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5話

「そういう問題じゃないだろ!? 相手は女の子なんだ、手加減くらいしてやってもいいだろ!」


 ほーん? なに、こいつが俺を撲殺する可能性があることは問題なくて、俺が軽く骨を砕くのは大問題と? いい性格してんじゃねえか、糞食らえ。


「あいにく俺は男女差別はしないんだ。相手が男だろうと女だろうと、骨が砕く必要があるなら砕くし、殺す必要があるなら容赦なく殺す男なんだよ、俺は」


 とはいえこいつ仲間の事になると頭に血が上るのが早過ぎるでしょう。そんなんじゃ長生きできないぜ。まあ俺はこいつが嫌いだしとっとと死んでくれても構わないんだけど。


「……あんた、最低だな」


「非常に残念なことに、そうでもなきゃ生き残れない環境にいたんだ。おたくにごちゃごちゃ言われる前に教えとくがね、世の中には女子供に銃持たせて爆弾抱かせて自爆させるクソ野郎がごまんといるんだ。自分の世界だけで物事を見るのはやめることだな」


 勢いに任せて支離滅裂な事を口走ってしまったが、俺も頭に血が上りすぎだな。こんな時こそクール・アズ・キューク、そしてテイク・イージーだ。意味はわからん。


「まああれだ、今回に限っちゃ俺の正当防衛だろ。下手に余力残しといたら後が面倒だし」


 じゃあな、と軽く手を上げて中庭を出る。騒ぎを聞きつけて増えたギャラリーを掻き分けて部屋に戻るのはかなりめんどくさそうだ。

 部屋に戻るのは諦めて物見櫓に上ることにする。後ろから中川の声がしたけど、無視だ無視。これ以上の厄介事はごめん被る


 木製の頼りない梯子を上り、櫓の上でタバコに火をつけた。手持ちのタバコが残り少なくなってきたから、シェネルから分けて貰った紙巻タバコだ。既に巻いてあるものを何本か作っておいてすぐに吸えるようにしてある。


 櫓の上には銃を持った兵士が二人、居心地悪そうに俺を見ていた。どうやら雑談している最中に来てしまったようだ。


「俺の事は気にせず続きをどうぞ。吸い終わったら降りるから」


 俺の言葉に二人は顔を見合わせた。


「なあ、あんたは魔銃を使って格闘戦ができるのか?」


「ん?」


 二人のうち背の高い方が話しかけて来た。


「いや、俺達もさっきの決闘をここから見てたんだ。あんたが使ってるそれ、銃の形してるだろ? その事について話してたんだ」


「なるほどね。まあ、なるべくならやりたくないけどそこそこ自信はあるよ」


 どっかの島国の連中と違ってほいほい銃剣突撃なんざ出来るわけがない。ないのだけれど、残念ながら三回ほどそんな連中と共闘するハメになって何度か付き合わされた事があるんだ。なんで輸送部隊の護衛任務で敵機関銃に向かって突撃しなきゃならないの……。あ、連中の入れた紅茶はとても美味かったとだけ言っておく。


「なるべくならって、そりゃどうして?」


「そりゃ銃の旨味は遠距離攻撃が出来ることだろ。銃剣戦闘は最後の自衛手段だ」


「なるほどな。確かにあんたの言う通りだ。ところで銃剣てなんだ?」


 そういやこの世界には銃剣って概念がなかったな。この二人も腰に白兵戦用の短剣を差している。


「銃剣ていうのは、銃口の先に着ける取り外し可能な刃物の事だ。時代にもよるけど、刺突用で刃が着いてないのもあるし長めのナイフみたいなのもある。物によっちゃ騎兵相手にも対抗出来る長さのもあるけど。

 あ、言っとくがお前らの持ってる銃じゃ銃剣戦闘は無理だぜ。銃が重すぎて振り回せないだろ」


 次の質問を予想して先回りする。


「お、おう。確かに重過ぎる。なあ、今の口ぶりからするとあんたがいた世界じゃ銃が発達してるのか?」


 やっぱり自分の商売道具についていろいろと知りたいらしい。


「まあね。だいたいの銃で二十発は連射できるな。射程もここのものよりだいぶ長い」


 平均的なアサルトライフルの有効射程が四百メートルはあるのに対し、この世界の銃の有効射程はおよそ五十メートルってところだ。おまけに単発だし再装填にも時間が掛かるから騎兵突撃にも一回射撃するのが限界だろう。そもそも生産にコストが掛かり過ぎて本格的な量産は当分先のことだろうし。地球で言えば初期のマスケット銃くらいのレベルだろうし。

 あ、わかってるだろうけどマスケット銃っていうのはどっかの魔法少女とか妖精の国の近衛兵やってる遊園地職員が持ってるのと違ってセミオートで連射出来ないからな。

 近いことするなら北欧の中二大王カール・グスタフ二世さんみたいに訓練させまくるしかない。


「二十発!? おいおい、そんな銃があれば二大陸統一も簡単だろうに」


「でもそんなの作れるわけないだろう。そもそも魔術師が足りないし、大量に作れる魔術師がいるならそいつに攻撃させた方が手っ取り早い」


 今まで黙っていた背の小さい方が言った。


 簡単にこの世界の銃について説明しとくと、火薬の代わりに燃素を詰め、火炎系の極小魔法陣を描いた撃鉄に当たる部品を叩きつけて点火、燃素の爆発によって弾丸を撃ち出す仕組みになっている。

 極小の魔法陣とはいっても直径五センチはあるし、耐久力のある素材を使わなきゃならないから必然と機関部の重量は増す。


 金属加工技術もまだ未熟なようで、銃身自体の重量もそれなりになるから気軽に振り回せる重量には収まらなくなってしまっているようだ。


 なにより五センチ程度の魔法陣である程度以上の火力を出せる魔術師が少なく、そんな高い技倆を持つ魔術師は戦場で攻撃系の魔術を使わせた方がよっぽど効果的だそうだ。



 白熱した議論に熱中する二人を放置して俺は櫓を降りた。どうでもいいが君達、議論に夢中になり過ぎて本来の監視任務を忘れないようにな。

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