13話
「というかそれで文字とかも読み書きできるようになるのか?」
「僕も魔術は専門外なんだけど、会話以外の言語機能は召喚した魔術師と契約することによって解除されるとかなんとか」
「またそれは面倒な。お前もいろいろ無茶やらされてんだろう?」
敵国に少数で潜入して目標を保護とか死んで来いと言ってるようなもんだし。
「まあ、それはね。でもまあ、僕も意外と剣を振り回したりするのは向いてるみたいだし、それにずっと習ってた剣術を実戦で使えるってのは嬉しいし」
なんとまあ好戦的な性格のようで。というかちょくちょく後ろに固まっている女達と言葉を交わしているんだけど、普通になめらかな発音だった。魔法ってすごい。いや、魔術だっけ? どっちでも変わらないか。
中川たちの話している言葉は俺が今いる地域、帝国だっけ? の言葉とは少し違うみたいだ。文法やら何やらははっきりとはわからないが、どうも同じ語族に属している言語らしい。
帝国語の方はだいぶラテン語に近い感じだったけど、中川たちが使っている言葉はだいぶ発音が違っている。ロシア語っぽい巻き舌にフランス語の鼻から息を抜くようなあの面妖な発音がかなりの頻度で使われている。確かに日本人が習得するのは難しそうだ。
「ところで、なんでお前はその魔術師とやらに素直に従ってるんだ? お前も俺みたいに突然連れてこられたんだろ」
これが今俺がもっとも聞きたいことだ。この間設定した目標が早々に達成されたおかげで行動の指針となるものがなくなってしまった。食料だのなんだのはこいつらについて行って魔術師とやらに集ればいいわけだし。
俺の問いに対する中川の返答は、到底許容できるものではなかった。
「そんなの、帰るアテがないからに決まってるじゃんか」
「なるほどなー。……え、帰るアテないの? 普通アレでしょ、魔王的なの倒したら帰れるとかじゃないの?」
「魔王なんかそうそういるもんじゃないし、仮にそう呼べるような存在がいたとしても僕たちが召喚されたこととは無関係でしょ。まあ戦えるなら戦ってみたいけど」
なんてこった。わかったことと言えば、帰り方がわからないというとんでもない事実と、この中川という少年が見た目からはちょっと想像できないレベルのウォージャンキーだということだけだ。ふざけんな。
ともかく、異世界転生ものの小説にありがちな『元の世界に戻る』という目標は立てられなくなった。なんとかしてこの世界で生き抜いていくしかないわけだけど、このままこいつらについていってこんなろくでもない世界に召喚してくれやがった魔術師サマにいいように使われるのは我慢がならない。
とりあえずその魔術師とやらに直接文句を言ってやりたいからひとまずは中川たちについていくことにした。あの妙な耳飾りを埋め込むのはゴメンだけど、読み書きができるようになるという魔術師との契約は魅力的だ。
そもそも俺は大学生だ。勉学が本業なんだ。まあ、元々大学の図書館で趣味である歴史だの神話だのの調べ物をしたいが為に入学したようなものだし、もとより卒業なんかに興味はなかったんだけど。
とはいえ俺の趣味を邪魔した代償は払わせなければ。具体的にはでかい公立図書館の利用権。異世界から人を拉致ってきて戦争にブチ込むとかする世界の神話やら歴史やら、絶対におもしろいに決まってる。
よし、目標は決まった。あとは行動するだけだ。
「じゃあ今すぐその魔術師とやらのとこへ行こうか。なに、お前ら馬で来たのか」
「えっ、今の話の流れで急になんでそうなるんだ!? あんたすっげー嫌そうな顔してたじゃんか!」
「人間てのは日々変わってくものなんだ。おら、お前もいつまでも寝てないで起きろ!」
「ちょっ、あんま乱暴に扱うなよ、怪我人なんだから! それに十分やり返したんだから満足だろ!?」
苦悶の表情を浮かべるクラウディアとやらの脇腹を軽くつま先で蹴ると、中川が慌てて割って入ってきた。
「なあ、中川よ」
「な、なんだよ」
ぽん、と中川の肩に両手を起き、小さくため息をついた。
「お前とは初対面だし、一応言っておきたいことがある。なにもな、俺は好きでこいつの両手両足を粉砕した訳やないねん」
粉砕、という言葉にドン引きした様子を見せる中川。
「そ、そうなんだ……。あと、エセ関西弁が一番関西人に嫌われるんだぞ」
「俺のモットーは専守防衛なんだ。やられたらやり返してオーバーキル、これを実践しただけなんだよ、わかってくれ。ちなみにこの女に対するわだかまりはもうない。骨踏み砕いてスッキリしたからな」
「めちゃくちゃ楽しんでるじゃねえか!」
さらに引く中川。まあ出会って何時間も経ってない男がこんなこと言い出したらそりゃ引くわな。
中川くんのキャラがブレブレ。




