第15話
登場人物紹介
青山 輝樹 平凡な人生を歩んでいた社会人だったが
痴漢冤罪により人生が崩壊し、少年院の特殊な教育施設の教師になる。
進藤 傑 警察の人間で本人曰く上層部の人間らしい。
見捨てられたプロジェクトの後片付けとして施設の責任者になったが目的は謎に包まれている。
鮎川 茉莉 施設の生徒、未成年にして国内最強のハッカーにして重度のオタク。
堅剛エリカと仲が良い。
堅剛エリカ 施設の問題児、敵の組のヤクザ20人を殴り殺したヤクザの組長の娘。
学力が低く単純だが根は優しい、鮎川茉莉と仲が良い。
山本 椎 施設の生徒だが体調不良でほとんど休んでいた。罪状は毒物による大量殺人。
しかしそれは冤罪である事が判明した。
料理が得意で怖がりな性格
NO.7080 施設の生徒、自分の身元に関する情報を日本人である事と
(ユエ) とある組織にいた番号と愛称の「ユエ」しか分かっていない。
組織では殺し屋として数百人の人間を殺害したと思われる。
施設では他人と距離を置いている様子である。
青山輝樹に関する事件の登場人物
鰆田 桜 青山輝樹を痴漢の罪で告訴した人物で、豊鏡女子高の3年生。
バイト感覚で援助交際や痴漢の冤罪を着せる仕事もしている。
青山 美代子 青山の妻であったが痴漢の罪で逮捕をされた事で離婚。
大学のバトミントンサークルで知り合う。
現在古山と結婚して古山美代子となった。
古山 竜 青山と同僚で美代子と共謀して青山を痴漢の罪に陥れた。
山本椎に関する事件の登場人物
好村 香苗 椎と同じバイト先で働き、椎とは仲が良かった。
椎が冤罪を受けた事件の真犯人で
現在は行方不明。
鮎川茉莉に関する事件の登場人物
鮎川 憲吾 鮎川茉莉の父親、ある会社のデータを娘のウィルスを使い初期化し
その技術を海外に売ろうとした所国によって殺害される。
大木 保則 そこそこ名の知れた探偵で今年に入って大木探偵事務所を開業。
茉莉には恩があり父親の行方に関して無料で調査を行った。
事件・出来事
重罪少年・少女社会復帰プロジェクト
警察の上層部の間で計画されたもので
実験として40人の少年院の中でも重い罪を持つ子供たちを
森の隔離された空間でできるだけ現実の学校に近い様なスタイルで教育すると言った計画である。
しかし後述する事件により計画は凍結。
36人が辞退し、辞退しなかった4人については進藤傑氏が後片付けとして本来の予定通り1年間教育を続けることになった。
無法地帯化事件
最初の頃は真面目にやっていた40人の生徒も。
少年院より規制が厳しくなくなっている事に気づくと一部が調子に乗り始め。
生徒が教師に暴力行為を働き、それを上に報告するはずの警備員を口封じした事により。
事件の長期化と更に悲惨な事態になる事になった。
生徒同士の暴力行為が盛んになり。
喧嘩、虐め、略奪、強姦行為が当たり前の光景となる無法地帯と化した。
これにより34人の生徒が脱臼、骨折、ノイローゼ、性病感染等様々な問題を起こし
大きな問題のなかった6名の生徒の内2人もプロジェクトを辞退。
これにより警察内で上層部の管理能力の甘さと無計画さが露呈する事になるが。
警察は事件を隠蔽し、世間にこの事件が報道されることはなかった。
青山輝樹の痴漢
真宿駅行きの電車において青山輝樹が女子高生に痴漢行為を行った事件。
青山は逮捕され有罪判決を受けたがしかしそれは誤った判決であり
被害者は青山に痴漢の冤罪を掛け、賠償金を支払わせた。
被害者は真宿にある裏社会のグループの一員でグループのメンバーもサクラとして青山が有罪になる様な状況に仕向けた。
裏社会のグループは一連の犯行を依頼されてやったことが判明しており
その依頼者は青山 美代子と彼の同僚の古山と言う男であった。
第15話
「もう随分皆と仲良くなったみたいだね
半分くらいは終わってるんじゃないの?」
進藤さんと初めて会ってから3ヶ月半の時が過ぎた。
つまり期限の7ヶ月の半分のときが過ぎた事になる。
なので僕は進藤さんに教員室に久しぶりに呼び出され中間報告をした。
「鮎川さんと山本さんとは親密になれた気がします。
エリカさんはまだ知らない事も多いですし
ユエさんに関しては.......全然......」
そう言うと進藤さんは予想通りと言った感じで
特に何も言わず僕の中間発表を淡々と聞いていた。
「でも僕は君がここまでやってくれた事に感謝してるし凄いとも思ってるんだよ
今まで仲良くなれたやつもいないもん、あの社会不適合者どもとなんてね」
その言葉に僕は今までよりも遥かに苛立ちを覚えた。
僕が親密になった娘は皆本当は良い娘だった。
それも知らないで社会不適合者と一言で片付ける進藤さんが許せない気持ちになった。
「まぁ...仲良くなった人から見れば違うだろうね....
世間一般から見れば君もあの子達も不適合者、これは事実だろう
悪かったよ、悪かったそう怖い目で見つめるな男同士で見詰め合っても腐女子が生まれるだけだから!
お詫びにこいつをやるよ!」
そういうと進藤さんは僕に黒い封筒を手渡した。
「これは何ですか?」
「それは堅剛エリカ宛に届いた手紙だ。
流石に知ってるよね~犯罪者に届いた手紙は一回警察が確認しなきゃいけないってことぐらい!
つかそれもう常識!知らない奴今から樹海へ走ろうってレベルだよ」
それほど常識ではないんじゃないかな.....。
と言うか警察の人が自殺を促して良いんだろうか。
しかしこの封筒はまだ封がしてあるので誰かが開けたわけではないようだ。
「そしてその手紙はまだ読んでない
だから君に確認してもらいたいんだ
まぁうちはぁ~なぃよぅちょべりぐーでわかってるし~
そんなめんどぅくさぁぃしごとぉぁぉゃまにぉしつけちゃいいんぢゃね~ってかんじ~」
面倒くさいと言う理由だけで人に手紙の盗み見させるのか.....。
相変わらずこの人のノリはよくわからないし付き合いが長くなっても付いて行ける気がしない。
「いや....他人の手紙を盗み見るなん....」
「多分読んだら....驚くと思うぞ...じゃあね~♪あおちゃん!」
と言って子供みたいに走って教員室のドアまで行きそのまま出て行ってしまった。
もうこの人と付き合うの嫌だ...........。
しかし手紙の確認を頼まれたし、僕もエリカ宛に届いた手紙が気にならない訳ではない。
もしそれを読んで何かあったとしても
進藤さんに無理やり手紙の確認を頼まれたからしょうがなかったと言う言い訳もできるだろうし。
そんな事を自分に言い聞かせながら僕は封筒を確認した。
送り主は堅剛芳香、これはエリカのお母さんだろうかおばあちゃんだろうか。
どちらにせよ彼女の親族である事が分かる。
僕はいよいよ唾を飲んで封筒の封を開け中の手紙を確認した。
エリカへ
そちらの生活は順調ですか?
母のいるこっちは相変わらずです。
返事がないのは元気な証拠と言うけどたまには返事ぐらいしてくださいね。
敬語の丁寧な字で文章が書かれている。
エリカのお母さんと言ったら汚い字で汚い言葉遣いかと
失礼だがそんなイメージが僕の中に勝手にあったようだ。
その後はエリカへの生活態度の注意や堅剛組の今の詳しい事情がびっしり書いてあったが。
最後まで読もうとするとそこには気になる事が書いてあった。
最後にあなたはそっちの生活が辛くなったら何時でも戻れるのですからね。
本当は貴方が殺人を犯していない事は私が一番分かっているのですから。
くれぐれもお忘れなきよう。
母より
どう言う事だ、昔彼女はユエさんに自分に罪の意識があるかと言われた時
彼女は今まで見たこともない殺気を漂わせながら彼女は罪を肯定した。
しかし母は自分の娘が殺人をしていない事を知っていると言っている。
一体........。
「おい!何勝手に読んでんだ!!」
そこには僕が手紙を読んでいて教員室に入ったことに気づかなかった
エリカの姿があった。
「エリカ...ごめん...実は.....」
僕は腹を括って全てを話すと彼女は冷たくこう言った。
「センセーが勝手に読んだのは事実だろう!
もし進藤の馬鹿が唆しても俺に相談するとかできたんじゃないのか!
俺はセンセーの事信用してるのに....それに筋が通った事情があるのに
俺が読ませようとしないかもしれないって心の中では疑ってたんだろ!
こそこそ読みやがって.......」
珍しく彼女が正論を言っていた、全くその通りだ。
僕は彼女に頭を下げてもう一度ごめんなさいと言う。
何時も彼女に教えてる側のつもりがいつの間にか教えられる側になってしまった。
「まぁ....読んじまったもんはもう記憶から消せねぇから謝っても意味ねぇよ
どうせまた書いてあったんだろ...俺がヤクザ20人を殺してないって....」
彼女にも手紙の内容は推測できていたのか。
もしかすると進藤さんは何度もエリカの母からの手紙が届いていることを知っていて
確認を自分で行っていたのか、何度も読んでいる人には手紙の内容があらかじめ予測できたのかもしれない
「うん....あれは一体どう言う事なんだ君はあの時認めていたのに...」
「盗み見するような奴に教えるわけねーだろ、ばーか!」
それを言われると弱いな......。
僕がこれ以上追求するのを諦めようとすると。
「そんな捨てられた子犬みたいな顔すんなよ!
冗談だってちゃんと話すから!
それに俺だって本当は誰かに聞いて欲しかったし....えへへ..」
そんな哀愁漂う顔をしている様に見えたのだろうか。
それを言うなら彼女は何時もより嬉しそうな顔をしているように見える。
「随分嬉しそうだね」
「いやぁ!何時も勉強でもトランプでも負かされてるし
センセーをこうやって負かせるのは中々できないからさ!
すっげぇ嬉しくて!」
ああそうなのか....と言うか今の会話に勝ち負けの要素があったのだろうか。
でも確かに僕は何時も教える側なのに教えられる側になってしまったのは
ある意味では負けたとも言えるのでそうなのかもしれない。
そういったやり取りをした後彼女は僕に自分の事について語り始めた。
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あれは俺が何時もどおり日課のジョギングをしている時だった。
俺はジョギングを深夜にやる事にしていた。
理由は俺は職業柄昼夜の逆転した生活を行っていたから
早朝には俺は既に眠りについているから
勿論今はそういうわけにもいかねぇからジョギングは学校が終わった後に軽く校内を回る感じでやっているかな。
そんな訳で俺は堅剛組のアジトの後ろにある広い公園でジョギングをしていたわけだ。
夜風が気持ちよくて、月明かりが森を照らして人間が下手にイルミネーションを施すよりずっと綺麗で
秋には虫の鳴く声が数だけは多い50人くらいのアイドルが歌った糞曲なんかよりずっと良い味を出していて
夜の公園は綺麗で神秘的で俺は好きだった。
たまに馬鹿が俺を襲おうとして少なくともしばらくは体が動かないくらい殴ってやったり
近くにラブホあんだろと思いながらカップルが夜の営みをしている声が聞こえてきたりしたら
警察だー!ってドスの聞いた声で叫んでやったら男の方がズボンがずり落ちたまま逃げていこうとするもんだから逃げた後爆笑をしてしまった事もあった。
今日は何もなくて平和にジョギングが終わるそう思っていた時俺はあれを見てしまったんだ。
電灯がいくつも並ぶ公園の広場で数えられるだけで10人くらいの人間が倒れていたんだ。
どこかの抗争かでも戦っている様子はない、もう終わった後なのか
そう思い俺は広場へと近づいていくと一番近くに倒れていた男は血を流して倒れていて。
俺の目から見てもこいつは既に死んでいると分かった。
その後何人もの死体や、かろうじて生きていてうーうー唸っているもの
そして死体の中に顔を見たことがあるものがいた、それは俺ら堅剛組の永遠のライバル怒龍組の人間だった。
そんな死体や死体の血でできた道のようなものを進んでいくとそこに人が立っているのが見えた。
これがこの惨い事をしでかした犯人。
少なくとも怒龍組の人間を殺しているため堅剛組の者だと思い俺はその顔を見るためもう少し近づいていくと
「嘘だろ....お袋....なんで....」
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その後僕はエリカのお母さんが20人の人間を殺した事。
そして今のトップは堅剛虎鬼門ではなく実際は堅剛芳香が堅剛組を動かしていた事
父親の虎鬼門は彼女が生まれる少し前に突然姿を消していた事
そして実質のトップである芳香が組の抗争でタブーである大量殺人をやってしまい
示しをつけるために自首をしようとした事を僕に話してくれた。
「大量殺人がもし抗争で起きてしまったら警察との協定で
建前として逮捕できる人間をこっちに差し出すってルールがあるんだ
それでトップのお袋が行こうとしたのを俺は止めたんだそんな事をしたら今の堅剛組は組として成り立たなくなってしまう
怒龍組にその隙をつかれて潰されてしまうと俺は言ったんだ」
「お袋は女であるにも関わらず絶対的な強さの持ち主で組の人間も女だからお袋になめた態度を取る奴なんか誰一人いねぇ
それにお袋は喧嘩で負けた事が親父にしかねーぐれー負け知らずだった
だからお袋が組からいなくなるのは組にとっては大変な事だった。
最近態度とか色々素行が悪い奴や使えない奴を差し出そうって言っても
お袋は頑固で聞きもしねぇだから俺は言ったんだ俺が建前として逮捕されるって!
勿論お袋は止めた、でも組を守るためにはそれしかなかったそれに私は18以下だ
少し少年入ったらすぐ戻ってこれるからなだから俺はお袋の反対を押し切りそのまま警察に行ったんだ」
それで彼女はここに来たのか。
だからあの時彼女は殺してなくても自分の罪を肯定した。
それはお母さんや組を守ろうとする気持ちがあったからだったのか。
でもお母さんだって娘の事を思って何時も手紙を出しているのに
返事を出さないのは何故だろうか僕は疑問に思って彼女に尋ねた。
「手紙によると君は手紙の返事を出していないんだよね?
どうしてなの?」
「この手紙は警察が確認するんだろ?
俺があの時の事で聞きたいことや返事したい事はいっぱいあるんだけど
もし書いてそれが見られたら建前で逮捕してやってる警察もどう出てくるかわかんねーし
それに俺は今までここの生活が嫌だった、もしそんな事を書いたらお袋は黙っていられずお袋も自首してしまうかもしれない
だからそんな事を考えていたら返事が出せなくて......」
確かに質問をするとしたらそれも警察が読むことになり。
本当の犯人はお母さんかもしれないと言う事を警察に教えることになるだろう。
今までと言うことは今では違うのだろうか、しかしそれは僕の目から見ていても分かる。
彼女は今楽しそうに毎日を送っているし今ここが嫌と言う事はないのだろう。
すると彼女は俯いたまま一人言のようにこう言った。
「本当この世は難しいことばっかで嫌いだ....
何でもいいから....誰も気にしなくて良い状態で
お袋にあいてぇよぉ....敵の組とは言え急になんで皆殺しにしたのかとかききてぇし....
はやくあ...いたい.....」
彼女は決して涙は見せなかったがその声は必死に喉から絞り出したような声だった。
それを見て僕はある決意を固めていた。
ここは一応少年院だが、彼女とお母さんを何とか会わせてあげられないだろうか。
まずそのためにはそのお母さんに会う必要がある。
僕は黒い封筒に書いてあった送り先を見て彼女のアジトの場所を理解すると
彼女の手紙を勝手に読んで彼女の信頼を裏切ってしまった分
彼女が今声を絞り出して願った事を叶えてあげたい。
僕はそう決意を固め、まずは彼女のお母さんに会って話を聞く事を決めた。
続く