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「少し…落ち着かせてもらえるかな…」
父はグラスの水を一気に飲みほした。
「あなた達は…お母さんと私達の事…
全て知ってるのかな?」
「ハイ…だいたいは…
伯母からと…後、本を読ませて頂きました。」
「昔の事だから…
何て言ったら良いか…
遊びで付き合った訳ではないが…
どうして?私と会おうと思ったのかな?」
「実は…母が癌で
後…残りわずかな命なんです…
それで…母と…その…
お父さんが、本当に嫌いで別れたのではないと知って…
母に会って頂けないかと思って…」
「和さんが………」
父は私たちを知った時より
驚いた様子だった。
父はその後 うなだれる様子で
ポツリと言葉を発した。
「私が…今さら、和さんに会うなんて事…
出来る訳がない」
「どうしてですか?」
「和さんとの約束もあるし…
私は和さんもあなた達も
捨てた人間です…
そんな私が…
和さんに顔向け出来る訳ない…」
すると優香は父に向かって
強い口調で言った。
「そうですよね!妻子もありながら
まだ未婚の母に子供を産ませて…
この30年間 一度も
私たちの前にも現れないで…
会える訳ないですよね!
母がどれだけ苦労したか…
生涯 一度も結婚も出来ず…
シングルマザーとし て生きてきたか!
なのに…母は…死ぬんですよ!
幸せも掴めないまま…
この世を去るんですよ!」
「優香………」
優香の言葉に涙が流れた。
父は土下座をして私たちに謝った。
「謝ってもらいたくて来たんじゃないので…
顔をあげて下さい」
「いやっ…本当に私が悪いんだ…
本当にすまないと思ってる…」
「本当に悪いと思ってるなら…
母ちゃんが死ぬまでの間…
母ちゃんを幸せにしてよ!
残りの短い命…
母ちゃんに注いでよ!」
優香の言葉に 私も駿も驚いていた。
優香の言葉に便乗するように 私も父に懇願した。
「優香の言う通り…お願いです…
最後に母と会って…
母の側に居てあげてもらえませんか?
お願いします」




