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16話

 薄暗い坑道を赤毛と並んで歩く。目的地は当然ここの出口だ。道中出くわしたゴブリンはあっさりと片付ける事が出来た。


「で、なんでこいつは外せないんだ?」


 坑道を歩きながら聞いてみた。


「耐久力を上げるエンチャントを付与しようとしたら失敗してのう。代わりに呪われてしまっての」


 呪われた装備品は外せないとか、どこのローグライクゲームだよ。ランダムテレポートとか発動しなきゃいいけど。解呪の巻物なんて持ってないしな。


「お前さん何を言っとるんじゃ?」


「なんでもねえよ。ところで結局お前は何者なんだよ」


 さっきははぐらかされたけどやはり気になる。契約した以上相手の素性くらいは知っておきたいだろう?


「しつこいのう。まああれじゃ、この世界の創造主サイドの者じゃな。正確には違うが、まあお前さんに分かりやすく言うとネトゲに不正アクセスしてるようなもんじゃ」


 こらまた近代的な単語が出てきた。結局こいつの正体ははっきりしないままだけど、これだけ分かれば十分だ。


「じゃああれか、俺を元の世界に戻したりもできるわけか?」


「無理じゃな。お前さんはこの世界の正規の法則に則って召喚されたんじゃ。覗き屋風情に出来ることと言えば遺物を作ってばら撒くことくらいじゃし」


 役に立たねー。


「ああ、言い忘れておったがお前さんと魔術師の契約じゃがな、わしとの契約に邪魔なんで破棄しておいたぞ。なに心配するな、わしはこれでも凄腕のハッカー……みたいな存在でな、痕跡は遺しておらん。向こうはお前さんが死亡して契約が解除されたと思ってるはずじゃよ」


「……ちょっと待て。なら俺はあれか、今死んでる事になってんのか」


「その通りじゃ」


 ふふんと大きな胸を張りドヤ顔してくる赤毛。うっぜえ……。クール系の見た目してる癖にいちいち仕草がガキくさいのがまたうざい。


「お前なに余計な事してくれてんの? これじゃメイドさんにセクハラできねえじゃねえか!」


 我ながら随分ひどい言葉だなとは思ったが、言わずにはいられない。

 赤毛は俺の声にびくっと震えながらも、涙目になって言い返してきた。超常の存在にしてはメンタル弱すぎないか、こいつ。


「じゃがな、解除しないでわしと契約したら二重契約状態になってお前さん弾け飛んでたんじゃぞ!? 直前で上手く気が付いた事に感謝して欲しいくらいじゃ!」


 気付いたの直前かよ。知らないうちに命の危険に晒されていたとは。というか弾け飛ぶってなに? 怖過ぎる表現なんですが。


「ああくそ、俺の人生設計が狂った!」


 ガシガシと頭を掻き毟る。もちろん籠手はアクセサリー状態にしてある。


「異世界に召喚された時点で随分狂ってると思うんじゃが」


 うるせえ。


「ちくしょう……。まあいい。何も国は一つだけじゃないからな。貴族の女に延髄切りでもかませばきっと感謝して屋敷だの爵位だのくれるに違いない」


 もうそうでも思わないとやってらんない。



 そんなくだらないやりとりをしてるうちに、あの悪夢のホールの入り口に辿り着いた。ここまでの道順はまったく覚えていなかったけど、長年この構造物に潜んでいたらしい赤毛の道案内で迷わずにここまで来れた。

 にしても今は亡き中川からの情報じゃこの構造物ができたのは半年前のはずだったけど。


「で、どうやってここを突破するんじゃ?」


「どうって、どういうことだよ」


「お前さんは神代級遺物を手に入れた事によって、あのトカゲを倒す攻撃力は手に入れた。じゃが向こうは六メートルもあって手負いで凶暴化しておる。いくらお前さんが凄腕の傭兵じゃからと言ってもあんな化け物に得物もなしに戦う術などないじゃろう」


 なんだよ、そんなことか。簡単じゃないか。


「近付いて脚の関節を壊す。倒れたら首を刎ねる。いくら化け物でも首落とされたら死ぬだろ」


 余裕ぶってそう答えたはいいものの、そもそも近付くことすらままならないのだからどうしょうもない。ボウガンは壊れたし、そもそも威力が足りないしな。


「そう上手く行くといいがの。ま、契約して早々死なれたらわしも困るしの」


「なあ、魔術で援護とかできねえの?」


「無理じゃの。そもそもわし、魔術とか非科学的なもの使えんし」


 ほんっとに役に立たないポンコツだなこいつは。

 まあ、こんな状況よりもっと酷かった事もあるし、これくらいなんとかする自信はあるさ。


 ホールに入る前に、そこら辺に転がっていたゴブリンの死体から首をもぎ取る。ついでに用途不明な小物類も拝借。


 さて、俺の戦争の始まりだ。



 †



 ホールに駆け込む。奴はだだっ広いホールの真ん中に座り込んでいた。のろのろと首をこちらに向ける。


「おらァ!」


 手にしたゴブリンの首を全力投球。手の中で僅かに潰れるような嫌な感触がしたが、ほとんど原型を留めたままの生首が回転しながら飛んでいく。くそ、撒き散らされた体液が顔にかかった。臭い。


 蜥蜴野郎の頭を狙って投げたつもりだけど、僅かに軌道が逸れて胸の辺りに着弾。頭は跡形もなく砕け散った。


「グォォアァァァァァ!!」


 大したダメージにもならなかったようだが、先手はこれでいい。というか座り込んでたんだから普通に忍び寄って切り殺せば良かった。


「久し振りだな、クソ野郎!」


 脳内麻薬の影響で気分が高揚している。あっという間に彼我の距離を詰め、サーベルを抜きながら逆袈裟に切り上げる。起き上がろうと地面についた蜥蜴野郎の右腕を縦に斬り裂いた。

 表面の鱗はかなり硬い感触だったけど、力づくで切る。が、この一撃でサーベルの刃はがたがたになってしまった。やはり相当硬い鱗だったようだ。


 蜥蜴野郎は支えを失って崩れ落ちたが、簡単に受け身をとって起き上がりやがった。


「オオォォォォアアァァァァアア!!」


 咆哮。が、前みたいには怯まない。こちとら轟音には慣れた人間様だ、爬虫類なんぞに怯んでたまるか。



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