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A CAGE ~囚われた4人の少女~  作者: 7%の甘味料
鳥籠に囚われた少女たちとの出会い
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第1話

説明が多く書いてる人も疲れてしまいました。

最初なので色々詰め込む必要がありましたが次の話からいよいよ本格的にお話が始まっていきます。


第1話


『随分ふさぎこんじゃってるねー、君が青山君で良いのかな?』


 そこには30台後半から40台前半くらいの眼鏡を掛け立派なスーツを着た明らかに人生の勝ち組と言う雰囲気をかもし出している男がいた。


「何の用ですか?そもそもあなたは誰なんですか?今の僕に用……なんてあるんですか……」


「質問多いし最後聞き取れないし、こりゃ重症だなぁ」

「まずは自己紹介と行くか俺は進藤傑しんどう すぐる)! 君は毛嫌いしてると思うけど警察の者さ。自慢じゃないけど上層部の人間だね」


 警察が今更何の用があると言うのだろうか。再犯の心当たりはないし、誤認で逮捕して有罪にしたくせに何があると言うのか……。警察関係者でなければ早く会話を切り上げてこの場を去りたかったが、逃げると面倒なことになりそうだったので話を聞かざるを得なかった。


「ああ先に言っとくけど警察として会いにきたわけじゃないんよ! ただちょっと君に頼みたいことと説明したい事があってさー」


 フレンドリーに話しているつもりがむしろ苛立ってくるこの男はどうやら何か頼みたい事があるらしい。むしろ、僕が警察に冤罪を晴らしてくれと頼みたいくらいだが、検討がつかないのでしばらくは彼の話を黙って聞くことにする。


 彼は話を始める前に持っていた大きな黒いバッグから茶封筒を取り出すと。そこから20枚くらいのB5用紙ほどの大きさの紙を取り出し語り始めた。


「君さー今この状況になってることって不本意でしょ。本当はやってないんだろ、痴漢だっけ?」


「えっ、はっ! はい! そ、そうです! 僕はやってません!」


最初は何を言われたのか理解ができずしどもどろになってしまったが、目の前のうさん臭い中年の男は理由は分からないが初めて自分の冤罪を信じていた。初めて見えた希望にすがるように続けて言葉を発する。


「どうして、あなたは信じてくれるんですか? 警察の誰に話しても信じてもらえなかったのに!!」


「いきなり元気出たなー、ぶっちゃけおまえは誰が犯人か分かってるの?」


「質問を質問で返さないでください! そもそも知ってたら有罪になってません!」


「知ってても有罪になってたと思うけどなぁ」


 知っていても有罪になった。どういうことだ、他に犯人がいるならそいつを捕まえればいい。それが警察の仕事じゃないのか……。少なくともこの人のこの口ぶりは真犯人を知っているんだ。


「資料によるとだな、被害者の周囲で触れられる範囲にいた人間は30台のOLと50台のおばはんと……いちいち言うの面倒くせーなおい!おまえを除いて全員女性なんだよ。だから勘違いが生まれるわけもないし、他に犯人になりえる人間がいないからおまえが犯人ってことだろ」


「そうですけど、じゃあ誰が犯人なんですか?」


 僕の答えにため息をつくと、彼は少し苛立った様子で指に唾をつけ紙をめくりこう言い放った。


「おめぇバカかとんでもないお人よしなんだな。他に犯人になりえる人間がいなくておまえが無罪なら答えは一つしかねーだろ! 全部その被害者の自作自演だ! 最初から痴漢なんかなかったんだよ!」


「そんな……でもそんな事して何の得が……」


「いちごみるくのアメぐらい甘い奴だな……考えても見ろ、例えばおまえが痴漢として捕まって裁判で有罪になればおまえから金をぶんどれるだろ? そうすれば小遣い稼ぎにはなるよな~、それで小遣いを稼ぐ女もいるんだよ! そんなことも知らなかったのか?」


 その小遣い稼ぎのためにその人の今までの人生全てが無駄になると言うのに……それにそんなことをする人が増えたら、本当に痴漢の被害を受けた人が痴漢冤罪のでっち上げを疑われて声を上げにくくなってしまうじゃないか。


 僕にはそんな方法で小遣い稼ぎをする人の気持ちは理解できなかったが、痴漢の冤罪にあった状況とこの話を聞いてそれ以外に真犯人はいないと納得した。


「そうだったんですか……お金を稼ぐための自作自演だと気づいていたなら……もっと早く気づいていれば何とかできたかもしれないのに……」


「ええっ!?」


 握りこぶしを作り後悔すると、目の前の男はオーバー過ぎて神経を逆撫でするような驚き方をして僕を煽る。


「おまえもう信じちゃうのかぁ……だまされやすいってレベルじゃないのと人の話を最後まで聞いたほうが良いぞ」


「被害者の自作自演とは言ったけど誰も"この件が"ただ金を稼ぐための犯行だなんて言ってないぜ、俺は例をあげただけだ」


 思い返すと確かに例えばと前置きを置いていたが、例があまりにも筋が通っていたので信じこんでしまった。今度は楽しそうに紙をめくっている所を見ると、想像通りの反応にご満悦のようだ。


「実はな……あの女子高生はただの女子高生じゃねーんだよ! 依頼した人間を社会的に殺すことを生業としている裏社会に存在する会社に雇われていたんだ! 会社に届いた依頼によっておまえを痴漢に仕立て上げたんだよ」


 さっきからこの人の言う事は色々と話が突拍子もなさ過ぎて全くついていけていなかった。なぜ裏社会のグループが僕のような平凡なサラリーマンを陥れる必要があるのだろうか。依頼をされたらしいが、そんな所に依頼されて悪人に仕立て上げられるような恨まれることにも心当たりがないのだ。


「おっ! 今依頼をされたって事を考えて心当たりを探ってんじゃないの? 多分心当たりなんてないと思うよ、身勝手な理由だからねぇ……で、誰が依頼したか知りたい?知りたい?知りたいって顔してるね、特別に教えちゃうよ」

 

 返事を聞くことを待たず、凄まじい速さで鞄を空け、もうひとつの封筒を取り出し一枚の紙を見せた。


「これは何ですか?」


「依頼書だよ、苦労したぜこれ手に入れるの……君を痴漢に仕立て上げるためのほら君の個人情報が載っているだろう」


 社会的に抹殺……確かに痴漢冤罪は他人を社会的に抹殺できる方法だ。そして、そんな会社に依頼してまで僕を消そうとした人間がいるってことだ。一体……誰がこんなことを……。


「その下に驚くべき名前が書いてあるぞ」


 自分の個人情報と顔写真が載っているのを確認した後、下に書いてある依頼人の欄を見て僕を更なる絶望へと突き落とした。


「これが現実だよ……辛いだろうな」


 依頼人の欄には僕の妻『青山三代子』とはっきりと書かれていた。急いで目をこするがその文字が変わることはない。ただ大きな絶望と大きな疑問だけが心を支配していた。


「動機は君が前家に連れてきた同僚がいただろう独身の古山って言うやつ……そいつおまえの妻に惚れちまって不倫関係になっていたんだ」


古山……友達だと思っていたのに、なんでこんなことを……。

 

「それで青山三代子はおまえと離婚して古山と結婚したいと思った、おまえの存在が邪魔だってことを古山に相談したら説得するより社会的に殺したほうがはやくねって結論になったんだろうな」


「ちなみに君の妻の美代子さんと古山は美代子さんが再度結婚できる半年後に式を挙げるらしいぞ」


 確かに一度僕は飲み会の帰り泥酔して帰れなくなった古山を家に泊めソファで寝かせた事はあった。その後、僕はそのまま疲れで眠ってしまったが眠っている間に何かがあったのだろう。


 怒りと深い悲しみに溺れ、しばらく目の前で話していた男の事を忘れただ拳を握り締めた。救いようのない真実を突き付けられても、何もできない自分の無力さに絶望した。


「まぁ冤罪が何の考えもなしにやったなら勝機はごく僅かにあったよ。痴漢の去年の逮捕者数は3765件にも及び、男性が被疑者である場合に限れば裁判での有罪の確率は90%を超えるからな」


「裁判に持ち込まれたらほぼ負けと思っても良いかもね。有罪になったケースを考えても、監視カメラで痴漢をしていないと言う証明ができていて有罪判決になった場合もあるからね」


「今回の君の件は更に厄介だ。相手はプロだもの、そもそもあの女子高生の周りに女性しかいなかったのもおまえ以外に犯人がいないように見せかけるためにわざわざ用意したんだ」


 僕の気持ちを気遣いもせず長々と語る目の前の男にいい加減腹を立ってきた。激昂する気持ちを抑えようとしたが抑えられずキツイ口調で目の前の男を詰問する。


「なぜその事実を今伝えるんですか? 分かっているなら無実を証明してくれてもいいのに! あなたは何が目的なんですか!?」


 声を荒げる僕に対して驚くこともせず彼のペースで話が再開される。


「何が目的なんだろうね? ヒントは最初に言ったよ覚えてるかな?」


最初に言った事を思い出そうとするが、途中の話が衝撃的過ぎて思い出すことに手間取っていると……


「時間切れだね、どうしてこうすぐ忘れちゃうかな、君に頼みたいことがあるって最初に言ったじゃないか」


そういえば最初そういって話しかけてきたような……思えば色々な事が話に詰め込まれ過ぎて2時間くらい経ったような感覚だった。時計を見るとまだ20分しか経っていない。


「頼みたいことを言うとね……ねぇ、君さぁ教師やってみない?」


 その一言に唖然としてもう一度聞き返しそうになった。今までも突拍子のない事を言い続けてきたがこれは流石に突拍子のないと言うか、突っ込みどころが多過ぎて何から突っ込んだら分からなくて言葉が続かない。散々僕を小馬鹿にしてきたこの男だが、誰が見てもおかしいのはこの男の方だ。


「一つずつ整理していいですか、僕たちは今まで痴漢の冤罪について話をしていましたよね、今までの話との関連性も正直よく分かりません、そもそも……」


「まぁそうだよね! これはさすがに君の言うことが正しいよ、説明しなきゃね。別に教師やると言っても普通の学校でやれって言うわけじゃないよ、だって君教員免許持ってないだろ?」


教員免許を持っていないことを知っていてなんで教員になることをお願いしに来たんだ……。


「単刀直入にいうと、未成年の中でもトップクラスの犯罪を犯した人間を集めて教育し、社会復帰させることが目的の特別な教育機関があるんだけど、そこで君に教師をしてほしいんだ」


「別に教育面は期待してないよ。こちらが君に課題を渡すから、それを生徒にこなしてもらうように仕向けて貰えればいいからさ。目的としては君にはその生徒たちと仲良くなってほしいんだ。今のあいつらは他人なんて信じないだろうからね」


未成年とは言えその中でもトップクラスの犯罪を犯した人間と仲良くなる。そんなの普通の学校で教えることよりも難しいだろう。


「ちなみにトップクラスの犯罪って、僕が犯したことになってる罪より重いものですか?」


「天と地の差だね。そういう罪だとあそこには強姦魔がいたな。高校生のくせに分かっている限りで50人以上の女性をレイプしたあげく、婦人警官をレイプ未遂して捕まったやつ」


「あっ! 大丈夫大丈夫、もうそいついないから! 今、言ったやつと仲良くなることは考えなくていいよ。今もいるのだと15人の屈強なヤクザ達を一晩で地獄へ葬った不良と、他国から派遣されたが任務に失敗して極秘に捕まえられた未成年の殺し屋とか」


 どう考えても仲良くなれそうな面子がいないことを聞かされ更に絶望する……


「僕には無理です……」


「君も分かってると思うけどこれ断るともう君は生きる道を失うんじゃないかな、もう後がないんでしょ」


 確かにそれはそうだ……僕にはもう未来がない。しかし、教師の経験もない人間にこんな突拍子もない約束が果たせるのだろうか。


「俺はラストチャンスを与えようとしているんだよ、生きるためのね、給料は日給10万働いてなくても土日祝日も手当てを出してあげる、成功したら5000万円あげるよ」


 日給10万で土日祝日も含めるなら単純計算で月300万円、その上成功報酬は5000万円、あまりの報酬にうなずいてしまいそうになるが、仕事が仕事だ。簡単に頷いてしまうわけにはいかない。


「まだ揺らいでるだろうから追加報酬をあげるよ、もし成功したら君にかけられた痴漢の罪は必ず晴らすと約束しよう。君の人生を奈落に落とした妻と、同僚の古山も何らかの形で君と同じ目に合わせてあげるよ。痴漢の冤罪をかけた女子高生にもね」


「そ、そんなことできるんですか……」


「俺は警察の人間だ、今見せた証拠と権力を使えば簡単さ。憎いだろ、君の普通の人生はあいつらに壊されたようなもんなんだからさ」


 お金だけなら乗らなかったかもしれないが、この人の頼みを解決することができれば痴漢冤罪を晴らしたうえに自分を陥れた人間に復讐できる……そして僕にはもう後がない……


「後で怒られない様に言っておくけど任務にも期限があるよ、来年の3月までだね。今は8月後半だから7ヶ月弱ってところかな」


 あまりの太っ腹な追加報酬にこの話を信じて良いのか怪しくなる。彼の目的や真意は全く読めない。もし、真面目に生きていた人生でこの交渉をされても首を縦に振ることはなかっただろう。しかし、彼の言うとおり僕の人生は終わりかけている。ここで断れば何もしなくても僕はどこかで野垂れ死ぬ。


「目的も分からない、ここでした君との約束のすべてを保証するものはない……そんな状況でもどうせこのまま死ぬなら、最期に賭けてみるのも悪くないんじゃないか? まぁ首を横に振るなら代わりを……」


「やります!」


 それなら彼の言うとおり足掻いてみるのも悪くはないのかもしれないと僕は考えた。それに僕を陥れた妻や古山をこのままにしておくのは納得がいかない。死ぬのを待つぐらいなら、まただまされていたって良い、足掻いてみせよう。今ここで断るのは生きる事を諦めるという選択をしたのと他ならないと考え、僕は決意を固める。


「分かりました、まだ詳しい状況も分かりませんし、成功する確証なんてありませんが、僕はこのままでは終われない! それは確かです! だから必ずあなたの頼みを達成してみせます!」


「そして、すべてが終わったそのときは……僕の痴漢の冤罪を晴らし、三代子と古山を含めた事件に関わった人間すべてに然るべき罰を与えてください!」


 痴漢の冤罪を晴らすのは警察の仕事だが、ここまで事が大きくなっているなら今の話をその辺を歩いている警官に話しても聞き入れてもらえるとは思えない。しかし、この男が本当に警察の上層部で証拠を掴んでいるなら、間違いなく可能だ。問題はこの男が約束を守る保証がないことだが、後がない以上、もう進む以外に道はない。


 その言葉を聞いたこの男は笑顔で僕の手を取ってこう言った。


「いいねー顔つき変わったね! 自慢じゃないが俺は約束を守る男だ。俺の頼みを聞いてくれたのなら必ず痴漢の冤罪を晴らしてあげよう! じゃあ早速ついてきてくれるかな、その中で書類とかも書いておきたいからさ、これから忙しくなるよ~頑張ってね!」


 目の前の進藤という男は、背中を向けて歩き出したので僕は後ろを付いていく。これが僕が教師になった理由だ。あの4人との出会い、そしてそこで起きる様々な出来事、僕の第二の人生の物語はここから始まったんだ。


続く


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