12話
応急処置は終わったようだ。地面に寝かされた女……クラウディアだっけ? は苦しげに呻いている。ざまあ。
それにしても、なんでこいつだけ地球の名前なんだろうか。中川を除いたあとの三人は訳のわからん名前だし。
「それは彼女が召喚された地球人を先祖に持つ家系の出身だからです。僕やあんたみたいにこの世界に召喚されて定住した人間もかなり多いみたいだし」
「ちょっと待て。なに、召喚された人間てそんなにわんさかいるものなのか?」
普通一つの世界には一人しか勇者は召喚されないものだろう。
「え? えっと、僕が直接顔を合わせただけで十人ちょっとはいるかな」
「そんなにいるのか……」
実を言うと異世界だってわかった時はちょっとだけわくわくしてたのに……
「日本人だけじゃなくていろいろ外国人もいたな」
「召喚される条件とかってあるのか?」
「それは俺も聞いたけど、詳しくは教えてもらえなかったんだ」
こんな具合に中川から情報を引き出す。それをまとめるとこうだ。
・この世界は二つの大きな大陸があり、それぞれ王国と帝国に分かれている。
・この二つの国は対立しており、何年かに一度大きな戦役がある。
・この世界には多くの召喚された者がいる。条件は不明だが、人間は地球からしか召喚されない。
・辺境と呼ばれる地域にはエルフ……っぽい種族やその他もろもろのファンタジーっぽい種族が居住している。
・各地に構造物と呼ばれる迷宮があり、そこから魔物が溢れてくる。
・外界にはマナが漂っており、それを操れる者だけが魔術師と呼ばれる。魔術とは地球とは違った法則で動くだけ。魔術師は地球で言う科学者のようなもの。
・外界のマナと元から体内にあるイドを反応させて現象を発現させるのが魔術。
・中にはマナに関係なく魔術を発動できるものが存在し、魔法使いと呼称される。
・イドはどんな人間にも存在するが、それを自在に操るには長期間の訓練だけでなく個人個人の資質も大きく関係する。
……とまあこんな感じだ。魔術に関しては特に詳しく聞いておいた。もうこれから聞く機会なんてないだろうし。短時間にしてはそれなりに聞き出せたと思う。
「ところで僕からも質問なんだけど……なんでこの村に? というかその服はどうしたんだ?」
「ここから街道にでて北に五日ほど歩いたところにある村で頂いた。この村へは食料調達の為に来た」
返答は簡潔に。中川は話好きなのか、やたらと話が長かった。
「頂いたって……言葉とかはどうしたんだ?」
「言葉なんてわかるか。いろいろ単語を記憶したりしたけどな。金ならいくらか持ってるし。あ、そういえばなんでお前はあの女達と言葉が通じるんだ!?」
一番重要なこと忘れてた!
すると中川は左耳に付いた……というか埋め込まれた赤い宝石をあしらった耳飾りをみせてきた。
「僕を召喚した魔術師がくれた耳飾りだ。これを付けている者同士なら言葉が通じるようになる。城に戻ったらあんたの分も持ってきてやれると思う」
「いや、遠慮しとく」
即答しておく。
「は!? なんでだよ!?」
「そんな得体の知れない物埋め込むとかごめんだし。第一あんま不自由してないから」
本当の理由は別にあるが、中川に対して言ったことも真実だ。これ以上俺の身体に何かを埋め込むとかほんとに勘弁してほしい。