3話
「やる気ないなあ。まあ最初からあてにはしてないけど」
「結構酷いこと言うんだね……」
そりゃこの間まで言葉通じなかったですし。
「それしても、なぜ歴史なんかに興味を持つの? 向こうの世界から来たのに」
シェネルはわずかに首を傾げながら聞いてくる。意識はしてないんだろうけど、その仕草はなんかあざとい。
「向こうじゃ学生だったからな。勉学が本業なんだよ」
「学生? 聖職者にでもなるつもりだったの? というかあれだけ戦えて学生って、冗談でしょ」
一度に二つの質問をするな。どっちから答えればいいんだよ。
「別に宗教に興味はない。俺の世界じゃ学校ってのは普通、数学だの歴史だのを教えるとこなんだ。聖職者になるための学校ってのはまた別にある」
どうやらこの世界じゃ学校とは地球でいう神学校のことらしい。まあ、中世っぽい世界だし。ちなみにヨーロッパの有名な大学、例えばパリ大学なんかは元々神学校だったという話だ。
「算術なんて商人くらいしか必要ないでしょ? それに歴史なんて平民は勉強する必要はないだろうし」
どうも認識の齟齬があるようだ。違う時代に生きる人間と会話したらこんなことになるんだな、とは思った。うん、いい経験だ。
「コウヘイも学校に行ってるって言ってたし、騎士団関係の貴族なのかと思ってたけどどうも今の話だと違うみたいね」
シェネルは一人で結論を出し、うんうんと頷いている。
「ところでこんなところで何をしてるの? さっきまで加工場にいたみたいだけど」
「頼んでた武器ができたみたいだから受け取りに行ってた」
軽く槍を持ち上げて答える。
「随分短い槍ね? そんなので戦える?」
「問題ない。下手に使い慣れない得物よりもよっぽどいいさ」
「同じ槍ならもっと間合いが広いのがいいんじゃない? 下手に中途半端なのはどうかと思うけど」
シェネルはこの世界の人間らしい意見を出して来た。彼女が言うことももっともだけど。
「普通の槍だと懐に入られたらまずいだろ? それに負けたところで別に痛くも痒くもないし」
物理的には骨の一本二本は折られそうだが。前線に近いだけあって優秀な治療要員はいるし、特に心配はしてない。名誉だのなんだのは興味ないしな。