(5)
「ごめん…紗香が愛しくて…
俺、何度か…学生の時…
紗香の家に行ったんだよ…
でも、転校したって聞いて…
不思議だった…
優香は実家に居るのに
紗香だけが転校した事を聞いて…」
駿の話しを聞き
駿が実家に来た事も知らされてない事に
私も驚いていた。
「オフクロが…会社倒産してから 度々
後藤紗香さんに会いたい…
謝りたいって
時折 紗香の名前を口に出して
俺も親父も倒産した事が
精神的なショックを受け…
ありもしない話を言ってると
思ってたんだけど…
オフクロ正気だったんだよな…
何か全てが空回りしてたんだよな…」
「私も、病院で会った時 本当に驚いて…
でも、駿が認知症みたいな
言い方をしていたから…
過去の事を知られない為に私も…
あの時…
本当に全てが嘘でごめんなさい……」
しばらく 昔の話しをしたり
離れていた時期のお互いの
生活を話していた。
離れていた時間を埋めるように
二人の会話が弾んでいた。
「そっか…離婚も正式に…
じゃあ、尚更 俺…
紗香を独占できるって事か…」
そう言いながら ニッコリ微笑む駿の表情に
私も 抑えようとしていた感情が
崩れていくようで 駿への想いが
自分でも 強くなってる事に気づいていた。
「あっ、そ ろそろ帰らなきゃ…」
「送るよ…って言いたいんだけど…
会社倒産して 自己破産したから…
車も手放してしまって…ゴメン…
びしょ濡れなのに
車もなくて…
タクシー呼ぶよ…」
「あの時…気が動転してたから
ここまでの道のりもわからなくて…
私の実家と離れてる?」
「歩いて20分ぐらいかな…?
いきなり…こんなむさ苦しい場所に
連れてきてゴメン…」
「あっ、20分なら…歩いて帰るから
タクシーは呼ばないで…」
「けど、びしょ濡れだし…
そのままで帰ったら 風邪引いてしまうよ…」
「だいぶ、乾いたし…大丈夫」
「そっかぁ…じゃあ途中まで 送るよ…」
外へ出ると雨は止んでいた。
結局 家の近くまで
駿は自転車をおしながら送ってくれた。
「あっ!連絡先…もう教えてくれるよな」
私は頷き 駿へ携帯の番号と
アドレスを教えた。
駿は自転車に乗り
また連絡すると言い立ち去った。




