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A CAGE ~囚われた4人の少女~  作者: 7%の甘味料
鳥籠に囚われた少女たちとの出会い
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第2話

最近続きを書く時間がなくてとうとうストック切れを起こしました。

なので更新間隔は多少は空くかもしれません。


第2話


 車で連れてこられたその場所は森の中にあった。身長の10倍くらいの高い塀によって、視界を阻まれており、ここからでは中の様子を覗く事はできない。しかし、この時点で重苦しい雰囲気が漂っていた。建物の前で車が止まり、ここまで黙って運転をしてきた警察官が進藤の方を見て初めてを口を開いた。


「進藤さん着きましたよ、私は署に戻って残りの仕事をこなしてきます」


「ああー、わざわざ送ってくれてありがとね」


「私は進藤さんには恩があります、今こうしていられるのも進藤さんのおかげです。それでは失礼します」


 どうやらここまで運転してきた警察官は進藤に恩があるらしい。後がないから頼みを聞くとは言ったもののこの男をまだ完全に信用できていなかったが、もしかしたら、口が悪いだけでそこまで悪い人ではなく、彼の言ったように約束は守る人なのかもしれない。まぁ……そう思わなければやっていけない。


 叩いて壊せるはずもない黒光りした門の真横の場違いなカラフルな機械に、進藤さんはカードを入れ黒い門を開いた。その先に広がった光景は、僕が思い描く少年院の姿ではなく普通の学校の様に見えた。そこそこ大きな校舎に、その横に寮と思われる建物が並んでいる。


「この施設生徒数が4人の学校にしては立派でしょ? 実はここ元々4人で使うわけでもなかったんだよね」


「そう言えばあなたが例を出した生徒の中でもういない人もいると言ってましたよね、それって辞めたり何かがあったってことなんですか?」


 その質問に進藤は少し気まずそうな顔をして目を背けた。踏み込み過ぎたかと反省したが、進藤は諦めた様子で話し始めた。


「元々はこのプロジェクトを決めた上が悪いんだけど俺の管理責任でもあるからなぁ、まぁ君もここで教師をやるんだからこのプロジェクトの概要について説明しておこう」


「まずこのプロジェクトは、未成年の中でもトップクラスの犯罪を犯した人間を集めて教育し社会復帰させることが目的の特別な教育機関なんだ。元々規模として1クラス40人編成で、最初は1クラスのみでスタートしたんだよ。つまり元は40人生徒がいたって事だね」


「40人が4人って10分の1じゃないですか……いったい何があったんですか?」


 進藤さんにしては歯切れが悪そうに続きを語り始めた。


「まぁこのプロジェクトのミスなんて馬鹿だって分かるさ……男子と女子20人ずつでクラスを作りました、中は犯罪者だらけです。学校としての運用を遵守しているので校内なら比較的自由に行動できます、何が起こると思う?」


 そう聞かれれば中で何が起きたのかどうしてクラスの人数が4人なのかは誰だって想像がついた。


「……配給された食料の略奪や理不尽な暴力や喧嘩、はたまた異性への強姦行為までまさに無法地帯。ボランティアできた教師が同じ目に合う事もあったり、しかもあいつら頭良いから俺に現状を報告するはずの警備員に嘘吐かせてたとかでもう滅茶苦茶」


「今残っている20人近くを殺して捕まった不良が男9人をリンチして病院送りにしたことで内部事情が俺にばれて、生徒の内36人は学校の推薦から辞退して結局上はプロジェクトを来年以降中止と表明した。残り4人の世話を俺が受け持ったってわけ」


 この人の話が事実だとすれば、警察の上の人間の想像力のなさを疑いたくなる。しかし、一応この人も上層部の人間であると最初に言っているのに、どうして得にもならない廃棄されたプロジェクトの後始末を請け負っているのだろう。さっきの質問も答えにくそうにしていたし、今この質問をしても答えてくれないだろうと思ったので心に留める事にした。


 校舎内へと入ると意外と綺麗な空間であることに驚いたが、なぜか壁に鉛筆が深く刺さっていたり、思いっきり落書きがされていたり、先ほど耳にした惨劇を彷彿とさせるような痕跡がわずかに残っていた。1階、2階、3階と階段を上がり、最後の3階の奥の教室だけ電気がつけられているので、この教室に4人の生徒がいることを察する。


「ここで自習をしている、警備員が扉を塞ぎながらね。大丈夫だよ、今の生徒達は辞めた生徒みたいにチンピラみたいな奴らじゃない。いざとなったら警備員の首へしおれるくらいの戦闘能力あるのいるけど、多分そうはならないから……多分ね」


 それって、警備員なんてなんの意味もないよってことじゃないか。何もないのに怒ることはしないのかもしれないが、地雷に触れたら命がないのではないかと思い足がすくんでしまう。これまでも死を近くに感じていたというのに、本当に死ぬ危険が近くにあると知ると怖がってしまう自分を情けなく思った。


「今日は挨拶だけだし俺もついていってやるから、まぁ授業も素人にでもできるカリキュラム組んであるし君のすべき事は仲良くなる事だからね」


 この人の依頼は教師として仲良くなる事、つまりただ教師をするよりもハードルが高い、しかも相手は人殺しかもしれない犯罪者だ。しかし、先ほど僕は公園で決意を固めた、のたれ死ぬくらいなら足掻いた方が良い。同じ死ぬにしても足掻いて死ぬほうが良いと決めたのだ。なら覚悟を決めて仕事をやるしかない。僕は大きく深呼吸をして教室のドアを開け入っていった。


 教壇に立つ前に生徒を見てしまうと逃げ出してしまうかもしれないので、僕は前だけを見て教壇へと向かう。当然全ての視線が僕に注がれているだろう。しかし僕は教壇に立ったとき初めて前を見る。そこに3人の少女が座りこちらを見ていた、話では生徒は4人いるはずだが、今の僕にはそれを気にしている余裕はない。


 教壇に一番近い前の席に座っている眼鏡をかけたショートヘアーの娘は、なぜかパソコンを机に置いて横に自習でやるように言われていたのだろうかプリントを解き終わった状態で積んであった。


 その後ろに背中まで伸びた赤髪で、机に足を掛け前の娘が終わらせてある自習用のプリントを未記入の状態で散乱させ、こちらを見下すような目つきで見つめている身長が170くらいはありそうな娘。明らかに強い女と言うオーラをまとっているが、この娘が進藤さんの語っていた不良なのだろうか。


 そして他の娘と違い一番後ろに座っている銀色の髪をした女の子、一見髪の色以外普通にも見えるが素人の僕でも分かる殺気のようなものを僕に向けているのが分かった。なんで後ろに座っているのと言い近づいたら、殴られるだけで済めばいいが、命に関わることが起こる……下手は発言はできない。


 彼の話を聞いた限りでは、女子が全員辞退したのかと思われたがその逆で全員女子である事に多少驚きながらも自己紹介に入る事にした。


「今日からここで教師をさせていただきます、青山輝樹です。よろしくお願いします。」


 驚くほど反応のない教室の雰囲気、僕などお呼びじゃないと言う無言の圧力を感じた。しかしここで飲まれてしまっては前に進めないので強引にそれを振り払う。


「では簡単な自己紹介をしま……」


「帰れ!!」


 突然言葉をさえぎられたことにより、僕は矢で射られたかの様に止まった。帰れと発したのは赤髪の不良のような娘で、こちらを睨みつけている。


「てめぇの事なんか興味ねーんだよ、挨拶は済んだだろう帰れ!」


 下手な対応すれば殴りかかってきそうな気迫でこちらを見る彼女に対し、彼女と仲良くすることが不可能なのではないかと思い始めていた。僕が対応に困っていると、進藤が前に出てきて彼女に近づいていった。


「そのくらいにしてやれー、おまえもここの状況はわかってんだろあんまり喧嘩腰だと何かしら処置をとるぞ」


 その言葉により僕を睨みつけるのはやめて、何か言葉を吐き捨ててそっぽを向いた。


「後、青山先生が学力を調べるためにテストをやりたいそうだから、早速始めるぞー。では青山先生、後はよろしくお願いします!」


 と言った後、僕が作った覚えのないテスト用紙を渡し、最後に「これから助け舟は出さないぞー」と言う忠告を残し去っていった。勝手な人だと言うことは分かっていたが、この人ともこれからやっていかなければならないと思うと胃が痛くなる。早速テストを配るが人数も少ないので、一人一人手渡しで配ることにした。


 自己紹介をさえぎられたので、名前すら知ることができていないと言う困った状況だ。最前列の娘はテスト用紙を普通に受け取ってくれたが、あの不良娘は受け取ったときに「ここはおまえみたいなやつが来るとこじゃないから帰れ」と堂々と悪態をつかれた。


 そして、最後尾の自己紹介の時明らかに殺意むき出しの娘に近づこうとすると……


『ビュッ!!』


 耳の横で風を切る音が聞こえたかと思えば、後ろには十メートルも距離があるにも関わらず黒板に深々と刺さった鉛筆が見えた。もし、鉛筆が黒板ではなく心臓に刺さったのなら、僕はもうこの世にいなかっただろう。


「私の半径五十センチ以内に近づかないで……」


 誰が見ても分かる凄まじい拒絶を行動だけでなく、言葉で示す目の前の少女。彼女の体格は僕より一回りも二回りも小さい。そんな少女に刃物や毒物を使わなくても鉛筆一つであの世に送られることを実感していた。あまりのことに動揺を隠せなかった。本来であれば注意する立場にあるにも関わらず言葉をつむぐことができない。


 しかし、五十センチ以内の距離に近づくことができないなら、教師として渡すものがあるときどうすれば良いのだろうか。僕の不甲斐ない態度を見て、最前列にいるこの中では比較的まともそうな女子がため息をついて立ち上がると、僕からプリントを奪い取った。


「配布物は私が渡します、これで問題は解決するでしょう」


 そう言って、その娘は銀髪の娘にテスト用紙を渡し、自分の机に戻っていった。深く黒板に刺さった鉛筆に恐怖を覚えながらも教卓に置いてあるタイマーを使い試験を開始した。


 期待も楽しみも見えない不安と恐怖ばかりの新生活が今始まった。


続く





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