第3話
放置ごめんなさい、続き書けるか分かりませんがとりあえず出来た所まで。
第3話
広さだけが無駄にある誰もいない教員室で僕はテストの答案と解答、そして受け持つクラスの名簿とにらめっこを続けていた。この施設の教師は僕以外いないらしい。名簿の彼女たちの情報を確認していこう。まずは、最前列に座っていてため息をつきながらではあるものの、僕を助けてくれた茶髪でショートヘア―の女の子からだ。
鮎川茉莉 罪状:サイバーテロ(無罪判決)
父親、鮎川 憲吾にウィルス作成と散布を命令され、実験として日本の○×商社のデータベースをすべて初期化する。その技術を海外に売ろうとした鮎川 憲吾は死刑を待たず極秘で殺害。そして娘の茉莉も逮捕されたが、司法の判断としては彼女に罪の意識の有無、父親から命令されていたことを念頭におけば罪は問えないと言う判断であった。
しかし、彼女の技術は海外からも評価されており、野放しにすれば海外のサーバー攻撃の主力になりかねない危険性もあった。そして、彼女の技術を逆に守りに応用すれば海外からの大半のサーバー攻撃を防げると言う理想もあり、彼女を少年院で保護する形を取り外に出さないことにした。
警察の保護下にいるだけであり、首を振れば何時でも出て行くことが可能だが、鮎川茉莉はこれを了承した。そのため、施設の受刑者には入室できない部屋に入室できるなどの特権を持っている。
名簿の説明を読んだ後、彼女の解いた解答を確認する。予想通りと言える満点の解答であった。字もコンピューターで入力したような正確な字でとても読みやすい。自分から出て行く事ができる、彼女だけは他の生徒とは異なり特権がある。彼女はこの施設の中では特別な人間だと言える。
しかし、自分から出て行けるのに出て行かないのはなぜかはこの調書からは読み取れなかった。出て行かれると困る警察が何かしら蜜を吸わせてるのだろうか? それとも彼女はここにいる事で都合の良いことがあるのだろうか? 鮎川さんの解答の答えあわせが終わり、名簿の次のページ、次の解答用紙に目を通す。
堅剛エリカ 罪状:殺人
堅剛組の組長 堅剛虎鬼門の娘。しかし養子である。堅剛組は警察とも上手くやっており、上層部と堅剛組の間ではお互いに協定が存在する。その協定において、組同士の抗争で大量殺傷が起きた場合、カタギの人間を納得させる建前として組から逮捕される人間を警察に突き出すと言うもの。
その中で敵の組の20人の人間を殺害した事により、建前として逮捕されに来た人間が堅剛エリカであった。なぜ組長の娘である彼女が逮捕されに来たのか疑問が残る結末だった。証拠としては彼女が犯人である証拠は何一つない。しかし、協定に沿っているため彼女を逮捕するに至った。
解答用紙を見ると不良娘らしいと言えばらしいすべて白紙での提出だった。本当に分からないのか、やる気がないのか白紙ではうかがえないが、恐らく両方であると推測した。名簿の説明を見るたびに警察の膿のようなものが見えてくる。こんな機関なら僕を痴漢と間違えるのも当たり前だと思ってしまった。
NO.7080 罪状:最重要機密事項
自分の身元に関する情報を日本人であること、組織にいた番号と愛称の「ユエ」しか分かっていない。組織の名前は「トラベリン・マータ」世界の各地で殺人を生業とする組織である。
通称トラベリンは組織の柱となる人間を育成するために、世界各国から子供を買い取り、殺人鬼への育成をおこなっていた。ユエもその一人であると推測される。ある事件(最重要機密事項のため記述不可)により警察が身柄の拘束に成功した。
僕に鉛筆を投げたあの子が本当に殺人鬼であることを再確認した。解答を見ると所々ミスがあったがほぼ満点の点数だった。不良の娘以外は基本的に優秀なので、教師としての僕の役目はほとんどなさそうでその部分だけは安堵した。そしてそもそも来ていない4人目の生徒は体が弱いらしく中々学校に来ることができず部屋で寝ているそうだ。彼女の解答はないので名簿だけ確認する
山本 椎 罪状:無差別殺人
○○高校に通い飲食店のアルバイトをしていたが、トリカブトの毒を飲食物に盛り30人の人間を一斉に毒殺した罪で逮捕された。体が弱くなったのは院に入ってからで原因は不明である。
特筆する事項がないのか彼女の説明は簡潔なものだった。しかし、簡潔ながらかなりのインパクトがある内容だ。そもそも学校に来ていないので容姿も分からないが、彼女とも打ち解ける必要があるので頭にとどめておこう。
名簿や解答を見てさらに彼女たちと打ち解け仲良くなれることに自信がなくなる。ここの生徒たちに関しては謎も多いが、進藤さんの言う通り、諦めたら死ぬだけなのでもう一度気合を入れた。
テスト返却と進藤さんが決めたカリキュラム通りの授業を行うため。気が重くなるが教室へと入っていく。3つの鋭い視線が僕を突き刺してきた。もう一人はやはり今日も欠席のようだ。
「では今日の授業はテストの返却とその解説だ、名前を呼ばれたら取りに来る様に」
「鮎川さん」
「……はい」
「満点じゃないか君は頭が良いんだね」
「こんな人を舐めきったテストをやって。頭良いとか言われても嬉しくないんですが……」
褒めて距離を縮めようとしたのに、逆効果にも程があったようだ。当然、気まずくなりそのまま解答を渡すと、彼女は溜息を吐きながら席に戻っていった。
「堅剛さん」
「....あん?」
反応はしたが立ち上がってすらくれないので声を掛ける。
「白紙だったけど何も分からなかったのかい?」
「こんなのやってもしょうがねーんだよ、そんな用紙山羊にでも食わせとけ! なんならあんたが今食うかい?」
渡そうとしても無駄だと悟り、そのままテスト用紙をファイルに戻した。
「ユエさん」
返事すら返ってこなかったので教室が静寂に包まれる。聞こえてないのかと彼女を見ると真っ直ぐ僕の方を見ているので聞こえない振りをしているのだろう。それに耐えかねた鮎川さんが立ち上がり僕からテストの用紙を奪い取ると彼女にテスト用紙を手渡し自分の席へと着いた。
「ええーと、それではテストの解説をしていきます。」
進藤さんに言われたとおりのカリキュラムで授業をしていくが、堅剛さんは開始5分でスヤスヤといびきを立て始めた。開始10分で鮎川さんは一番前と言う場所でありながらパソコンにしか目が向いていない。パソコンを少年院にいる彼女が持っているのは一応保護扱いだから自由と言う事なのだろう。一方、一番後ろの彼女だけがまともに聞いてるように思えるが、先ほどからずっと僕に対して殺気を向けている。初めての教師としての授業は最初から学級崩壊状態だった。
「では終わりです、明日までにさっき配ったプリントを提出してください」
教室を出た瞬間深い溜息を吐いた。一応、休憩として教師は塀の外に出ることができるので、コンビニに買い出しにいくことにした。
コンビニでソックスコーヒーと、夜飲むために缶ビール、中学の頃から読んでいる週間少年JMSC。糖分が欲しかったので板チョコを買った。コーヒーをコンビニの前で飲むのは会社で勤めていた頃も同じだった。疲れているのにこれから残業や飲み会があるとき、仕事で失敗したとき、警察から解放されてすぐのときも、コーヒーを買ってすぐに飲んでいた。
コーヒーが疲れやこれからの不安要素を全て底の見えない闇の中に沈めてくれる。そんな感じがするから。これは今は転勤した会社の先輩が教えてくれたことで、これまで今まで色々なことを乗り越えてきた。確かに今のままじゃまずいし、この仕事を続けていく自信がつく前に僕が壊れてしまうかもしれない。
けどまだ始まったばかりだ。何か状況を打破できるチャンスがあるかもしれない。根気よくやっていけば必ず何か変わってくれるはず、もちろん根拠はないが、そう思ってなにか行動をしなければチャンスすら回ってこない。先輩の言葉通りコーヒーに嫌な物を沈んだ気がして、少し元気が沸いてきた。
しかし、僕の願いとは裏腹に、特に何も進展も事件もないまま3日が過ぎた。今日も進展がないまま終わってしまうのだろうか……そんな不安が頭を支配する中、転機が訪れた。
帰り支度を済ませて寮に戻ろうとすると、鮎川さんが寮とは逆の方向に歩いていくのが見えた。そう言えば、僕は授業が終わった後の彼女たちのことを知らない。いくら彼女たちが罪人とは言え女性の部屋に用もなく入るのはできないし、人によっては殺されることを覚悟した方が良いレベルだ。
ルールとして授業が終わったら寮に戻ることが原則だ。彼女たちが何時も守っているのかは知らないが、一応ルール違反なので付いていく理由はある。僕は先生としての名目を持ちながら、行動を起こしたい一心で彼女の後をついていく事にした。
続く