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7話

「わかりましたー。道具お願いします」


「はっ!」


エリュシアが一番近くにいた護衛の一人に声を掛けた。

その護衛が少し大きめのツールボックスを抱えて戻ってきた。エリュシアがその中からチョークを取りだし、カリカリと地面に魔法陣を書いていく。


「な、なぜここでやるのですか! ここは仮にも魔術師の城、儀式用の部屋くらいあるでしょう!」


「ここでもマナの濃度は十分ですよー。クレモンさん心配性ですねー」


言いながらもエリュシアは手を止めたりしない。ものの十分ほどで魔法陣を描き上げてしまった。

魔法陣は半径二メートルほどで円の中には複雑な星型模様が折り重なるように描かれていた。円の外周には半径三十センチくらいの小さな魔法陣が三つ等間隔に並んでいる。よく見ると星型の頂点のうち三つがそれぞれ小さい魔法陣の中心に収まっている。


「契約魔術をこんな片手間にやるなんて……」


中川の隣にいたヒサリアが呟いた。


「そういうもんなの?」


「え、ああ。僕も魔術に詳しいわけじゃないけどこれが常識的に考えてあり得ないことだってくらいはわかる」


や、そんな曖昧な答えは求めてねーんだ。ガンダムで例えてくれ。観たことないから例えられてもわからないけど。


「……要塞級数十体を単機で撃破するくらい凄い」


ああ、それなら分かるわ。面白かったよなあのゲーム。


「え、ゲーム? 僕はアニメでみたんだけど」


「は?」


「え?」


あれ、アニメ化したのって外伝だけじゃなかったっけ。俺が海外にいる間にアニメ化したとか……? まずい、円盤買わなきゃ!


どうやら俺と中川の間には深刻な齟齬が生じているようだけど、どうでもいい。エリュシアが次の行程に移っていた。

懐の頭陀袋から宝石かなんかの原石を小さい魔法陣の中に慎重な手付きで並べている。石は拳大の大きさしかないが決まった場所に正確に安置しなければならないのか、かなり時間が掛かっているようだ。まあ原石なだけあって形もぼこぼこしてるから手を離すと転がったりしてる。


「出来ましたよー。さ、この真ん中に立ってください。あ、線を踏み消さないようにお願いしますねー。どっか消されたら死んじゃいますから」


もうちょっと深刻そうに言おうね、そういう事は。お兄さん逃げ出したくなってきたよ。


逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だと頭の中で唱えながら魔法陣の中に踏み入る。途端、この世界に来てからずっと漂っていたあの甘い香りが一段と濃厚に感じられた。


「なんか、凄く甘い匂いすんだけど。なんなのこれ。こっち来てからずっと匂ってるし」


「匂い? ああそれはマナを感知してるからですよー。召喚された人は最初みんなそう言うんですー」


この世界の人間は当たり前過ぎて感じられませんが、とエリュシアは答えた。


「……そういうもんなの?」


本日二度目の言葉を中川に掛ける。


「僕の時もそうだったよ」


あれか、日本人は味噌の匂いか慣れ切ってるからわからないけど外国人はすぐわかるとかそんな感じか。分かりにくいなこの例え。


「なに、立ってるだけでいいの俺」


「じっとしててくれないと吹っ飛びますよー」


さっきより物騒になってるんだけど、どういうことなのお嬢さん。


ともあれぼーっとするのは得意だ。ホテルで嬢を待ってる時も……いや、この話はいいか。


指示通りぼーっとしているとなにやらエリュシアが呪文を唱え出した。今度こそ聞いたことのない言語だ。帝国のラテン語っぽい言葉とも王国に来てから耳にする言葉とも違う。上位古代語とかそんな感じのファンタジーな言語っぽそう。


詠唱が続いてる間、ただひたすら立っているだけなのは意外と辛い。

時間が経つに連れ、魔法陣が淡く光りだした。身体が熱くなってくる。


「終わりましたー」


気の抜けた声がして、俺はそちらに目を向けた。

汗だくのエリュシアがこっちを見ていた。え、もう終わりなん? もっとこう、ファンタジックなさ、なかったん?



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