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14話

 俺が中川のパーティと合流して最初にやった事は、帝国軍の輸送段列の襲撃だった。

 というのも連中が馬で移動していたのに俺の分の馬を用意していなかったのが理由だ。

 ちなみに、襲撃目標の輸送段列は荷馬車三台、護衛の帝国兵が二十名という比較的小規模な隊列だったこともあり、魔術を織り交ぜた奇襲で瞬殺できたみたいだ。俺はその戦闘には参加していないのだが。

 中川が荷馬のうち一頭の手綱を引いてこちらにやってきた。馬には既に鞍だのなんだのは取り付けてあった。


「馬には乗れるか?」

「いや、現代日本にいて乗馬の機会なんてそうそうないだろう」

「なんだよ、じゃあどうやって移動すんのさ」


 いや、そこまで考えるのがお前の仕事でしょう? お仕事を舐めてるの? ちなみに大学生になる前にしていた仕事では馬ではなくラクダに騎乗して仕事をする事も多かったんだけど、聞かれてないから特に伝えない。ラクダと馬じゃ勝手が違うだろうし。


「あの荷馬車に乗ってくってのはどうだ? 積荷を減らせばいくらか速度は出るだろ」

「それでもいいかな……。整備されてない道を行くことになるから早い段階で車輪が壊れるかもしれないけど、その場合は誰かの馬に同乗してもらう事になるけど」

「かめへんかめへん」

「だから、そういう中途半端な関西弁が一番関西人を怒らすんだって」

「そのネタはいいよ。一度聞けば十分」


 くだらないやりとりをしていると取り巻きの女の一人がなにやら中川に話しかけた。どうやら獲得した物資と捕虜の処遇について決めているらしい。金髪の、オルミアとかいう名前だったか。さきほどの襲撃じゃこいつも魔術を使っているみたいだった。魔術師のヒサリアとは違い、直接攻撃系の魔術ではなく、自分の身体を強化しているみたいだった。

 中川が日本語で答えた。自動的に翻訳されるからそれでもいいらしい。今回は俺に話の内容がわかるようにという気遣いだろう。


「連れて行く余裕はないから、僕たちが使える分だけ物資を残してあとは焼いちゃえばいい。捕虜は拘束を強めてそこら辺に転がしておけばいいよ。あ、荷馬車は一台だけ残しておいて」

 オルミアは頷き、荷馬車の処理に向かった。



 俺は立ち上がり、捕虜の方へと向かう。その中の隊長格の男の前にしゃがみこんだ。捕縛は俺が教えた方法でやっていて、下手に身体を動かすと両腕の関節が折れるようにしてある。中川に頼んでそのことを通訳してもらったからこいつらも抵抗はしないはずだ。ちなみに俺がその捕縛方法を教えた時、中川はドン引きしていたんだけど、今はどうでもいい。

 俺は隊長の懐をまさぐり、巾着を取り出した。中身を地面にばらまく。隊長は憎々しげに俺を睨みつけていた。

 金貨はなくて銀貨が十数枚、銅貨も二十七枚落ちている。どちらも俺があのコスプレ強盗を返り討ちにした時に頂いたものと同じ種類だ。俺は巾着に硬貨を戻し、隊長の懐に戻す。


 さて、これで用事は済んだ。俺が確認したかったのは最初のあの二人組が帝国の人間なのかどうか。持っている金の種類で判断しようと思ったからだ。中川から聞いた話だと、王国と帝国の間には戦争以外での交流はほとんどないとの事だった。一部の商人が海を超えて交易しているみたいだけど、そもそも自分たちの大陸でほとんど生活が完結できるためか、ほとんど数はいないらしい。つまり、帝国には帝国の通貨以外ほぼ出回っていないという事だ。例外は構造物(ダンジョン)に潜ることを生業とする冒険者くらいだとか。

 つまりあの連中が帝国人であることは確定的に明らかということだ。


 次に俺は物資の判別を手伝うことにした。とはいっても俺の目的は適当な遠距離武器が欲しかったからなんだけど。

 主に武具が積んであった荷馬車を漁っていると、ちょうどいい大きさのボウガンを見つけた。それほど大型でもなく、弦を引くためのハンドルもごく軽い。それらしい矢も見つけたんだけど……十五センチほどの長さの矢は、なんというか、すごく弾倉っぽい形の容器に五本ずつ収められているのだ。


「中川、こっち来てくれ」

「なに? ああこれか。ここの穴に弾倉を差して弦を引く。で……」

 何もない方向にボウガンを向けて中川は引き金を引いた。ボシュ、という何とも言えない音と共に矢が飛翔する。

「撃った後は弦をこっちの突起に引っ掛ければ自動的に次の矢が装填される」


 なるほど、セミオートのボウガンというわけか。この世界はよくわからない技術レベルだな。


「じゃあ俺はこれをもらおう。弾倉はあるだけ全部いただく」

「なら移し替えるのを手伝うよ」


 やっぱ中川はいい奴みたいだ。さすがは主人公属性持ち。


「それと、火を付けた後はなるべく早くずらかるぞ」

「わかってるよ、それくらい。……なあ、あんたって本当に大学生か?」

 俺の鍛え上げられた上腕二頭筋は服の上からでもその魅力を隠しきれないらしい。違うか。

「本当だけど。ほれ」

 財布の中に入っていた学生証を見せる。

「うわ、ホントだ。というかけっこう頭いいのかよ」

「学科を見てみろ、一番簡単に入れるところだ。目的は大学図書館だったからな」

「変な奴だな……。いや、そうじゃなくて」

「なんだよ」

 弾倉が入った最後の木箱を荷馬車に積み込みながら中川の方を向く。

「あんた、トラップとかって作れる?」 



「仕掛け自体は終わったぞ」

 トラップを作ること自体は簡単だったけど問題は火薬だった。まあそれも魔術で解決してしまったわけだが。なんでも燃素とかいう火薬っぽいものを使って爆薬を作ったらしい。

 今回作ったのは遅延性の爆薬だ。俺が持っていたタバコが大活躍してくれた。

 荷馬車の御者台に座り、足を組んでマッチを取り出す。ライターはガスが切れて使い物にならなくなっていたから中川にもらったマッチだ。

 ブーツの靴底でマッチをこすり、着火する。

 やっぱりいい仕事をした後のタバコはいいもんだ。

 中川たち非喫煙者に遠慮して風下でタバコをぷかぷかやっていると、取り巻きの一人、シェネルがこちらに歩いてきた。

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