部位でもそれなりに食べられる。
とまあ人肉食のタブーを持って行かれた俺の感想は普通に食材に対するものだけだ。
腹も満たした事だし、ポンコツの尋問でも始めるか。
「すごいのぅ、わしはほんの少し忌避感が無くなる程度にしか抜き出しておらんのに、何も言わずともほぼ完食とはの。いやいや、お前さん素質あるんじゃないの?」
嬉しくない。いくら人肉食に抵抗がなくなったとはいえ、他の部分は真っ当な人間のままだから自分がイかれてしまったって事くらいは分かっている。
「で、なんでお前はそんな悪趣味なものとっていったんだよ」
「まあ簡単に言えば趣味だから、じゃの。ほれ、これを見てみろ」
そう言ってポンコツが懐、というか胸の谷間から取り出したのは小指の爪ほどの大きさの青い宝石だ。実にファンタジックな光景で大変よろしい。女の姿に変えさせておいてよかった。もし、男のままだったら股間から取り出していたのかしら。や、本当に女の姿で良かった。
「これがお前さんからもらった倫理観の一部じゃよ。綺麗じゃろう? わしはこの類の宝石を集めるのが好きでな、色々な人間から色々なタブーを頂戴して結晶化しておるんじゃ。ほれ」
今度は反対側の手を豊満な胸の谷間に突っ込み、引き抜いたその手には小山になるほどの色とりどりの宝石が乗っかっていた。
「じゃああれか、お前は色んな人間と契約しては倫理観を奪っていた訳か。にしては俺が肉を食ってるのを随分と楽しそうに見てたじゃないか、ええ?」
「見れるものはなんでも楽しむのが性分なんじゃよ、わし。あ、ちなみにいちいち契約なんて面倒な事はせん。黙って抜き取る。ま、お前さんと契約したのも対した理由は無くてな、単にここにいるのも飽いてきたところじゃったし、何より面白そうじゃったからのう」
やってる事が悪魔的すぎる。
「しかし、なにも倫理観なんてもんとって来なくてもいいだろうに」
「そう思うじゃろ? それがの、どうにも倫理観以外のものを抜き取った所で対した美しさもなくての。周りの者どもはそれがいいとか抜かしておるんじゃが、どうにもわしの趣味に合わなくてのう」
おいおい、こんな悪趣味な事が流行ってるとかどんな世紀末だよ。
「問題ない。大体はこうして別の世界で収集しておるからの、わしの世界は平和なもんじゃ」
「ちなみに一番綺麗なタブーはなんだった?」
俺の質問にポンコツは実に嬉しそうに悩み出す。どうやら久し振りに趣味の話ができて嬉しいようだ。元の世界の知り合いとは久しく会っていないらしい。
「そう言われると悩むんじゃがのぅ。ほれ、お前さんだってエロ画像フォルダに保存してある画像はみんなお気に入りじゃろ? その中で一番を抜き出せと言われるとな……」
……。
今まであまりに現実離れしていて実感のわかなかったこいつの話が、イカ臭い、いや生臭いほど身近に感じられた瞬間だった。というかほんとにこいつ何者なの……
「まあしいて挙げるとすれば二つあるの。一つは親を亡くした五人兄弟姉妹から近親相姦のタブーを頂いた時のこれと、後は奴隷商人が持っていたロリでショタな子供の奴隷から性に関するタブーを一切合切抜き取った時のこれじゃな」
答えながらポンコツが出した宝石は確かにとんでもなく綺麗な代物だった。
「その二件は友人と一緒に抜き取ったんじゃがの、抜き取った後のコトを見てたら相方がちょっとヤバイんじゃないのってくらい興奮しおってのぅ。あ、ちなみに相方、ロリコンでショタコンで近親相姦好きでしかも両刀使いなんじゃが」
なにその四重苦。
「わしにそのケはなかったんじゃが、相方のテクに押し負けての、柄にもなく女同士で……」
おい、頬を染めながら腰をくねらすな。胸の肉が腕と腕の間でぐにぐにと常に形を変えてとても、なんていうか、その、エロい。
ああくそ、こっちに召喚されてから溜まりに溜まってんだ、ちくしょう。今この場にPCに隠してある『戦場における心理学と弾道学の共通性』フォルダがない事が非常に惜しい。これは本格的に娼館に行くことを検討しなければ。