11話
日本語。日本語か。
「……」
口を開いてみたはいいものの、喉は凍りついたみたいに動かない。それでも、女が握ったままの剣を蹴り飛ばし、離させてから指を踏み砕くくらいのことはできた。
「もう十分だろう!?」
改めて声の方へ向き直る。
馬を降りてこちらへ走ってくる若い男がいた。高校生くらいか? 女と揃いの胸甲をつけ、腰には剣……いや、刀を佩いている。髪は茶色がかった黒髪で少し長い。その後ろには馬に乗った騎兵が三人いた。空馬も一頭いる。
三人のうち一人は黒いローブを着て杖をこちらに向けていた。他の二人は槍を持っている。
……とても魔法使いっぽいんだけど。少なくとも友好的には見えないな。まあ仲間を半殺しにされたんだから当然か。
「お前は……お前は日本人か?」
「そんなことより早く手当しないと! ヒサリア、こっちへ!」
俺の言葉を無視して少年は満身創痍の女のそばへ膝をついた。
俺は軽くため息をつくと、少年の襟首を掴んで立たせる。
「見境なく斬りかかってくるようなバカは死んで当然だ、『そんなことよりも』俺の質問に答えろ。お前は日本人だな?」
後ろで待機していた三人もこちらに来た。馬上から槍を突き出してくる。
何事か喚いているが、当然意味はわからない。無視だ、無視。
「……ああ、僕は日本人だ。あなたは一週間と少し前にこっちの世界に召喚された……合っていますか? みんな、槍を下ろせ。ヒサリアは治療を」
「召喚だなんだは知らないが、時期は合っている。俺を探していたのか?」
「……ああ。あなたを召喚したのは連合王国の魔術師だ。僕たちは王国と協力して構造物に潜ったり帝国の侵攻部隊と戦ったりしている。その王国側の手違いで帝国領に転移させられたあなたを探しに来たんだ」
魔術師ねえ。そら異世界なんだから魔術師くらいいるんだろうけど。ということは今治療しているこの少女も魔術師かな。杖持ってるし。いかにも「私! 魔法! 使います!」って感じのかなり自己主張激しい杖だし。ぐるぐる捻れていて、先の方には赤い宝玉が嵌められている。石突の方は細くなっていて、今は地面に突き立てられている。
少女の手は患部にかざされていて淡く赤い光を放っていた。なるほど、ああやって魔法を使うわけか。初めて魔法をみたわけだけど、特に驚きもない。あれかな、日本にいた頃ゲームやらなんやらで慣れていたからか。ただ、かさばる医療品を持ち歩かなくていいのは羨ましい。
襟首を掴んでいた手を離した。
「……そういえば、名前は?」
「え? あ、僕は中川航平だ。で、今治療しているのがヒサリア。されている方がクラウディア。で、あっちの―――」
中川が馬上の二人を示す。
「銀髪の方がシェネル、金髪の方がオルミアだ。あとここにはいないけどもう一人魔術師がいる」
「俺は冲野優一。大学生をやっていた。君は高校生か?」
親しくするつもりはないけど、情報は少しでも欲しい。それに早々に第一目標が達成されてしまったから次の目標を定めなきゃならない。
「ああ。僕は半年くらい前にこの世界に来た。それからは自分で仲間を増やしながら構造物に潜って遺物を集めたり、たまにこうやって帝国領に来ては帝国軍の基地を襲ったりしている」
「なるほどな……なあ、召喚された瞬間のことは覚えているか?」
「え? いや、幼馴染と一緒に学校から帰る途中に、気づいたらこの世界で目覚めたって感じかな」
その「幼馴染と一緒に」って情報はわざわざ言わなくてもいいのに。なんかこいつ主人公っぽいやつだな。というかまさにそれだ。主人公力カンストしてんじゃねえのってくらい主人公してる。なに、異世界に召喚されて? パーティメンバーは女で固めて? その上ダンジョンだかに潜ったり侵略者と戦ったり? おまけに武器は刀? 西洋式鎧に刀とか合わねえだろ。
というかあれだ。俺が大ッ嫌いなタイプな野郎だ。こいつ自身の性格やらはどうでもいい。そら女がわんさか寄ってくるんだろうから良いに決まってるさ。
だけど自分の置かれた状況に疑問もいだかず流されているだけなのに、自分で選択して今この場にいると思っていられる精神構造に耐えられない。あの岩と砂しかないあのくそったれな国で愛用していた仕事道具があれば、こいつの仲間ごとこいつを土に還してやれるのに。




