時間(1)
母の所へ着いた。
「な~に?今日は、みんな揃って?」
「母ちゃん、今日は顔色…良いね…
あっ、母ちゃん…
ちょっと 起きれる?」
「何だい?」
母はゆっくり体をベッドから起こした。
私は 乱れた母の髪をクシで通した。
「何?何?」
ほとんど寝たきりの母に
私は唇に紅をつけた。
私はニッコリ微笑み 母に手鏡を見せた。
「母ちゃん、元が良いから
口紅だけで ガラッと変わるね…
どぉ?久し振りに口紅つけた感じは?」
母は戸惑いながら
「ベッドの上で 紅つけても、
誰に見せる訳でもないし…
もぉ、母ちゃんを 玩具にしないでよ」
「誰かに見せるから…口紅 つけたの…
母ちゃんに…会ってもらいたい人が…
あっ!老眼鏡 かけなくて大丈夫?」
「何?誰か来てるのかい?」
「優香…呼んで来て…」
優香が部屋を出て
呼びに行ってる間も
しきりに、誰が来てるのか 尋ねる母。
しばらくすると
花束を抱えた父が部屋に入ってきた。
「………………」
「………………」
父は目に涙いっぱい溜めてる様子で
言葉も出せず 立っていた。
母は本当に老眼鏡をかけないと
わからないのかと思うほど
父を見つめていた。
ようやく、父が口を開いた。
「和さん…久しぶり…
約束…破ってすまない………」
父の言葉に母は大粒の涙が溢れ出していた。
だが、直ぐに涙を拭い背を向けた。
「紗香、優香…
知らない人をこんな所へ呼ぶんじゃないよ…
帰ってもらって…」
「母ちゃん…誰か?わからないの?」
「あぁ……誰…か…
知らないよ…」
優香の問いかけに
母は言葉を詰まらせながら言った。
「母ちゃん…みんな…知ってるんだよ…
もう、隠す必要ないんだから…
こっち向いて…ほら…」
私が向きを返さすと
母は泣いていた。
拭っても拭っても溢れ出す涙。
父も同じように 何度も 涙を拭っていた。
父は母にかすみ草の花束を渡した。
「和さん、この花…好きだったよね…」
父の言葉に母は頷いた。




