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出来たけど、日本語おかしい気がする。誤字脱字、感想等お待ちしております。
「ここどこだ?」
目を覚ました蓮は視界に入った見覚えのない天井に、いや、正確に言うのなら、天井からぶら下がる小型のシャンデリアを見つめ、首を捻る。蓮の身体は甘い匂いのする柔らかなベッドの上に寝かされていた。
蓮の持つ記憶は森の中で遭遇した変異体とかしたクレルロウルフへ向けて魔法を放ったところで途切れており、ベッドに寝かされるまでの経緯は把握できていない。
蓮が寝かされていたベッドのある部屋は素人目に見ても、高価な事が伺える数々の調度品がセンス良く置かれいた。枕元にはドレスを着た少女の人形が付いた箱があったり、置かれている箪笥や、寝かされていたベッドなどの家具もそういった物に詳しくない蓮でも高品質な物だと判断できた。
高級な宿にも見えなくはないが、部屋の節々に生活臭が感じ取れるあたり誰かの家なのだろうが、この部屋には蓮だけのようで蓮の声に答えは返ってこない。常に一緒だったスノウの姿も見当たらず、蓮は少なからず不安になる。とりあえず、ここが何処なのか確認しようとベッドから出ようとすると扉が開き、見覚えの無い男が部屋へと入ってきた。思わず布団の中で身構える蓮に対し、男は人の良さそうな笑みを向ける。
「目が覚めたようだね」
少しばかり金を薄くした短く切りそろえられた髪、威厳を出す為に生やされていると思わしき口髭、出来る男といった風体の男の目元には隈ができており、相当疲れているのが伺えた。男はベッドに近づくと蓮に頭を下げた。
「蓮君ありがとう。娘を、マリアを保護してくれて本当にありがとう」
「あ、いえ。お、僕は何もしてません。礼を言うならフィアナに言ってください」
「もちろん、彼女にもきちんと礼は述べたさ。でも、君が居なかったらマリアはフィアナ嬢に出会えなかっただろう。そうか。君は謙虚なのだな。そこらの冒険者とは違うようだ。二人も君が目を覚まさずに心配していたよ。今、二人に声をかけてくるから待っていなさい」
蓮が否定する前に男は部屋から出て行ってしまった。残された蓮は安心し、手足を投げ出すと再び布団に体重を預けた。不安が解消され安心したからか、蓮の外見からは想像が出来ないほど激しい音をたて腹の虫が空腹を訴える。今まで感じなかったのを不思議に思うほどの空腹度合いに、マリアとフィアナが来たら、すぐに食事を提案しようと心に決めた蓮。二人が来るまで暇だった蓮は、どうして魔法を使った直後倒れてしまったのかを考える。今後もこの様な出来事が起こると困るからだ。
始めに浮かんだ考えは単純な魔力切れ。だが、人の身体は、どんなに魔力を使用しても最低限の魔力が残るように作られており、とてつもない疲労感を感じ立っていられなくなることはあっても、意識を失ったりはしないので、この考えは否定する。
さらに蓮は原因を考えようとするのだが、元々魔法学園に入学したばかりであり、魔法知識に乏しい蓮には教科書の最初のほうに載っていた魔力切れ以外には思いつかず、お手上げ状態となった。そもそも魔法が発動したからといってこちらと元の世界の魔法体系が一緒だとは限らない為、あとでフィアナにでも確認しようと考えるのをやめた。
「蓮さん!」
再び腹の虫がなった直後、扉が勢いよく開けられスノウを胸に抱えたマリアが、扉を開けた勢いそのままに蓮へと駆け寄り抱きついた。抱きつく直前マリアの豊満な胸部から抜け出したスノウはさすがといえよう。そのまま抱えられていた状態だったら、間違いなく潰されていたのだから。
「ちょっと。どうしたんだよ。落ち着けって」
マリアに抱き起こされた蓮は、マリアがどうしてこんなにも大げさなのか分からないでいた。マリアは今にも泣きだしそうな表情で蓮を抱きしめている。
もし女性経験豊富な男であったならば、頭を撫でたり抱きしめ返したりと、気の利いた行動を起こせたかもしれないが、残念ながら蓮は女性経験が乏しく、泣きそうな顔のマリアを無理に引きはがす訳にもいかず、手詰まりとなる。困り顔を浮かべ、スノウに視線で助けを求めては見たが、スノウは我関せずといった風に、その光景を見つめるだけだった。
「炎の魔法を使う私にもこの部屋の熱さは堪えずらいのに、スノウは頑張ってるほうよ?」
本当に熱いわと、手で顔を仰ぎながらフィアナは部屋へ入り、ベッドの傍に置かれていた椅子へと腰掛けた。
「フィアナ!ちょっとこれどうなってるんだよ。説明してくれ」
「ああ。そうね起きたばっかだもんね。でもいいの?もうちょっとマリアの胸の感触味わってなくて」
マリアが顔を赤くし、慌てて蓮から身体を離すと一メートル後ろに下がる。フィアナに冷やかされた為に羞恥により顔を伏せてしまう。フィアナが、悪い事したかしらと悪びれず、にやにや笑いながら言うとさらに顔は朱に染まった。
「私が寝ている間に蓮さんは前髪が切られ、意識を失っていたんですもの…。それに二日経っても起きず眠り続けられてれば誰だって心配すると思います」
「そうね。だって蓮はマリアにとって王子様に等しい存在になったみたいだしね」
俯きながら話すマリアににやにや笑いをしたまま、茶々を入れるフィアナ。黙ってそのやり取りを見守ろうとしていた蓮だったが、聞き逃せない事柄が二つあった為に口を挿んだ。
「え?前髪を切ったのはフィアナだけど。なんかうざったいとか言われて。というか二日も寝てたのか俺は」
「ちょっ。何さらっとばらしてんのよ!空気読んで隠しなさいよ!」
焦りを浮かべた表情で蓮に詰め寄るフィアナ。だが、フィアナが蓮の元へ辿り着く前にその肩をマリアに掴まれフィアナは動きを止められた。
「はい。最初は魔法酔いだから、すぐに目が覚めるとフィアナさんに教えてもらい、蓮さんが目を覚ますのを待っていたんですが、丸一日起きられなかったので、フィアナさんのファングに蓮さんを乗せて私の家に運んだんです。とても心配しました。それはそうと、フィアナさん後でお話があります」
「…はい」
しょんぼりとしたフィアナの様子に蓮は思わず笑ってしまった。
◇◇◇
「フィアナ、魔法酔いってなんなんだ?」
蓮のお腹の虫がなったために早めの昼食をとった三人は、蓮が寝かされていた部屋でフィアナと蓮が突然変異体と対峙した後の事を話す事にした。
ここは普段マリアが使用している部屋だと蓮が説明された時に、フィアナが蓮をからかいもしたが、蓮がフィアナに聞きたい事があると切り出し、この話になった。
「魔法酔いを知らないなんて。いい?魔法使いにしても、私たち契約術師にしても、身体が魔法に慣れていないのに大きな魔法を使うと、一気に魔力を消費するのに驚いて、身体が急いで魔力を回復しようとするのよ。んで、効率よく魔力を回復するには寝るのが一番だから、身体が休もう休もうとして意識を失っちゃう事よ。普通なら数時間で目が覚めるもんなんだけどね。あの威力から想像はつくけど、凍る世界は恐ろしく魔力を喰うみたいね」
「なら、魔法を使うのに慣れれば凍る世界を使っても意識を失わずにすむって事か」
「蓮さん。私は出来るだけあの魔法は使わない方がいいと思うます」
「それには私も賛成ね」
黙って二人の会話を聞いていたマリアが口を挿み自分の意見を述べると、フィアナが真剣な表情で肯定した。凍る世界の威力を直に見たフィアナと、マリアだからこそ、そう言ったのだが、蓮には突然変異体を倒したという結果しか伝わっていない為に、凍る世界を使わない方がいいと主張する二人に首を傾げる。
「どうして?あんな強力な魔獣を倒せる魔法を使いこなせたら、便利だと思うんだけど」
「確かに強力なのは認めるわ。私とファングの契約が二段階目、三段階目にいってもあんな威力の魔法は使えない。いいえ。個人であの規模の魔法を使える者なんて殆ど居ないと言っていいわ。凍る世界と同規模の魔法を使用するには、魔法使いで十人、契約術師で二十人は必要だと思うわ」
「待った。規模ってなんだよ。あの魔法は魔獣以外にも影響を与えたって事か?」
「ああ、蓮は魔法を使った後、すぐに気を失ったから見てなかったわね。結構な範囲が凍ったわ。ギルドでは何で凍り漬けになっているのか調べる依頼出されたりしてるから、外でこの魔法の事は話さない方が身のためよ?ギルドのは調査でも、どっかのきな臭い組織とかに目をつけられたくはないでしょう?」
「ああ、確かにそれは困る。胆に銘じておくよ。なんかフィアナと話をすればするほどに聞きたい事柄が増えていくんだが」
「蓮さんは勉強熱心なんですね」
「違うでしょ。こいつは常識に欠けてるだけだって。だいたい契約出来てるって事は、数えで十五歳は超えてるんでしょう?あまりにも無知すぎるわよ」
溜息を吐きつついうフィアナ。蓮の無知さ加減に呆れるとともに違和感を感じ始める。魔法に携わる者じゃなくても大抵の人間は知っていて魔法に携わる者なら一番始めに習うのが魔法酔いさえ知らず、規格外の魔法を使う蓮に、フィアナは興味を持った。
「今年と言っていいのか分からないけど、数えで十五歳だよ。フィアナは偉そうに年上ぶってるけど、明らかに俺より年下だろう?」
「は?何いってるのよ。私はこれでも十八よ。ほら年上を敬いなさい」
何かに勝ち誇り今にも高笑いを始めそうなフィアナ。何故か負けた気になり歯を食いしばる蓮。他人には理解しづらい空気がその部屋の中で出来あがっていた。
「そういえば。皆さん名前だけしか教えあって居ませんでしたね。私は、マリア・フレイル。数えで十四歳です」
マリアの自己紹介を聞き、マリアの胸と自身の胸を交互に見たフィアナは固まると、未来がある未来があると呟きだす。蓮はその行為を中断させる程の勇気は無く、うまく慰める言葉も見つからなかった為に、フィアナが復活するまで十五分間マリアと雑談に興じたのであった。
◇◇◇
「思わぬダメージを受けたわ」
「大丈夫ですか?」
自分がダメージを与えた事に気づかないマリアは心配そうな表情でフィアナに近づこうとして、ジェスチャーでその動きを止められる。
「ごめん。今はこっちに来てはダメよ」
斜めに視線をやり、遠い眼をしていうフィアナの姿は痛々しかった。貧乳ネタは禁止だなと、蓮は心のメモ帳に記入する。
「マリア、あれの加工出来てるって言ってたわよね?」
「はい。出来てますよ」
「あれって?」
「まあまあ、見てからのお楽しみよ。マリア」
「はい」
置かれている箪笥の最上段の引き出しを開けるマリア。目的の物を取り出すと、蓮に見えない様、背中に隠して元の位置に戻る。
「魔獣を倒した時にね。身体は砕けたのにコレだけは残ったのよ。折角だから武器に加工してもらったわ。蓮は契約術師だから使う事はあまりないとは思うんだけど、結構良い物だから持っていて損は無い筈よ」
「加工してくださった方によると、これは魔法耐性がかなり強いそうです。それにとっても堅く形を変えれなかったので、加工といっても研いで持つところを付けただけだそうです。並の柄では切り裂かれてしまったそうで、苦労したそうですよ。大事にしてくださいね」
差し出されたマリアの手には黒い鞘の短剣が握られていた。蓮がマリアから短剣を受け取り、鞘から抜くと元は赤黒く鈍い光を放っていた牙は、研がれた事により炎を思わせる鮮やかな赤へと色を変え、鋭い光を放っていた。
「ありがとうな。もしかして、これってあいつの牙か?」
「ええ、よっぽど強い想いがこもっていたんだと思うわ。凍る世界を受けても残ったんだからね」
「これ、呪われないか?」
「それは大丈夫ですよ。フィアナさんに言われてきっちりと対処済みです」
「元は呪われていたって事?」
「冗談ですよ」
恐る恐る尋ねた蓮に、マリアはにこりと笑顔で答える。ほのぼのとした空気が辺りを満たしていく。その空気を払ったのはフィアナだった。
「はいそこ!良い空気作らない。ところで蓮はこの後どうするの?領主様にお礼をもらってこの屋敷からでた後の話ね」
「…魔法を学びたいかな。俺には知らない事が多すぎるから」
もし、蓮が魔法を使えると気づいてなければ、何言ってるんだこいつと二人に白い目で見られようとも、元の世界に帰る方法を探すと答えていただろう。だが、魔法が使えた事に蓮は元の世界に戻るより、魔法をもっと学びたい、使いこなしたしたいという気持ちが胸の内に渦巻いた為に、フィアナの問いに蓮は今の自分の気持ちを素直に伝えた。フィアナは少しばかり考える仕草を見せる。実際には考える振りなのだが蓮は全く気づかなかった。
「じゃあ、しばらく一緒に行動しましょうか?」
蓮を見上げ、提案するフィアナ。よく見れば緊張からか、断られる事への恐怖からか、その瞳には不安が見てとれる。鈍感な蓮は当然気付かない。そしてその提案を断る理由は一切無かったので、蓮は頷くとフィアナに右手を差し出した。
「よろしく。フィアナ」
「こちらこそ」
蓮と握手を交わすフィアナを、マリアが羨ましげに見ていた事に気付いたのはスノウだけであった。