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11話

 というかあのアマ、やっぱり自分の都合のいいように話を変えやがったな。ここにきての新キャラ登場は予想外だったが、あの女ならやりかねないことってくらいは分かる。


「あー、なんか認識に齟齬があるようだけど、君はなんであの時中川達と一緒にいなかったんだ?」


「あなたが間抜けにも単身帝国に乗り込んで迷子になった時の事ですか? その時私はこれを使いこなせるように師匠と一緒に修行に行っていたのです。それくらい察してください」


 いや、無理だから。俺にはESP能力とかないから。


「うん、随分認識に齟齬があるみたいだね」


 あくまでにこやかに、紳士的に返答する。さすがに顔面がひきつるのは抑えられなかった。


「お、おいカナデ。どうした、何をイライラしてるんだ? お前もっと可愛らしい性格だろ?」


 いや、たぶんこれがこのカなんとかさんの本性だから。お前の前じゃ猫被ってるだけだぞきっと。


「に、兄ぃ。急に可愛いとか言わないでよ……」


 顔を紅潮させ、モジモジしながらカなんとかさんが言う。なんか俺の中でこの子のキャラが安定してないんだけど、大丈夫なの?


「別に急じゃないだろ。普段から僕はカナデを可愛らしい妹みたいな女の子だって言ってるじゃないか」


 おお、なんというテンプレ的受け答え。ここまで来るといっそ清々しいぜ。


 で、なんでカナデなんとかさんは俺を睨むの? お前らが勝手にラブコメ展開してたのに俺が睨まれるっておかしくない?


「……兄ぃ、ほんとにこの人連れてくの?」


「ん? そのつもりだけど」


「あたし、こんな何も出来なさそうな人連れてくのは反対だよ! この人の面倒まで見きれないよ!」


 カナデとか言うぱっと見女子中学生にここまで言われる俺って一体。というか今の言い方だとこいつ中川一派の主戦力っぽいんだけど。見たところ武器とか持ってないから我流八極拳法でも使うのかしら。なにその金髪の吸血姫が出てきそうな設定。ちなみに俺はカレー先輩派だ。


「カナデだって修行して『白百合の腕輪』を使いこなせるようになったんだろう? 彼一人くらい増えたってお前はカバーしきれると思うけど」


 中川の言葉に八極中学生は、嬉しいような気に食わないような、面妖な表情を浮かべた。


「そ、そういう事が言いたいんじゃなくて……とにかく心情的な問題なの!」


「あまりわがまま言うなよ……一応、クラウディアと決闘して勝ってるんだぞ?」


「それは卑怯な手を使ってでしょ! あたし、クラウディアさんからそう聞いたもん!」


「……まあ、お前は現場見てないからな。確かに実力のわからない人と組むのは嫌だろう」


 そこで中川は言葉を切り、俺とカナデなんとかを交互に見た。


「あんたは後衛の部隊と一緒に来る。カナデはいつも通り前衛だ。今回は後衛の援護はしないでいい。これでどうだろう」


 どうだろう、じゃない。そもそも俺だって好きでついていこうとしてる訳じゃないんだ。業務命令だから仕方がないというだけで。

 だがこれ以上ゴネても仕方がないか。


「俺はそれで構わん。幸い自分の身くらいは守れるしな」




 城から五時間ほどのところにその構造物(ダンジョン)はあった。こんな近いところにあるとは思ってなかったが、なんでも半年前に新しく出現したらしい。

 パッと見はただの洞窟、ちょっとした木柵がその入口を囲うように設置されているのが特徴だ。


 今回の編成はこうだ。


 ・前衛

 中川、カナデ、オルミア、シェネル、オルミア、クラウディア


 ・後衛

 俺、兵士八人


 なんとまあ雑な編成だ。逆にこれくらい雑でもなんとかなりそうなくらいの難度って考えればいいのかな。


「じゃあ、行こう」


 中川が先頭になって前衛組が洞窟に足を踏み入れる。すれ違いざまにシェネルが「これが終わったら一緒に酒でも飲みましょう」なんて囁いてきた。あの、無闇なフラグ立てるのやめてくれません?

 前衛組が進入してしばらく経ってから俺を含む後衛組が動き出した。


「援護はしなくていいのか?」


「え? ああ、下手に前衛に近づくと俺たちまで焼かれちまいますからね。俺たちの仕事は前衛の取りこぼしの討伐と退路の確保です」


 見れば荷馬車に火の付いていない松明だの掘削道具なんかを積み込んでいる。


「なるほど、気楽なもんだな」


「強敵はみんな倒してくれてますからね。あとは素材を剥ぐだけです。そこらのガキでもできる簡単な仕事ですよ」


 俺の質問に答えてくれた兵士は豪快に笑っている。だからさ、無闇にフラグを立てないでくれ。こんなところで命の危険に晒されるなんてゴメンだ。

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