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更新遅くても申し訳ない。活動報告で更新前に一応告知はしていますので、気になる方はそちらも登録お願いします。面白いのか自信はないですが、まったり更新していきますのでよろしくお願いします。

 マリアの水浴びという大きいイベントを見逃した蓮はM3から出したタオル濡らし、身体を清めた。本当は服を全部脱ぎ、泉に飛び込みたいところだったが、女性が二人もいる事を考え、自重した。

 辺りはすっかり闇に包まれており、時折遠くの方で獣の遠吠えが耳に届く。だが、獣達がこの泉に近寄ってくる事はない。蓮達三人は手ごろな石と木を集めかまどを作り、フィアナが狩ったイノシシを焼いていた。もちろん蓮やマリアにイノシシを捌く術などわかるはずもなく、フィアナの指示のもと動いた。


「なんか大きな借りが出来ちまったな」


 パチパチと音を立て燃えるかまどの火を眺めながらイノシシの肉を回すフィアナは、気にするなと、蓮に向って手を左右に振った。慣れない作業と襲われた事による疲労で、寝入っているマリアへ気を使った行動だった。その意図を察した蓮もマリアに気を使い、フィアナに続けて話しかけたりはせずに、視線を膝の上のスノウに落とす。

 暖かい焚火の熱によりうつらうつらと船を漕いでいるスノウ。彼が頭を優しく撫でるとゴロゴロと喉を鳴らし、気持ち良さそうに目を閉じた。

 それからしばらくし、イノシシの肉が香ばしい匂いを辺りに漂わせ始めると、マリアは目を擦りながら起き上った。起き上がると同時に彼女の腹部から、きゅーっと可愛らしい音が発せられる。顔を真っ赤にするマリアに蓮とフィアナは苦笑する。


「恥ずかしい…です」


「ほら、丁度焼けたし食べよ」


 フィアナがナイフでイノシシの肉を削ぎ一口大にされた肉を、泉の水で洗った大きな葉っぱにのせ、マリアへと差し出す。マリアは一瞬、蓮の方に視線をやり、俯きながらそれを受け取ると、恐る恐る指で摘み、口へと運ぶ。

 多少生臭い味がするんだろうと予想していたマリアは、ゆっくりと咀嚼していった。だが、彼女の予想はいい意味で裏切られる形となる。


「おいしい」


 マリアの呟きに、フィアナは嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 彼女は寝ていた事もあり見れなかったのだが、フィアナは肉を焼く前に下味をしっかりとつけ、泉周辺に生える草で臭みをとっていたりと手間をかけていた。常日頃から料理をしていた蓮がただ肉を焼くという単純な料理にも関わらず、下ごしらえに感心してしまう程であった。


「蓮に聞きたい事が幾つかあるんだ」


 フィアナが蓮に肉を渡したところで口を開く。ありがとうと言おうとした蓮は、フィアナの真剣な表情に、その言葉を飲み込むこととなった。

 彼女の纏う空気が変わった事に気付いたからだ。彼女は何かを探るような鋭い眼をし、蓮の瞳を真っ直ぐに見ている。

 マリアはというと、彼女を挟み蓮とマリアは座っていた為に、蓮の方を向いたフィアナの表情は見えない事もあり、空気の変化には気づかずマイペースにイノシシの肉を食べていた。


「答えられる事には答えるよ」


 イノシシ肉の載せられた葉っぱを受け取り、空気の変化に彼は気付かない振りをした。


「鈍くはないみたいね」


 蓮の迫真の演技はあっさりと見破り、思わず見とれてしまう程の笑みを浮かべるフィアナ。このやり取りだけで敵わないと悟る蓮。静かな戦いが繰り広げられていた事に、イノシシ肉に夢中になっていたマリアは気付かず、蓮とフィアナの方を見て小さく首を傾げた。


「聞きたいことって?」


 降参の意思を示すために、蓮は自分から質問を促した。


「まず一つ目、さっき私が魔法で攻撃した時に、私の魔法を防いだのは何?」


「それはこれに備わっている機能だよ」


 魔法だと嘘をつくこともできたからもしれない。だが、蓮はあえて本当の事をいう事にし、M3をフィアナに見せる。

 蓮が正直に答えたのは、ここまで世話になっておいて嘘をつくのは躊躇われた事と、嘘をつき答えたところで、彼女には直ぐに見破られると思ったからだった。


「見たことない魔具ね」


 蓮の腕を引き寄せ、M3の観察を始めるフィアナ。座っていた為に、自然とフィアナの整った顔が蓮の顔に近づく、フィアナの息が蓮の首に当たる距離だ。

 蓮の心臓は心拍数を上げていくが、わかっているのかいないのか、フィアナは十分ほどその状態でM3を観察した。女性に免疫のない蓮のライフはゼロに近い。


「近くで見てもわかる事はなかったわ」


 確信犯だったのだろう、近づいていた顔を離すと、フィアナは少しばかり意地悪な笑みを浮かべて蓮を見た。

 八つ当たり気味に肉を掴み、口の中に放り込むと力強く咀嚼する。肉が細かくなるにつれ、蓮の気は晴れて行った。

 肉に八つ当たりする事で気が晴れる十五歳。

 世の中にこのような者達だけならきっと大きな事件や、戦争は起きない平和な世の中になるだろう。


「二つ目、これはマリアに話を聞いて疑問に思ったのだけど、精霊と契約できているのに、命の危機に遭遇しても魔法を使わなかったのはどうして?魔力切れなら意識を失っている筈だし、どういう事?」


「使わないんじゃないよ。使えないんだ」


 足をぶらぶらと揺らしながら質問を続けるフィアナの様子がおかしく見え、蓮は苦笑し肉を頬張る。その様子に不満そうな表情を浮かべたフィアナも肉を持つと、小さな口で肉にかぶりついた。

 蓮はフィアナの不満を感じ取ってはいたが、嘘をついたわけではないので、これ以上話せる事はないと肉を食べ続けアピールしたのだが、彼はこの世には空気の読めない人種が存在しているのを、失念していた。


「なんで?魔力あるでしょ?」


 食べ終わった肉の骨を右手の親指と人差し指で挟み、まるで骨でリズムをとっているかの如く振りながらフィアナは短く蓮に尋ねた。

 

「魔力はあるんだけど、魔力操作が全く出来ないんだよ」


 答えるまでこの繰り返しになりそうだと思った蓮は、早々にフィアナに自分の欠点を明かした。普通の冒険者であれば自分の弱点をわざわざ話すといった愚行は犯さないものだが、この世界に着てから一日も経過していない彼にとって個人の情報の重要さがいまいちわかっていないが故の返答だった。


「魔力操作って何?魔法なんて呪文を唱えればいいだけじゃない」 


「何って言われても、簡単に言えば魔法の威力を決める要素だよ。籠めすぎれば暴発するし、足りなければ発動しない。そういう経験ないの?」


 フィアナは蓮に逆に問われ、色々と考えを巡らせた。確かに蓮のいう通り、魔法が暴発する事はある。だが、暴発は詠唱を間違えた際に起こる現象である。魔法が発動しないといった現象を聞いた記憶はなく、彼女にしてみれば今の蓮の話は眉唾ものであるのだが、嘘だと一蹴も出来ずにいた。マリアの話によると自分の命の危機においても魔法を使わなかった。それを考慮すると、彼の話は真実であるともとれる。

 蓮が魔法を使えようが使えまいが、フィアナにとってはどうでもよく、ただ暇つぶしを目的として軽い気持ちで聞いていたのだが、魔力操作という聞いたためしも無い言葉がでてきた事もあり、フィアナは蓮の魔法の腕に興味深々であった。

 彼女は、手っ取り早く蓮のいってる話の真意を確かめる方法を頭の中で模索する。そして直ぐに結果のわかる最善の方法が一つ頭の中に浮かんだ。


「なら、本当に発動しないか魔法を使ってみてくれない?」


「ああ。それぐらいなら」


 嬉々とした表情で詰め寄ってきた美少女のお願いを断れるほど、蓮は女性慣れしていなかった為に、素直に頷いた。

 後に文字通り死ぬほど後悔するはめになるとも知らずに。


「じゃあ、魔法は明日見せてね。私はもう休むわ。火はそのままでいいから二人も適当に休んでね。おやすみ」


 今から見せると思っていた蓮は拍子抜けし、マリアの視線を向けた。

 フィアナに気を使ってジェスチャーで寝るのを蓮に伝えてきた。マリアの優しさを無駄にしない様、蓮もジェスチャーを返し、横になろうと膝の上に陣取っていたスノウを退かす。スノウは一瞬不満そうに短く鳴くと横になった蓮の横で丸くなった。

 三人が寝入るのにそれ程時間は必要とせず、泉には水の湧く音、焚火の燃える音、三人の寝息が響く事となった。


◇◇◇


 夜が明け、蓮は何かざらざらし湿り気を帯びているものが、頬を撫でる感触にぞくりとし覚醒した。恐る恐る目を開き、その感触をもたらしていたものの姿を確認し、ほっと胸を撫で下ろす。


「なんだ。無駄にビビッて損したな」


 少し気だるさを感じつつも、こんなとこで寝たからだろうと考え上体を起こす。まだマリアとフィアナは目を覚ましていなかった。二人はまだすーすーと寝息をたてており、まだしばらくは起きそうになかった。


「ありがとな。助かるよ」


 現状を把握した蓮は、スノウの顎を撫でる。本音を言えば、どちらかが起きた時に起きるのが理想だったのだが、スノウに文句を言うのも何か違う気がし、彼はスノウに素直に礼を述べた。

 スノウの嬉しそうな表情に和みつつ、どうしようかと思考した。

 最初に頭に浮かんだのは、朝食の用意だった。ごちそうされたお返しをしたいところなのだが、彼はフィアナの様に魔法を自由に使えたりはしない。魔法が使えないなら剣や弓などの武器で仕留めるのがこの世界での常識なのだが、彼の手元には武器はない。例え武器があったとしても、彼には扱いきれずに持て余すだろう。

 そこで、蓮は食事では役にたてないのを悟り、他に今出来る事はなんだろう。と再度思考を再開する。五分弱ほど考えに考えを重ねていたところで、昨日のフィアナとの会話を思い出した。

 

「見せられるのかな。やれるだけやるか」


 蓮が思い出したのは、フィアナが言った魔法は明日見せてねとの言葉だった。たぶん発動しないんだろうと考えつつも、もしかしたらとの思いを胸に、魔力操作の練習をしようと決めた。

 その場に胡坐をかき、姿勢を正す。スノーが足の間に潜り込むが、今の彼の集中力はそんなことでは途切れない。身体の中にある魔力を深く感じれるように目を閉じ、蓮はさらに集中していった。

 今の蓮は、普段なら苦手とするジェットコースター等の絶叫系のマシンに乗っても、一切何も感じる事はない。


「ん?」


 自分の中の魔力に蓮は違和感を感じ思わず声を上げた。

 普段であれば最低でも三十分程は何もせず、ただひたすらに自分の魔力を巡らせようと動かすことに集中している蓮にしては珍しい。どれくらい珍しいかというと、もし宗徳がこの場にいたら彼の体調を心配し救急車を呼んでいるレベルである。

 無論、そんな珍しい事態が起きたのには訳がある。

 いつもなら、霞がかかっているのではと疑いたくなるほど、薄らとしか感じとれない自身の魔力が、何故かはっきりと感じられている事から始まり、今まではいくら早く動かそうと集中しても、亀の如き鈍い動きしか見せなかった魔力が、今は面白いように自分の思い通りに動かす事が出来ている。

 終いには、先ほどより集中が浅くなっているにも関わらず、体内にある魔力の動きはなんら変わらずに蓮の意思を受けスムーズに身体の中を巡っている。

 何故このようになっているのか蓮にはわからなかったが、もしかしたらトリニティーカードが関係しているのかと思い、彼は念の為にM3より三枚のカードを取り出してみる。

 だが、スノウの絵が描かれた以外にカードに変化は無い。


「これは関係ないのか」


 カードを取り出しからといってさらに魔力の扱いが楽になる。といったような気配は無い為に蓮はすぐにM3にカードをしまった。カードをしまった際に、飲み物とスナック菓子が入っている事に気づき、フィアナとマリアと食べようと出しておく。


「今ならいけるかもしれないな」


 口をついて出た言葉に蓮は思わず苦笑してしまった。自他共に認める落ちこぼれであった自分にも魔法が使える可能性があるかもしれない。その事に興奮してしまい、人並みに魔法に憧れていた気持ちがある事に気づいたからだ。

 そこからの蓮の行動は早かった。

 スノウを持ち上げ、足を自由にする。いやいやと不満そうに足と翼をばたつかせるスノウを地面に下ろすと、寝ている二人を起こさないように足音を抑え移動を開始する。

 興奮を抑える様に、深く呼吸を繰り返し浅くなっていた集中を再び深くしつつも、彼は歩みを止めずに森に向けて進んでいく。そんな彼の後をスノウが、てくてくと表現するのがぴったりの可愛らしい歩き方で追いかけて行った。

普段とは違う事に気がついた蓮君。この先どうなることやら。いい加減にマリアは家に届けてあげた方がいいと思う今日この頃。

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