第17話
登場人物紹介
青山 輝樹 平凡な人生を歩んでいた社会人だったが
痴漢冤罪により人生が崩壊し、少年院の特殊な教育施設の教師になる。
進藤 傑 警察の人間で本人曰く上層部の人間らしい。
見捨てられたプロジェクトの後片付けとして施設の責任者になったが目的は謎に包まれている。
鮎川 茉莉 施設の生徒、未成年にして国内最強のハッカーにして重度のオタク。
堅剛エリカと仲が良い。
堅剛エリカ 施設の問題児、ヤクザの組長の娘で母の罪を自分で被り警察に捕まった。
学力が低く単純だが根は優しい、鮎川茉莉と仲が良い。
山本 椎 施設の生徒だが体調不良でほとんど休んでいた。罪状は毒物による大量殺人。
しかしそれは冤罪である事が判明した。
料理が得意で怖がりな性格
NO.7080 施設の生徒、自分の身元に関する情報を日本人である事と
(ユエ) とある組織にいた番号と愛称の「ユエ」しか分かっていない。
組織では殺し屋として数百人の人間を殺害したと思われる。
施設では他人と距離を置いている様子である。
青山輝樹に関する事件の登場人物
鰆田 桜 青山輝樹を痴漢の罪で告訴した人物で、豊鏡女子高の3年生。
バイト感覚で援助交際や痴漢の冤罪を着せる仕事もしており、月守聖とは敬遠の仲。
青山 美代子 青山の妻であったが痴漢の罪で逮捕をされた事で離婚。
大学のバトミントンサークルで知り合う。
現在古山と結婚して古山美代子となった。
古山 竜 青山と同僚で美代子と共謀して青山を痴漢の罪に陥れた。
山本椎に関する事件の登場人物
好村 香苗 椎と同じバイト先で働き、椎とは仲が良かった。
椎が冤罪を受けた事件の真犯人で
現在は行方不明。
鮎川茉莉に関する事件の登場人物
鮎川 憲吾 鮎川茉莉の父親、ある会社のデータを娘のウィルスを使い初期化し
その技術を海外に売ろうとした所国によって殺害される。
大木 保則 そこそこ名の知れた探偵で今年に入って大木探偵事務所を開業。
茉莉には恩があり父親の行方に関して無料で調査を行った。
堅剛エリカに関する事件の登場人物
堅剛 芳香 堅剛組の組長、堅剛虎鬼門の妻。
虎鬼門が行方不明のため現在彼女が組を仕切っているが
その事実は組全体にしか知られていない。
堅剛 虎鬼門 堅剛組の組長、十数年前から姿を消し今も行方不明。
月守 聖 堅剛組の事務所の隣の麻雀店で働いている、鰆田とは敬遠の仲。
作者の前作「The Reverse Side」の登場人物。
事件・出来事
重罪少年・少女社会復帰プロジェクト
警察の上層部の間で計画されたもので
実験として40人の少年院の中でも重い罪を持つ子供たちを
森の隔離された空間でできるだけ現実の学校に近い様なスタイルで教育すると言った計画である。
しかし後述する事件により計画は凍結。
36人が辞退し、辞退しなかった4人については進藤傑氏が後片付けとして本来の予定通り1年間教育を続けることになった。
無法地帯化事件
最初の頃は真面目にやっていた40人の生徒も。
少年院より規制が厳しくなくなっている事に気づくと一部が調子に乗り始め。
生徒が教師に暴力行為を働き、それを上に報告するはずの警備員を口封じした事により。
事件の長期化と更に悲惨な事態になる事になった。
生徒同士の暴力行為が盛んになり。
喧嘩、虐め、略奪、強姦行為が当たり前の光景となる無法地帯と化した。
これにより34人の生徒が脱臼、骨折、ノイローゼ、性病感染等様々な問題を起こし
大きな問題のなかった6名の生徒の内2人もプロジェクトを辞退。
これにより警察内で上層部の管理能力の甘さと無計画さが露呈する事になるが。
警察は事件を隠蔽し、世間にこの事件が報道されることはなかった。
青山輝樹の痴漢
真宿駅行きの電車において青山輝樹が女子高生に痴漢行為を行った事件。
青山は逮捕され有罪判決を受けたがしかしそれは誤った判決であり
被害者は青山に痴漢の冤罪を掛け、賠償金を支払わせた。
被害者は真宿にある裏社会のグループの一員でグループのメンバーもサクラとして青山が有罪になる様な状況に仕向けた。
裏社会のグループは一連の犯行を依頼されてやったことが判明しており
その依頼者は青山 美代子と彼の同僚の古山と言う男であった。
第17話
僕が扉を開けると目の前の通路の右側に長い机が置いてありその右側で
眼鏡をかけたいかにも真面目な短髪の男が椅子に座っていた。
そのおかげで通路はとても狭くなっている。
するとその男は僕に対して
「失礼ですがアポを確認して宜しいでしょうか?」
その男は僕に丁寧に応対をした。
ヤクザの事務所と言うくらいなので怒鳴られるのかと思って冷や冷やしたが
しかしその男はよく見ると腕には古傷のようなものがあり
最近で言うインテリ系ヤクザと言った部類なのかと思い再び緊張感を持って接した。
「アポと言ったものはないのですが貴方方の組長の娘さんのために
今組を取り仕切っている堅剛芳香さんにお会いしたいのです」
それを聞くとその男は驚いたのか目を丸くして僕を見た。
やはりアポがないと言う事で門前払いなのだろうか。
一応組の人間しか知らない事を言ったのでそれで驚かれたのかもしれないが。
しばらく男は黙っていると唐突に口を開き。
「エリカ様の今の関係者のお方でしょうか?
失礼ですが証拠をお見せください」
僕はそう言われて持っていた彼女宛に届いた手紙を手渡した。
彼は封筒の送り先と送り主の字を食いいるように見つめると
突然立ち上がって通路の向こう側に向かい。
「失礼!今芳香様に相談いたします
少々お待ちください!」
そのまま扉を開いてどこかへ行ってしまった。
僕はこれからヤクザの実質の組長と会う事への恐怖と
もしここまで来て話せなかったらどうしようと言う二つの矛盾した感情が心を支配していた。
精々5分くらいの待ち時間だったはずが30分ぐらいに感じられ。
さっきの男が和服の品のある女性を連れてこちらに歩いてきた。
「ご苦労、自分の仕事に戻って構わないぞ。
初めまして私は堅剛 芳香と申します。」
さっきの男よりも丁寧な対応してくれる
綺麗な和服に身を包み見た目としては30台前半ぐらいの女の人がヤクザのトップ....。
僕はあまりの事に言葉を奪われるが自己紹介をして貰ったのにこちらが紹介しないのは
失礼だと思い急いで口を開く。
「あ、青山輝樹です!
む、娘さんのいる少年院の学校の教師をしております」
「何時も娘がお世話になっております。
娘は常識もなくどうしようもない馬鹿で手を焼いていると思いますが
今後とも娘の事を宜しくお願いします。」
少なくとも僕はヤクザの頭と話している気がしなかった。
ただ丁寧な対応してくれる保護者の方と会話している気にすらなっていた。
「とんでもない!確かに娘さんの学力は少し心配する所もありますが....
彼女なりに真面目に授業を受けてくれるようになりましたし
芯の部分はお母様の教育が良いのかとっても良い心を持っていますよ」
「あの娘が真面目に授業を.......信じがたいのですが本当なのでしょうか?
私に遠慮をする必要はないのですよ」
ここまで自分の娘を信じていないのか.....。
確かにたまにぼけーっとしてる事はあるが、最初と比べれば寝なくなったし
微分も積分も基本だけはできるようになったし
社会の暗記のテストも0点ではなくちゃんと頑張る様になったので60点くらいは取るようになった。
「心は...私がそこだけは教育していますからね
言う事だけは一人前な娘でしょう、心だけは厳しくしつけたつもりですから
他の所は私の力不足で本当に申し訳ありません」
僕は芳香さんに頭を下げられたので急いで頭を上げるように頼んだ。
まさかヤクザの組長に頭を下げる日が来るのではなくヤクザの組長に頭を下げられる日が来るとは....。
生きていると何が起こるか本当に分からない。
「立ち話もなんです、客間に案内いたしますね」
そう言うと芳香さんは僕を連れて彼女がやって来た扉の向こうに案内した。
そこは僕が思っているヤクザのイメージに近い人達が沢山たむろっていた。
床で麻雀、ポーカーなどをやって遊んでいる者。
品のない話をして盛り上がっている者。
入れ墨を体に刻み、屈強な体をした男達が沢山集まり
個人が個人で思い思いの事にふけって時間を潰していた。
そして視覚だけではなく嗅覚にも僕には刺激が強いものであった。
酒の匂い、男の体臭、泥の匂い、そして匂い移りがしたのか分からないが女の香水の匂い。
様々な匂いが充満しておりそれだけで気持ちが悪くなってくる匂いだった。
「芳香様そいつはだれなんすかー!!
みねー顔だしてめぇどりゅうのもんかー!芳香様そいつ殺してくだせぇよ!」
何の脈絡もなく怒龍組と言われ殺せコールが部屋全体に広がる。
すると芳香さんが今までの雰囲気を解いたかのように殺気を放つと。
僕はこの後信じられない光景目にするのだった。
彼女は突然数メートル飛び上がり、空中で帯を緩め和服を脱ぎ捨て着地すると
そこには彼女の熟れた裸体ではなく、まるで女王様のような黒く体にフィットした光沢のある全身タイツのような服装に早変わりし
どこから取り出したのか分からないヌンチャクを振り回しながら
「うるせぇ!!
てめぇらは客のもてなし方もしらねーのか!!
この方はエリカの学校で教師をしていて
あの勉強嫌いなエリカをな更正させた名教師なんだよ!
今からてめぇらどけ座しやがれ!」
突然の事に僕はそれを口を開けて見ていた。
そしてその口調と格好から彼女がヤクザの頭である事を再確認するのであった。
ヤクザの顔を現した芳香さんの鶴の一声に従わない人間はここにいるはずもなく
それを聞くと考えを変えるのも早いのか僕に対して殺せコールをした全員が
どけ座をして僕に謝った。
「エリカ様の大事な恩師に俺たちは何て事を!」
「許してくれぇ!!許してもらえないと俺たちこれから芳香様に......
頼む!今の俺には酒しかねーけどこれで許してくれー!」
高そうな酒やら高級煙草、麻雀の牌が単体で投げられたり
他にもみかん、何か変な匂いがするシャンプー、もりまっこりと言うキャラのストラップ、エリ草
二次元の女の子が裸で書かれた抱き枕カバー、使用済みの歯磨き粉、期限切れの風俗の優待券、ワレチューのぬいぐるみ
折りたたみ式ナイフ、稲荷が入ってない寿司桶、蓋が割れたマジック、新品の消しゴム、錆びた剣...
駄目だ....もう色々貰い過ぎて頭で整理ができない。
「てめぇら!後でお仕置きじゃーーーーー!!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
結局その後投げ込まれた品は僕に渡されても困る物ばかりだったのでお返しして。
そのまま芳香さんに客間へと案内してもらった、和服を着なおし何時もの雰囲気に戻った芳香さんもどことなく機嫌が悪そうに見えて怖い.....。
客間へと移るとそこはとても綺麗な和室だった。
先ほどの部屋とは大違いで清潔感もあり芳香さんと昔のエリカはここで暮らしていたのだろうか。
金箔に塗られた強そうな猿のような生き物の木彫りや丁寧に管理された盆栽が置いてあり
まさに和の心が感じられる部屋だった。
「先ほどは本当に申し訳ありませんでした。
うちの人間は礼儀も謝罪の仕方も知らない人間ばかりでして.......
後でキツく教育し直しますのでここはお許しください。」
ヤクザの組長にどけ座までしてもらうとは恐れ多すぎるので
僕は必死に頭を上げてくださいと言ってようやく彼女は頭を上げてくれた。
「本題に移って良いですか?
娘さんの事何ですが」
僕は彼女が返事を出さなかったのは彼女なりに考えた理由があった事。
そして何よりもエリカが気になっているのは何故あの時芳香さんがヤクザを殺したのか
途中芳香さんが寄り道して彼女の素行や、友達関係の事に脱線したが
大筋の二つはきっちり芳香さんに伝えることができた。
「なるほどあの子もあの子なりに考えてたって事ですか.........
そしてあの時私が殺してしまった理由をエリカは知りたいと....
でもまぁあの馬鹿娘が学校で楽しそうにしてるんならこれで良いのでしょうかね..」
「エリカはその理由を知りたがっています、教えてはくれませんか....」
「......こればっかりは答えられません」
やはり駄目なのか....でもここで引き下がる訳にもいかない。
「エリカは貴方のためや組のために最善を尽くそうと頑張ってきたんです!
そのために今まで嫌だった刑務所での生活にも耐えてきました
そのエリカがどうしてあの時敵の組の者とはいえ20人を殺害したのか知りたがってるんです
エリカから聞けば貴方は抗争の時でも死者を出したことは彼女が生まれてからほとんどなかったそうじゃないですか!
エリカのために教えてあげられないんですか......」
その言葉に芳香さんはしばらく考えるとこう言った。
「貴方はこの組からみれば余所者、失礼で言いますが余所者にそこまで口を出される理由もありません
それにエリカがやったのは勝手な事私たちのためと言う建前はあっても
自分の偽善に満足するためにやっているだけです、刑務所に行ってから....私がどれだけ心配したか...あの娘は..」
そう言うと彼女は俯いたままけっして僕には涙を見せまいと
顔を振りそのまま僕に向き合い僕にこう言った。
「すみません、本当は最初から話すつもりでした。
ですが貴方が本当に信用に足る人物か確認するためいけずをいたしました。
貴方はエリカのために私に向かって遠慮ない事を言ってくれて
貴方は信頼に足る人物と言う事を確認するつもりが私も感情的な事を返してしまい申し訳ない」
頭を下げようとするのを止めて僕は急いで声をだし
「いえいえ!僕も部外者なのに失礼な事を言ってすみませんでした」
そう言って雰囲気が元に戻った所で彼女は口を開き
「分かりました理由を話しましょう、しかしその前に......
貴方には特別にエリカも知らない"ある事実"を話したいと思います」
続く