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読み直してないんで表現がおかしいところがあったら報告お願いします。感想なども待ってます。
少女の大きな声を聞いたからか、カウンターの奥にある扉から大柄な男が姿を見せた。褐色の肌をしたその男は如何にも歴戦の強者といった外見をしており、強面の男の登場に蓮は思わず背筋を伸ばす。
男は蓮を一瞥すると、ギルド職員の少女に顔を向け口を開いた。
「クレイス。大きな声をだして何があったんだ?」
「マスター。この人凄いんですよ!スノーウイングキャットを契約もせずに連れて歩いてたんです」
クレイスと呼ばれたギルド職員の少女は興奮気味に腕を振り、現れた男に状況を説明する。幼い外見にぴったりの行動だった。普段の蓮であれば、ほほ笑むぐらいはしていたかもしれない。
だが、今の蓮は眼前の男の迫力に呑まれ、引きつった顔をしていた。
「俺は、このギルドマスター、ブライ・ドルズだ。クレイスの話は本当なのかい?お嬢ちゃん」
「はい。でも正確に言わせて頂くと、連れて歩いていたわけじゃなく、スノウが勝手についてきたんです」
機嫌を損ねたら取って食われるかもしれないという思いが、蓮の中に生まれ、その思いによって彼は慣れない敬語を使いつつ、スノウと出会って今に至るまでを簡単に説明する。女性に間違われていたが、何が原因で不機嫌になるかわからない為、あえて訂正する事はしなかった。先程まで彼の対応をしていたクレイスも特になにも言わない事から、女にしか見えないのかと少なからず蓮がショックを受けたのは、余談である。
今のところ蓮には恐怖心しか与えていないブライではあるが、実際には、ブライの評価は高く、このギルドによく来る者達にとって頼れるアニキ的存在なのだが、残念ながら初対面の者には外見と荒っぽい口調のせいで、なかなか伝わらないでいた。その事は、このギルドに所属する者達の悩みでもあった。ブライの事をよく知れば絶対に、このギルドの人気が上がると思っているからなのだが、当のブライ本人は来る者拒まず、去る者追わず、身内には甘いという性格な為に改善はされない。
そのブライはというと、蓮の話を最後まで黙って聞くと、彼は驚いた表情を浮かべいた。近くで蓮の話を聞いていたクレイスは蓮に対し尊敬の眼差しを送っていた。
「ほう。お嬢ちゃんは有望なようだな。必要契約魔力が高く、人間に懐きづらいと言われているスノーウイングキャットと自力での契約。さらには契約前に二時間以上共に過ごしているとは」
「私が思わず大声を出しちゃった理由もこれでわかって貰えましたよね?マスター」
輝いた瞳で、ブライを見つめるクレイス。ブライはこいつに何を言っても無駄なんだろうと感じつつ、ため息をひとつ吐くと、クレイスの頭に軽く拳骨を落とす。
「バカたれ。それとこれとは話が別だ。何があっても動じず騒がず冒険者のサポートをするのが、ギルド職員だと常日頃から言っているだろうが」
「うーごめんなさい」
二人のやり取りを見ていた蓮には、出来の悪い生徒に、根気よく教えている教師にも見えた。そのおかげか、蓮のブライに対する恐怖心が少しだけだが薄くなったので、クレイスは割といい仕事をしているのかもしれない。
「何度も同じ事を言わせるなクレイス。っと、すまない。んで、お嬢ちゃんはなんの用でここに来たんだ?スノーウイングキャットと契約できる程の魔力があったら引く手数多だろうに」
どこか探るような視線に、薄れてきていたブライへの恐怖心が蓮の中で強くなる。別にやましい事はしていない蓮なのだが、人見知りの気がある蓮にはブライの顔つきが十分プレッシャーになる。
「冒険者になりに来ました」
この一言を発するのに、蓮は五分程時間を消費する事になった。もちろん、ブライの目を見ていう事など出来ず、うつむいた状態でだが。
だが、この彼の行動は結果的には当たりだったようで、聞かれた事に答えたのにもかかわらず、何のリアクションも返してこないブライを不審に思った蓮が顔を上げると、クレイスは目に涙を浮かべ、ブライは鼻をすすっていた。何が起きているのかわからない蓮が口を開こうとすると、ブライはわかってるとでも言いたげな顔で、数回頷いた。続いて蓮がクレイスの方に顔を向けると「がんばってください」と激励までされてしまった。
「クレイス、後は頼んだ」
「はい。任せてください」
二人の間では蓮は捨てられた子扱いされている。強大な魔力を持つ者は時として忌み子として捨てられる事もあったからだ。二人は、その例をいくつか知っていたがために、問題なく意思疎通ができていた。 ブライはクレイスの肩を叩くと、来た道を戻り扉の奥へと消えていった。二人の行動に蓮は困惑する事しかできなかったが。
「さっそく登録しちゃいましょう」
「お願いします」
クレイスは袖で顔を拭う。すると泣き顔から、真剣な表情に切り替わっていた。
「では、説明をしていきます。ギルドに所属する者はGからSSSまでの十段階で評価されています。この評価は依頼を失敗する可能性を減らす為に取り入れられたもので、最初は必ずGからスタートとなっています。受けられる依頼は自身のランクより一つ上まで。また依頼によっては失敗した場合罰金が発生するものもありますので、依頼の紙を熟読した上で依頼を受ける事を進めております。さらに受けた依頼を途中でキャンセルした場合も罰金が発生する場合がありますので、ご注意ください。また何人かでパーティーを組まれる場合は一番ランクの高い方の依頼までうける事ができます。何かご質問はありますか?」
「いや、大丈夫」
この後もクレイスの説明は続いた。途中途中で蓮が雑談と称しこの世界の事を聞いたため、本来なら二十分程で終わる説明が一時間ほどかかったが、蓮は無事に冒険者の登録を果たしたのだった。
◇◇◇
ここはフレイルの街から二十分程歩いたところにある森の中。野生の動物からゴブリンと呼ばれる魔物やら、傷や病気の治療に使える薬草が生える大きな森だ。そんな森の中で今蓮は、川沿いに生えている薬草を採取している。無事にギルドへの登録を果たした蓮は、クレイスに勧められた初心者向きの依頼の中から薬草採取を選び、ここに来ていた。
余談だが、蓮がこの依頼をうけると言った時にクレイスは討伐系じゃないんですねと、自身がみつくろった依頼にも関わらず、がっくりと肩を落としていた。
彼がこの依頼を選んだ理由は三つある。
一つ目、蓮は魔力はあっても、魔法をちゃんと発動する事が出来ない。最悪自爆という何とも恐ろしい結果になるので、クレイスの勧める討伐系の依頼は全力で拒否した。
二つ目、採取ポイント周辺の魔物、魔獣の目撃情報が少ない事。魔物や魔獣がいなければ最高なのだが、どこにでもいるそうなので、目撃情報が少ないのを選んだ。戦闘にならなければ、魔法を使う必要がないからだ。
三つめ、この依頼が出来高制だった事だ。今、彼が採取しに来ているスミー草と呼ばれる薬草なのだが、草というのもおこがましい程に出大きく重い物であった。大きいもので、一メートル程の大きさのスミー草を五本持っていくと千ルーズ。そこからプラス一本毎に二百ルーズ報酬があがるらしい。M3がある蓮にとっては移動の際の重量などを気にしなくていい為、だいぶ楽な仕事になった。もくもくとスミー草を採取している蓮の姿を、ここにきてからやっと頭の上から離れたスノウが、近くの岩の上から退屈そうに眺めていた。
「ふー。こんなもんだな」
森の中に夕日が差し込む中、採取と移動を繰り返し、一時間程かけて計二十本のスミー草を採取した蓮は汗と土にまみれながらも満足げな表情を浮かべていた。
クレイスに聞いた話ではフレイルにある宿の一般的な値段は八百ルーズであり、単純計算で五日分の宿代を稼げた事になる。
日も落ちてきた来た事もあり、夜になると魔物や魔獣が活発化するとクレイスが言っていた事を思い出し、蓮はギルドへの帰路へとつく。
◇◇◇
「はっはっはっ」
彼女の肺は空気を求めていた。だが、彼女は立ち止り大きく息を吸いたくなる気持ちを抑え、必死に走り続ける。彼女が着ている服はお世辞にも走る事に向いているとは言えず、所々木々に引っ掛け破れていた。
だが、彼女には服などに気をやっている暇などない。全力で走らなければ彼女の身が危ないからだ。服の代わりなどいくらでもある。自身の体の方が大切だ。
彼女が乗っていた馬車を襲った者達は、彼女が森に入ると同時に追うのをやめ、フレイルの街へ続く道が見える丘の上へと移動したのだが、捕まりたくない一心で森に駆け込んだ彼女に後ろを気にする余裕などはなかった。
そんな彼女の必死の逃走に思わぬ邪魔が入る事になる。木の根っこなどに躓かないよう足元に注意して走っていた彼女は、目の前に急に現れた水色に動揺する。
それを避けるようと急いで進路を変えると、土と汗にまみれた一人の少女の姿が視界に入る。スピードを急いでゆるめようとするも間に合わず、少女を巻き込み彼女は盛大に転んでしまった。
彼女を抱きとめる形で吹き飛んだ少女は、痛みに耐えるように少し顔をしかめた。
「はっはっ、ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「ん。こっちは平気。そっちは?」
荒い息の美少女の登場に、蓮は痛みに顔をしかめつつも喜んでいた。金髪碧眼と絵に書いたような整った顔をしている彼女に、彼は今、のしかかられている状態とはいえ、抱きしめる形になっていたからだ。彼女の豊満な胸から伝わる鼓動に蓮の鼓動も早くなっていくが、彼女は素早く立ち上がる。蓮もすぐに立ち上がって彼女を観察した。
いい素材で作られている事が見てとれる彼女の服は所々破れている。今ぶつかって破れたとは考えられない程に損傷していた。トラブルの臭いを感じ取った蓮だったが、ほっとく訳にもいかない為に、彼女の返事を待った。ぶつかる原因となったスノウはと言うと、頭上で旋回している。
「はー、はー。怪我は、ないです」
「よかった。何か急いでるみたいだけど、どうしたの?服もぼろぼろだし、十二時の鐘が鳴り終わっちゃうとか?」
少しづつ息を整えていく彼女に対し、蓮は和ませようと冗談交じりに、某有名キャラクターにまつわる話を振ってみるも、もちろん伝わる様な事はない。
「十二時の鐘はよくわかりませんが、追われているんです。お願いします。助けてください」
断られるかもしれないと不安に思いながらも、蓮に助けを求めたのだが、必要とされる事を嬉しく思う蓮には放置などという選択肢はない。
「やっぱりか。なら、移動しながら詳しい話を聞かせてくれ。とりあえず森を抜けよう。ここからなら、三十分くらいでフレイルの街が見えるところまでは出れる」
彼女の予想通りの回答に、自分の予想が当たった事に脱力しつつ、蓮は歩き始めた。蓮を追ってスノウも移動し、蓮の頭の上へと着地した。
「あ、ありがとうございます。私は、マリアです。貴方のお名前は?それにその猫はいったい」
人と会えた事に安心したのか、マリアと名乗った彼女は危機から脱したわけではないのに、安堵した表情を浮かべた後、スノウの登場に驚いた顔を浮かべつつも、蓮の後に続き歩き始めた。
「俺は、白夜蓮呼ぶ時は蓮でいいよ。んで、頭の上のはスノウ。契約しているスノーウイングキャット」
「俺って…。もしかして、蓮さんは男性ですか?」
「うん」
蓮を今の今まで少女だと思っていたマリアは、先程抱きつく形になっていたのに、羞恥した。今まで男性と親しくすることのなかったマリアには刺激が強すぎたかもしれないが、緊張感に欠けていると言えるだろう。
マリアとは対照的に長く伸ばされた前髪により、隠されてはいたが、蓮は険しい表情をしていた。そもそもただのといえば語弊があるが、基本的には学生であった蓮は、戦闘訓練など受けた事がない。マリアを無事に連れていけるかは一種の賭けであった。運よく見つからずにフレイルの街に付けたら蓮の勝ち。見つかったらアウト。何をされるかわからないというなかなかにリスキーな賭けではあった。
状況を良くしようと、劣化版とはいえ、魔法自衛隊の持つタイプであるM3になにか役に立つ機能はないかと蓮は指を這わせ、ディスプレイを表示して確認していく。
その蓮の行動を見ていた後ろを歩くマリアはというと、蓮は魔法使いで、魔法術式を組んでいるんだわと思い、特に何も言う事は無かった。
蓮がM3の性能をきちんと把握していれば、この後に起きる出来事は回避できていたかも知れない。
次回更新は未定です。