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3話

俺と一緒に第三軍団の宿営地に向かう人員は、三十人近くなった。俺の乗る荷馬車に加え、総督の娘用の馬車、さらに全員分の食料を載せた馬車が一台追加されたせいで第三軍団の駐屯地までの行程は三週間を超えるものとなってしまったが……。


それに加えて帝都から来た使者から、帝国がほとんど内乱状態にあると聞かされたせいで俺の胃に穴が開きそう。詳しいことまでは聞けなかったけど、正直軍団のところまで戻りたくない。どこぞの国にでも亡命したい。できないけど。





まず俺はトルニに現状の報告を求めた。なにをするにしても状況がわかんなきゃどうにもならないし。


「現在帝国内には連合王国軍を除いて四つの勢力が存在しています。

一つは皇帝派と称される勢力で、帝都の親衛隊と周辺の有力者の私兵が中心戦力となっています。まあ、数も質も大したことはありません。

次に北部諸侯が中心となった講和派です。既に連合王国に制圧された地域の有力者、主に北方蛮族と呼ばれている連中と連合王国からの支援兵が中心となっています。質も量も高く侮れない相手ですが、連合王国と帯同して行動いるため、現在は積極的な行動をとっておりません。

南部には反皇帝派と目される派閥が台頭してきています。南部の諸侯と東部の港湾地帯の守備隊が中心となっており、現在は帝都を目指して進軍中とのことです。装備、錬度、数のどれもが優れており、決して油断はできません。会戦になれば、まあ負けることはないと思いますが再起不能なほどの損害を受けると思われます。

最後にどの陣営にも積極的には関わらないでいる、我々のような中立派閥です。数の上ではどの勢力よりも多いですが、それぞれ個別に行動しており連立していないので戦になれば常に劣勢です

そして帝都ですが、それぞれの派閥が帝都内部の犯罪者どもを扇動しており、現在内戦状態にあります」


なるほど、なるほど。……やっぱり亡命したいなあ。


「ちなみに我々第三軍団ですが、現在皇帝派からも反皇帝派からも敵対勢力として認定されており、定期的に攻撃がある状況です。今のところは本格的な攻撃はありませんが、反皇帝派の連中に包囲されたら我々は終わりです。そのため、現在軍団長が交渉のために反皇帝派の拠点、アルギウムに出向中です」


「敵しかいねえ……。味方と言える勢力はいないのか?」


「第一軍団とは提携しています。我が軍団の騎兵隊(アウクシリア)を貸し出して東部の港を占拠した連合王国軍を攻撃中です」


ぬーん。もう考えるの嫌になってきたなあ。


「軍団長、いつ帰ってくるって?」


「もう一月ほどは掛かるかと……」


「よし、銃兵の中から二人成績優秀な奴を選んでくれ。特別任務に行くぞ」


「え、は、はい!」


軍団長がいないんなら好き勝手にやるチャンスだ。俺はちょっとばかし用事を済ましちゃいたい。


というのも、帰還途中に実に嫌な噂を耳にしたんだ。なんでも、帝都に侵入していた召還者のグループが重傷を負いながらも連合王国の支配領域に帰還したんだとか。


帝都に侵入してた召還者とかもうあいつらしかいないわけだし、今後絡まれるのも嫌なのでいい加減始末をつけたい感じ。それ以外にも、東方大陸から連合王国の銃兵部隊が上陸してきたとかいう情報の確認もしたいし。





「イェンナです。よろしくです」


「サミ・エスコラ、参りました!」


トルニが選んできたのは、現在再編中だという俺の部隊に所属している二人だった。再編されていることも知らなかったので、当然初見だ。


イェンナは黒髪を肩口で揃えたショートカットで、背は百五十センチと少しくらい、帝国軍銃兵に支給されている軽鎧を着ているけど、色んなところを改造しているようだ。弾薬盒を二つ右の二の腕に追加で取り付けられ、腰部にはナイフがひい、ふう、みい……六本追加で挿さってる。脇差ぐらいの長さの短剣も一本吊ってるな。背もこの世界の人間にしちゃ小さい。瞳は薄緑色だ。


隣に立つサミのガタイと比べると、半分くらいしかない。ようにも見える。


サミは分かりやすい。こいつは脳筋のパワープレイヤーだ。二メートルちょっとある身長に鍛え抜かれた実用重視の筋肉の組み合わせを見れば誰だってそう思う。なのにこいつは銃兵用の軽鎧を着て銃を持っている。


「敵地に侵入するということでその方面に長けている者を選定しました。イェンナは単独での生存能力、索敵能力に優れています。サミは、まあ見ての通りです。あと意外にも狙撃の才能があります」


ほんと意外。なんだったら銃を理解しているかも怪しいと思ってた。


「はっはっは! いや、義兄殿は冗談がきつい!」


「は?」


義兄?


「おい、こいつ……こいつらとの関係性を教えろ」


「サミは妻の弟です」


えっ。いや、どうみても三十代なんだけど……


「彼は私と同い年ですよ、妻が一つ年上なので」


ええ……

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