表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/111

23話

 手斧や、長い棒の先にナイフを括り付けただけの即席槍、鉈なんかを突きつけられて、傭兵達は戦意を喪失したようだ。武器を地面に投げ捨て、両手を上げたりその場に座り込んだりしていた。おや、生き残りの中にはあのニコくんがいるじゃないか。


 街の住民達は武器を取り上げてそれなりに手際良く傭兵達を縛り上げていく。まだ戦う気なのは、片膝をついた傭兵隊長だけだった。


「さあ、隊長さん。あんたの部下達はもう懲り懲りだって言ってるぜ」


「まだ、マルコーがいる」


 にやりとシェフが笑った瞬間。


 衝撃波が来た。


 いや、違う。これは……雄叫び? 信じられないが。なにかバケモノの叫び声だ。怒りや悲しみ、諦めとか妥協とか、考えうる限りの負の感情が込められた叫び。聞きようによっては断末魔にも聞こえる。

 だけど断末魔にしては、あまりにも生命力に溢れていた。


 俺も街の住民も、守備兵達も衝撃波に倒れる。


 不愉快な叫びはたっぷり十秒以上も続いた気がする。

 叫び声が止んだとき、街はいやな静寂に包まれていた。全員が全員、音の発生源……城館の方を見ていた。


「ははは! いいぞ、マルコー、こっちに来い!」


 一際大きく傭兵隊長が叫んだ。


「はははははは! これでお前たちも終わりだ!」


 なんか傭兵隊長が急に小物臭く見えてきた。


「っ、エヴァニア、連中の武器を奪って屋内に隠れろ! 守備兵で戦える者は俺についてこい!」


 俺は近くに落ちていた円形の盾を拾い、守備兵達を引き連れて城館へ向かった。


 城館のへ続く一本道の途中、門を塞ぐように何者かが立っている。両手にはボロ布のようなものを下げていた。

 よく見ると、ボロ布に見えたのは総督とその嫁さんらしい。ううん、あれはもう助からんね。見るからに死んでるし。すごく逃げたい。


 だけど敵は一体だ。数を生かして取り囲んで、他の連中を囮にして首でも捻じ切ってしまえばさすがに殺せるだろう。うん、完璧な作戦だな。実現が限りなく不可能に近いってことを除けば。


「槍を持っている者は前に出て奴を取り囲め。弓手は後ろからどんどん射かけるんだ」


 とりあえず命令を出す。


 化け物は一際大きく咆哮したあと、こちらに向かって駆け出してきた。図体のでかさのわりに随分速いな。それでも全身鎧を着た騎士くらいの速度しか出てないけど。


「怯むな! こいつさえ殺せば終わりだ!」


 咆哮に怯えて足を止めかけた民兵を叱咤し、俺も剣を抜いて走り出した。


 民兵が持つ槍のほとんどが、穂先に敵を引っ掛けるためのスパイクが付いている。民兵達は地面に引き倒して袋叩きにするつもりのようだ。


 槍を突き出されたマルコーは、両手に持っていた死体を投げ捨て、槍の穂先を握る。そのまま民兵を引き寄せると、一人は肩から斜めに引き裂き、もう一人は首筋を噛み千切って殺す。おいおい、あまりにもショッキングすぎて言葉が不自由になっちゃったよ。おっかねえ。


 マルコーはまた雄叫びを上げて、今度はこっちに突進してきた。それに巻き込まれた民兵が踏み潰される。


 振り下ろされた鉤爪を剣で受ける。篭手の効果で腕力は強化されているけど、それでも受け止めるだけで精一杯だ。


「くそ!」


 腹を蹴飛ばしたけど、トラックかなんかのタイヤを蹴ったみたいな感触しかない。当然マルコーには効いていなかった。

 剣を掴まれて引き寄せられる。とっさに手放したけど、今度は両肩を掴まれた。乱杭歯を剥き出しにして化け物の口が首筋に迫る。


「ああ、ああああああああああ!」


 右腕を無理矢理持ち上げて、マルコーの口の中に指を引っ掛けた。がちん、と嫌な音が鳴って口が閉じられるが、篭手は傷つくこともなかった。呪いがかけられたりしてる不良品だけど、今のとここの耐久性だけは信用できる。


「おら、死ね!」


 腕を思いっきり下に引く。マルコーは顔を下に下げられ、堪えきれなくなったのか俺の両肩から手を離した。左手でマルコーの額を押さえ、右腕を力の限り下に引いた。


 めきめきと、およそ生き物が立てない音をさせてマルコーの下顎が破壊された。


「アアアァァァァァァァァ!!」


 叫ぶと、マルコーは後ろに跳び下がった。両腕をだらりと下げて、警戒するようにこちらを睨みつけている。


 おいおい、まだ元気なのか。あの時構造物(ダンジョン)で殺した蜥蜴よりも頑丈、っていうか生命力がある。まあ、首を落とせば死ぬだろ、たぶん。


 とりあえずは両手両足を使えなくしてからかな。じゃないとどう反撃されるか分からない。


「うおおおおお!」


「あ、馬鹿よせ!」


 民兵が三人ばかり突撃した。マルコーは重傷を負っているとは思えない俊敏さで三人を血祭りに上げると、民兵が取り落とした槍を両手に構えた。

 明らかにバーサーカーなのに武器を扱う知恵まであるとか、反則じゃないのかな?


 俺も剣と盾を構え直してマルコーと向き合った。


「ガァァァ!」


 力任せの一撃を盾で受け止める。腕の骨と盾が軋む音がした。


 攻撃を受け止めたり受け流したりしながらなんとか反撃の機会を窺う。


 右手首の内側を切りつける。マルコーは槍を取り落としたけど、構わず向かってきた。


 振り下ろされた槍を盾で受け止めた。槍も折れたけど、俺の盾も砕けてしまった。おまけに左腕がじんじん痺れてる。剣を突き出し、半身に構えて牽制。


 マルコーも槍を投げ捨ててボクサーみたいな構えを取る。投げた槍は民兵の腹を抉って近くの家の壁に突き刺さった。

 それを見た民兵達は、遠巻きに槍を構えて囲んでいるだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ