水いらず(1)
その夜から 私と桜子との生活が始まった。
母が居る時と
どこか空気が変わったようで
私は緊張していた。
「桜子…ご飯…出来たわよ…」
桜子と二人だけの食事も
母が居ないせいか 静まりかえっていた。
母はスナックの仕事があっても
夕飯は 桜子 1人で
食べさせる事はしなかった。
(何か話さなきゃ…)
「桜子…バイトの日は
夕飯は………要らなかったっけ?」
「あっ、ウン…火、木、土は………
あっ…母ちゃん 居ない間…
バイトの日数 増やしても良い?」
「えっ?」
「母ちゃん…バイト週3日しかダメって
うるさかったから…」
「でも…それは…」
「お願い…母ちゃんに内緒で…」
桜子は両手を合わせ 私
何度も頭を下げた。
「母ちゃんには…内緒ね…
実は…バイト先の店長と…
付き合ってるんだ…
もっと…バイト入ったら
会える回数も増えるのに…
母ちゃんがうるさいから…」
突然の桜子の言葉に驚いたが
桜子が私だけに話をしてくれた事が
嬉しかった。
「バイト先の店長って…
年…離れてるんじゃないの?」
「10歳 離れてる…
けど…今 歳の差カップル 流行ってるし……」
「流行ってる…って…
ん~ 困ったなぁ
母ちゃんが禁止してた事を………」
「紗 姉だって…学生時代…
恋とかした事あるでしょ…
恋してると………
毎日でも会いたいし…
紗姉なら分かってくれるでしょ………」
桜子の言葉にドキッとしていた。
学生の頃…
桜子の言葉で 駿の事が頭に浮かんだ。
不思議な感覚だった。
全く存在しない
三人が 話の中では
存在する事が不思議だった。
「じゃあ、約束…だよ…
母ちゃんの入院している間だけ…
でも
毎日はダメ…後 2回増やすだけなら…
母ちゃんの見舞いにも
行ってあげなきゃ…」
「紗姉、ありがとう。
2回でも良い…
約束 守るから…
ヤッター 」
桜子が 今まで 見せた事がないような
喜んでる姿を見て
私も何故か同じような
嬉しさが込み上げていた。




