小さな手(1)
母も急いで 車を飛ばして私の所へ来た。
「和さん…そんな慌てなくても 初産だし
時間かかるわよ…
和さんも経験してるでしょ…」
「もう14年前の事で忘れちゃったよ…
紗香…痛いだろうけど
頑張るんだよ…」
「母ちゃん………
いつものお腹痛い時と違うよ………
あっ…また……ウッ…」
母は私の腰を擦り始めた。
私はベッドの上で
寝返りをうちながら
痛みと闘っていた。
痛んだかと思うと
また 痛みがおさまり
その繰り返しだった。
「何か食べる?」
私は首を横に振った。
「優香が一緒に来るって言って
大変だったよ...
あんな辛そうな感じの紗香の声
始めて聞いたって 心配して…」
「だって…
本当にメチャクチャ痛かったし…」
「この痛さは
女の人しか耐えられないって
聞いた事あるんだけど…
男の人だったら
失神するらしいよ」
「母ちゃん、まだこれ以上の痛みなの?」
「そうだよ…こんなもんじゃないよ…
でも、母ちゃんは一度に
あんたと優香を産んでるんだから…
母ちゃんの子なんだから
大丈夫。紗香なら頑張れるよ」
「失神しちゃうかも…………っ…ウッ………
さっき より 何か間隔早くなったみたい
母ちゃんっ…痛いっ」
母はまた腰を擦りだし
「大丈夫。大丈夫。」と
何度も言葉をかけてくれていたが
私は痛さで母の言葉も上の空だった。
伯母が様子を見に来た。
「弘美…今日は産まれないかな?
「ん~?産まれても 夜中か明け方かな…
和さん、お店あるし
優ちゃんも居るし…
一度 帰る?」
「そうだね…
優香には
私が産んだ事にしないといけないから…
ちょっと 上手く優香に話してくるよ
日帰り出産みたいな事にしなきゃ…」
「和さん…あり得ない………」
伯母は呆れたように
笑みを浮かべ言った。




