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目を覚ましたら夢でした。
……とかだったら嬉しかった。いくら可愛い女の子と触れ合えたからと、ドMじゃないのにあの初期設定で生き抜こうとか思える訳がない。人生って世知辛い。神様はきっとドSの人格破綻者だね!
そんな具合に俺の起き抜けに八つ当たりの悪口罵詈を吐いてから気を取り直して辺を見渡す。
するとそこは楽園だった。
「あれ? 俺死んだのかな?」
『何言ってるんです?』
放心してつぶやくと直ぐ様隣からツッコミが来た。ちらっと見るとそこには精霊(風)の姿が。
気絶した俺を運んでそれから目覚めるまで介抱してくれていたのだろうか。
……個人的にはそこは膝枕とかだと俺としては最高に嬉しかったのだが。
『いや、運んでくれてありがとう。で、ここが?』
『はい、私たちの集落になります』
ですよねー。色とりどりの髪色した美形の女性が(離れてはいるが)チラチラと興味深気にこちらを見ている。同じ色でも顔は千差万別だった。
……個体名が無いとかのたまっていたから勝手にハンコ顔だと思っていたのだが誤算だった。
ちくしょう御陰で死後の楽園かと錯覚させられたじゃねーか。
……全面的に俺の勘違い以外の何ものでも無いので、八つ当たりとかしないけれども。
流石にそこまで鬼畜にはなれません。
『で、この状況どうしたらいい? 精霊さん』
『? 何がです?』
『いや、滅茶苦茶見られてるんだけど』
『……ああ! 私慣れていて気づきませんでした』
そういうやいなや、彼女は他の精霊たちに向かって声を掛けた。
その姿や言葉は理解できなかったが、俺に接している時と違い威厳に満ちている様に思える。
……今までの俺との掛け合いさえなければ。
なんか偉そうな雰囲気だな。それが俺の抱いた感想だった。
なんか気付いていない何かを穢された気がする。
『あ、一応これでもこの集落のまとめ役ですから。偉いっちゃ偉いかもですよ』
『えー?』
何か釈然としない。
この基本ほんわか野郎が?
……まあ、とっさの口調がとても偉そうではあったけど。
『まあいっか。取り敢えず精神疲労度を下げてもらえただけで有難い』
『ですよねー。……変にあれこれ考えられても面倒ですし』
『……この会話って無駄に伝わる音量とか変えられるのは理解したが、聞こえそうで聞こえないとかそういう話し方止めて欲しいんだけど?』
『いえいえ、気にしなくて大丈夫ですから』
『……』
わかり易すぎて冗談かと思ってスルーしていたがどうやらそうでもないらしい。
一体何を企んでやがるんだコイツは?
俺からすればガキが小賢しいく可愛らしいイタズラでも仕掛けている風にしか見えないが。
……とその時の俺は軽く流していたが、暫くしてこいつがこの時点で他の精霊共にとんでもない爆弾発言をしていたとはかけらも思っていなかった。
『さて、御陰で一応体を休ませることは出来た。落ち着いたのでこれからどうしようか考えたいと思います』
『あれ? ここにずっといたりしないんですか?』
『流石にヒモっぽく生きるのとか嫌だから。あと、対価に生命力奪われるのもな』
『ええー。減っても回復するのに……』
『同時に目減りした俺の気力が回復しない』
『でも、アサギさんはこの世界で生きる術が無いですよ?』
『ぐぬぅ……』
痛いところをつかれた。俺にはサバイバルを生き残る事が出来ない。
また、ある程度の教育を受けていて専門でなくともこの世界の水準で考えればとても高いスキルはあるかもしれないが俺にはこの世界の言葉が話せないので事務系統の仕事もこなせない。
さらには基本的なルールを知らないから適当に街中歩いたら、気付いた時には断頭台みたいな事もリアルで起こりかねない。
……ひきこもりたい。しかし、こいつに吸われるのは色々と勘弁して欲しい。
ジレンマだ。
『うーん、人のルールとか言語を多少知ってるなら教えて欲しい』
『ええ、まあ一応知ってはいますし構いませんが。別に私がその相手と会話させてあげれば』
『いやそれはない。無駄に奪われ過ぎそうで』
『……あれ? もしかして私の落ち度?』
明らかに俺が引いてるのはそれだ。偉そうな立場だと知ったから殴っていないが、俺はお前の所業を忘れてない。忘れないぞ断じて。
『でも大丈夫ですよ! さっきので大体把握しましたから』
『あれで一体何を把握したと?』
『もちろん1日で回復してショック死しない限界量を!』
『俺、お前をちょっと立場関係なしに本気でぶん殴ることにしたわ』
頭を拳骨握り締めて、言った通りに本気で殴る。お前に酌量の余地は一切無い。
頭からたんこぶが出来そうな位の手応えを感じた。
精霊は頭を抑えながらうずくまる。その後涙目になってこちらを睨んだ。
しかし全く怖くない。
『いきなり何するんですか!』
『お前が対価を無駄に奪おうとするからだろうが。というかそもそも対価なんだから取り過ぎたらだめだろう?!』
『え? 基本如何に自分の利益をバレないように増やそうと画策するのがビジネスの基本だと。商人の精霊使いから聞いたと知り合いの土精霊が』
『それは守銭奴の基本だ。友人とか恋人間で仲が良い関係でそれをやったら流石に縁切るわボケ!』
『あれ……アサギさんから見て私たちってそんな仲だったんですか?』
『……あー違いますよね』
若干頬を赤らめながら俺にカウンターを決めてきた。俺のライフに致命的なダメージ。
『なんか意見の相違がありましたが、多めに見ましょう。取り敢えず仲が良い間柄では貴賤を問わないのは理解しました。でも、私たち無償で魔法使うと最悪存在が消えてしまうので対価は必要なんです』
自然に回復はしますが、人間程ではなく。魔力を吸収する方が遥かに効率的なのだ。
人間の成長とか代謝とかのイメージか? 髪が一晩で1Mとか伸びないような感じ?
『まあ、それならある程度不便でも人の街で暮らせそうかな』
『いやいや、面倒ですしここで過ごしましょうよ』
『まあそこのは根っからの引き篭りですので巣から出たがらないのも無理からぬことでしょう』
『『?!』』
いきなり割って入ってきた声に慌てて俺と精霊(風)は周囲を見渡した。
すると離れたところに黒い女性がいた。
『む、なんじゃ闇の。言うに事欠いて引きこもりとは!! というかもう少し敬え』
『いやいや、ただだらけて集落から一歩も出ず、結果的に生き字引的な意味合いで長になった愚物のくせに』
『むきー』
……ああ、やっぱそんな感じなのね。
というか外見的にはあちらの女性の方が20台前半に対してこっちのは10台半ばとか逆なんだけど。
『それは精神年齢が関係しているからですわ、お客様』
『え? なんで俺の考えが? というかコイツ、精神年齢だったらひと桁程度じゃね?』
『アサギさん。こやつは今私たちの思考を盗み見ていたんです! というかどさくさに紛れてとても酷いこと言いましたよね今?!』
うわーマジか。なんか精霊ってなんでもアリなのかな。しかし、それは余り巫山戯たことは考えられないな……。
『いえいえ、これが出来るのは私たち闇の精霊のみです。流石にどの精霊でも出来るものではございませんわ』
『事実であるが釈然とせんのぅ。まあ、精霊にも得手不得手がありますからね』
『そこの黒いの、取り敢えずプライバシーって大事だと思うんだ』
『黒いの? 流石にその呼び方はどうかと思いますわよ?』
『いや、お前みたいな自己中にはそのくらいが丁度だ』
流石に取り柄がない俺でも、スルーして思考を読まれ続ければ怒るに決まってるだろ。
『お前ら精霊ってのはどいつも自分と違うモノの立場を考えないのか?』
『……というか、貴方様が特殊過ぎるだけです。普通の人間には私たちがどんなことをしてるのか判らないのですから、見えないものを気にすることなどありませんわ』
『そうかもしれないですけど、俺は見えるし知ってるわけですから自重しろって言ってるんだボケ!!』
俺は全く考えを改めようとしない黒いの目掛けて走っていき、その頭をはたいた。
『いたっ?! 何故私に触れるんですか貴方は! あいた、痛い!』
俺に対して疑問を投げかけて来るが先に言うべきことがあるので無視してはたき続ける。
因みにこれは暴力ではない。躾だ。
外見が5歳程度違っても中身はどっちもガキでしかない。
きっと外敵がいないからって甘え過ぎて育った弊害だろう。俺のためにも今のうちに矯正しておかないと。
『ちょっと、目が座ってますわよ?!』
『へー、意識が乱されると魔法も使えなくなるのか。精霊だとしても』
『わ、私は邪魔しませんのでどうぞごゆっくり……』
俺の黒いのに対する行動に、すっかり怯えて怒りも忘れて離れたところで震えている。
別にお前には躾とかする気ないんだけどな。……まあいい。止められないのは良いことだ。
『……あの、ちょっと? あ、ごめんなさい! 許して下さい!』
『怖い思いをしたくないからとただ謝って許されると思うなよ?』
『ひぃ?!』
『心の底から謝って二度としないと誓うまで終わると思うな』
俺はとてもいい笑顔を浮かべながら躾を再開する為に黒いのににじり寄った。
『いやぁぁぁぁっ!!』
悲鳴が夜空へと響いたが、誰も助けに来ることはなかった。