01 ハジマリ
西暦xx年―
人類の科学は止まる事を知らず、著しく発展を遂げた。
日本も、小さいながらも"空中都市"などという異名を持ち、
その名の通り、宙にまで行動範囲を広げた。
重力なんてまるで無視するかのように浮かぶ車やビル、マンション――
人々は膨大な科学の力を使い、自らの発展の為に地球を犠牲にすることを選んだ。
なんて事はおそらく、遠い遠い未来の話。
汚く殴り書かれた文字がぎっしりと詰まったそのノートには、幼かった俺の精一杯の夢が込められていた。
表紙には比較的、丁寧なゴシック体で"ミライノート"とレタリングされており、右下には
小さく"サガラ"と、擦れた自分の名前が並べられていた。
よくある未来を予知した小学生の遊びだったが、当時の俺にはひっそりと自身の空想を文字にする事で
何か達成感のようなものを感じていたみたいだ。
指先で空白の頁をなぞり、そっと目の前のダンボール箱に詰めた。
新学期を向かえ、友人に身辺整理を促されたものの、こうも懐かしい物が出てきては
部屋どころか頭の中まで片付きやしない。
ダンボールを無造作に部屋の隅に追いやると、そこそこ綺麗になった机を背に
自室を後にした。
新学期登校初日。
そこまで大イベントって事もないが、それなりにパリッと整った制服に身を包み、家を出る。
体育祭だの音楽会だの、これから起こる面倒くさい行事に目を瞑りながら
忙しく歩みを進めている社会人や、同じ学生にシンパシーを感じる。
とは言っても、今日は早めに家を出たつもりで時間には余裕がある。
このまま行けば、あと20分ほどで学校に着くだろう。
そんな事を暖かい日差しの中、うつらうつらと考えていると身体中に、
強い衝撃と鈍い痛みが駆け巡った。
「…っ?」
眼の前が真っ白になり何が起こったかよくわからない。
何かが地面を勢いよく滑るような摩擦音が聞こえ、その後、派手な金属音が耳を劈いた。