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1話

 俺は今、中川達を召喚した魔術師がいると言う城にいる。

 城とは言ってもよくゲームとかで出てくる石造りのものではなく、丸太の城壁と土塁、空堀で囲まれた砦のような建物だ。地球の歴史の中で一番近いのは十世紀頃のノルマンディ地方の城だろう。

 砦の中央にある建物だけは石造りだけど、中川に聞いた話だと大昔の建造物を再利用したものらしい。要するにこの世界には石を正確に切り出す技術がないというわけだ。


 そのくせ、マスケット銃のようなものを城の衛兵達は背負っていたから本当によくわからない世界だ。やはり魔術があるかないかだと文明の進み方は違うんだと思う。うん、ますます王都の図書館が楽しみだ。


 貴重品らしいマスケット銃をなんとか手に入れることができないか考えていると、この世界の普段着に着替えた中川が近づいてきた。ちなみに俺はトゥニカのままだ。ジーンズと下着は着替えたけど、デリケートな部分がチクチクする。


「耳飾りが出来上がったそうだ。あんたの要望通り首飾りにしてある」


「そうか」


「そうかって……それだけかよ」


「王都にはいつ行けるんだ?」


「あのなあ……あんたはまだ魔術師と契約してすらいないんだ。王都に行けるわけないだろう」


「じゃああのエロい魔術師でいいじゃん」


「あの人は確かに凄腕だけど、さすがに他人が召喚した使い魔と契約はできないんだって。あんたを召喚した魔術師がこっちに向かってるから待ってろ」


 そう言われてもう一週間は経ってるんだけど。さすがに筋トレも飽きた。この世界じゃ徒手格闘の組手もできないし、俺の計画に必要な技術だから安売りはできない。


「そんなに暇なら剣術でも教えてやろうか?」


「お前のマイナーな剣術はいらん。あんな物騒な白兵戦なんて二度とごめんだしな。そんなことよりあの銃はどこで手に入る? なるべく大量に欲しいんだけど」


 中川は日本のマイナーな流派に所属しているらしい。どうでもいいけど。で、その流派の型と魔術を組み合わせて敵を圧倒するのが奴の戦闘スタイルだそうだ。ほんとどうでもいい。


「魔銃の事か? どうだろ、あんたの分くらいなら手配できると思うけど、大量っていくつくらいだ?」


「最低でも四十はほしいな。もちろんあればあるだけいいけど」


「四十!? ふざけんな、ありゃ貴重品なんだぞ! この城でも十挺しかないんだぞ!」


 ほらまたすぐ怒鳴る。そういうとこ直せってまじで。


「わかったわかった。とりあえず一挺で我慢してやる」


 計画が進んで来たら、殺してでも奪い取るけど、いまはまだいい。


「で、お前はわざわざそれ届けにきただけ?」


「そんなわけないだろ。クラウディアがあんたと試合したがってるって伝えにきた」


「嫌に決まってんだろバカじゃねえの?」


 なんで怖い思いしてあの女に付き合ってやらなきゃならんのだ。


「僕に言わないでくれ……どうしてもあんたと決着をつけないと気に食わないそうだ」


 お断りです。もう一度そう伝えようとした矢先、木剣を二本持ったクラウディアが城から出てきた。



「首飾りをつけろ、だってさ」


 呆れたように中川が言った。おい、諦めんなよ。この女を止めろって。


 どうやっても逃げれそうにないので、言われた通りに首飾りをつけた。首飾りの中央に嵌められた石が数秒間緑色に光った。こういう魔術的な風景にも慣れて驚く事もなくなった。


「で、これで通じるわけ?」


「ああ、きちんと伝わっている」


 俺の問いに答えたのは木剣を抱えたクラウディアだった。


「言葉も通じるようになったことだし、コウヘイ殿を通さず自分で伝える事としよう」


「別にそういうのいらないから」


 にしても不思議な感覚だ。耳に届く言葉はあの不可解な言語だというのに、頭の中ではきちんと理解できるってのはかなり気持ち悪い。慣れるまで大変そうだ。


「あの時は不意打ちだったからな。やはり正々堂々決着を着けたい」


 この手の脳筋は人の話を聞かないからな。話してて凄く疲れる。


「そらお前の都合だろ。俺には関係ねえ」


「ふん、臆したか。不意打ちしてくるだけあるな」


 この女自分に都合よく記憶を改竄してやがる!


「クラウディア、さすがにそれは」


「コウヘイ殿、あなたはお優しいからあの者を庇うのでしょう。それはあなたの美点の一つだが、いまこの場所ではあなたの為にならない。私に任せてください」


 さすがの中川も訂正させようと入ってきたが、クラウディアは気にも止めない。うわ本当にめんどくさい奴だ。この手の人間は自分の気が済むまで絶対に止まらない。


「わかったわかった。決闘は受けてやる。但し条件はこっちで決めるぞ」


「当たり前だろう。決闘の常識も知らないのか」


 知らないに決まってんだろ。


「……三日後の正午にここで。得物は自分が得意とするもので、殺傷力のないもの。魔術はなし。一本勝負で、相手を戦闘不能にするか相手が降伏すれば勝ち。異論は?」


「いいだろう。弓だろうと槍だろうと好きな物を使えばいい」


 やっと決闘を受け入れられて満足したのか、クラウディアは城へと戻って行った。


「……悪いな。僕のパーティに合流する時もあんな感じだったんだ」


「どんだけ血の気多いんだよ……で、お前は勝ったの?」


「負けたよ。この世界に召喚されたばかりの時だったから魔術が使えなくてね。向こうが一方的に火の玉投げて来て太刀打ちできなかった」


 騎士っぽい見た目と言動のくせにやることがゲスだ。魔術使用禁止を条件に入れておいて良かった。


「どうするんだ? 信じられないかもしれないけど、クラウディアは剣の腕は王都一とも言われてるんだ。多少の小細工じゃ正面から打ち破られる」


「一度勝ってるけど」


 俺の言葉に中川は目を逸らした。


「……あの時は彼女も頭に血が上ってたから。冷静になればあそこまで一方的にはならないはずだ」


 なら事は意外と簡単だ。頭に血を上らせればいいんだから。

 幸いな事に俺が一番得意とする武器を構えたらあいつは簡単に怒り狂うだろう。その光景をすると、ついついゲスな笑みを浮かべてしまう。


「まあなんとかなるさ。お前も楽しみにしてろよ」

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