16話
「らぁあああああ!!」
中川が叫びながら斬りかかる。うるせえ。クラウディアはまだ傷が痛むのか、動きにキレがない。いや、大して奴の動きを見たことがあるわけじゃないけど、俺と戦ったと比較して鈍い。
オルミアとシェネル……めんどくさいな、金銀姉妹が二人が囲まれないように補佐している。
ヒサリアは俺の隣に来てなにやら呪文を唱え始めた。杖は真っ直ぐ乱戦の方を向いている。
すると杖の先に嵌められた石が赤く輝きだし、魔法陣が浮かび上がってきた。現れた四つの魔法陣はそれぞれが回転しながら杖を囲む形で固定される。
驚いた表情でその様子を見ていると、ヒサリアは見下したようなドヤ顔で視線をこちらに向けてきた。なんだこいつ。
ヒサリアは魔術で援護するみたいだし、俺は俺の仕事をしよう。
ボウガンを構え、狙いを定める。荷馬車は停止しているので今度はちゃんと狙えた。
弾種は炸裂弾(仮)。中川の後ろを取ろうとしている騎兵の胴体に狙いを定める。あの威力なら鎧をきていたところで関係ない。
ところが放った矢は鎧に突き刺さったは刺さったけど爆発しなかった。
弾倉を確認してみても間違いなく炸裂弾だ。
まあ効かないなら効かないで仕方ない。ファンタジー的に魔法が効かないコーティングとかしてあるんだろう。なんも付けてない矢が爆発するなんて魔法、いや魔術だったか? どっちでもいいが、それくらいしかないし。
ちなみに俺が射った騎兵は衝撃で硬直したところをオルミアに倒されていた。
しばらく援護を続けていると、いつの間にか敵が八人まで減っていた。そのうちの四騎がこちらに向けて走ってきた。中川達には叶わないとみてこっちに狙いを定めたんだろう。金銀姉妹はそれぞれ敵と打ち合っていて対応できていない。俺がなんとかするしかないか。
騎兵は槍を捨ててさらに軽量化しているから、この距離じゃ一射がせいぜいだ。最初の一撃のようにこちらに駆けてくる馬の前方の地面に炸裂弾を射つ。これて一騎減らした。もう一騎をヒサリアが落馬させる。
当たらないことは承知で一発射って牽制する。少し動きが鈍ったおかげで同時に攻撃されるのは避けれそうだ。
ボウガンを投げ捨てサーベルを抜く。くそ、こんな物騒な白兵戦は嫌いなのに。いや、銃とか持ってないだけましかな。もう二度と銃剣突撃なんてしたくない。
「伏せろ!」
通じないだろうが、反射的に叫んでいた。
横薙ぎの一撃をサーベルで受け止める。衝撃で後ろに倒れこんだ。
すぐに立ち上がって二人目に向き合う。荷馬車がそこそこ高さがあるおかげで、こちらからも騎兵の首を狙うことができる。同じように繰り出された横薙ぎの攻撃を上に弾き、無防備な背中を斬りつけた。こいつ鎧をきてないな。
「もう一人!」
振り返った時、最後の一人がヒサリアの攻撃を受けて落馬するのがわかった。咄嗟に荷馬車から飛び降り、駆け寄って起き上がろうとしている騎兵の頭を蹴飛ばしてやった。すかさず無防備な首にサーベルをねじ込む。
俺がサーベルを引き抜くのと中川が最後の一人を倒すのはほとんど同時だった。
「すまない、そっちは大丈夫だったか?」
中川の言葉は俺ではなくヒサリアに向けてだったんだろう。俺はなにも答えなかった。
ヒサリアが何か答える。何を言ってるのかわからないが、特に興味もないのでどうでもいい。
「ありがとう、手間を掛けさせた」
「全くだ」
短く応える。
手にはまだ、サーベルが肉に食い込む感触が残っていた。アドレナリンがまだ分泌されている気がする。
警備会社にいた頃も、戦闘が終わってすぐは俺も含めて皆荒れていた。そりゃそうだろう、いつ死ぬかわからない命の遣り取りをしたんだから。むしろ平然と武器の点検をしているこいつらがおかしいんだ。
いや、白兵戦に慣れているから平然としていられるのかもしれない。死ぬ時は確実に分かるだろうし。
俺はなにを下らない事を考えているんだろう。生き残ったんだからそんな事はどうでもいいじゃないか。
タバコに火をつける。手が震えてまともに火をつけるのにマッチを三本も無駄にした。
クラウディアはバカにした表情で俺を見ていた。シェネルは心配そうにこっちを伺っている。
なんだよお前ら。俺をそんな顔で見るなよ。バカにするな。哀れむんじゃねえ。