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『うむ。人の触れ合いも精霊同士とはまた違って中々素晴らしいものですな!』
『さいですか。取り敢えずヨダレ拭け?』
『おおぅ』
俺に言われてようやく緩んでいた口から垂れ流していたモノに気づいたのか、慌ててゴシゴシと頬をこする精霊。見た目の可憐さからは程遠い行動。まだほんの少ししか見ていないが、中身は結構子供っぽい。
あと、興奮すると口調が無駄に変わって面白い。
……女性に対する評価としては如何なものだが。ほら、ギャップ萌とかそんな感じで一つ。
欠片も思ってないが。
『取れました?』
『まあ、あんまり気にする事もないけどさ。あー、強くこすり過ぎるから赤くなったじゃないか』
『あれ? そういえば私達ってそんな事になるはずないんですけどね? 精霊的に基本は幽霊みたいな状態ですから』
『……うぇ?』
そうなのか。でも俺にはそう見えてる訳で……。
認識が違うからなのか? 俺の錯覚とか?
『そう言えばまだ聞いてなかったけど、精霊さんのお名前なんて言うの? 俺は朝鷺宗太。呼ぶなら「あささぎ」でも「そうた」でも構わない』
『私は風の精霊。名前とかってのは無いかな。私たちに個体名称は無いから』
『へー、それはそれで不便じゃない?』
『いえ、私たちは意思の疎通が人と違いますから。それに、個性が出てしまうと精霊魔法を使う方が大変なんですよ?』
『なんで?』
『私たちは今「風の精霊」「火の精霊」等と一纏まりで括られていますから、一回その種族の精霊と契約さえすればどの精霊からでも力を借りれます。ですが、個体名があるとそこに「名」という分類がなされます。そうすると精霊魔法を使う方にはその場その場で精霊と契約する必要が出てしまうのでとても面倒ですよ? 離れて会話出来ても、力を貸すには近くに居なければなりませんから』
そういう事か。人に力を貸す際に邪魔になるのと、そもそも必要がないからという理由で……。
『ん? でも君個人だけ名前があっても別に構わないんじゃない? というか名前がないと俺が呼びにくいし』
『んー、基本的に私はここに引きこもっていて人と関わりませんし、まあそれもありっちゃありですけど。そうなると私は名前に縛られてしまうんですよね。そうなるとアサギさんは面倒かもしれませんよ?』
『なんで?』
『いや、アサギさん魔力が無いんで名前を介して契約した場合、もし魔法使うとしたら生命力と引き換えになりますので。……そこそこの魔法使うだけでぶっ倒れますよ?』
え? 俺魔力無いの?
「って言うことは俺異世界にいながらなんの取り柄も無くね?!」
『ああ! また声に出してる!!』
『おお! すまん。思わず心の叫びが口から迸った』
流石にチートは無理でも、異世界パワーで強くなるとか欲しかった……。
『でなんていってたんです今?』
『ああ、俺小説みたいに異世界に来たのに何の取り柄も無いなと』
『いせかい?』
『そう言えば言ってなかったっけ? 俺魔法とか無い世界から来んだよ。理由は知らないけど』
『えぇ?! そうだったんですか! うわー「迷い人」さんだったんだ』
迷い人? そういった言葉があるということは、もしかして俺以外にもここに来た人がいたってことか?!
『その迷い人ってのはなんだ?』
『迷い人さんは神様のイタズラとかでやってきた人達のの事です。総じて私たちの事を認識しやすい方たちだったみたいですよ』
『へー。ということは俺みたいに触れたりする奴ってのは居なかったんだ』
『そうですね、人によってまちまちだったみたいです。だからアサギさんは取り柄が無いなんて事は無いですよ!』
と、ぐっと拳に力をいれながら俺を慰めてくれる精霊。
しかし、俺は気付いたのだ。「総じて認識力が高い」「認識力に差がある」ということは何かの差異で能力の違いが起こる訳だ。そして共通点は「精霊や魔法が無い世界」ということ。
きっと未知の感覚……違和感から認識出来る様になってるんだと思う。そして一度認識した状態でその後の精霊の認識が固定される。
俺は、来た直後にたまたま触れられるほど近くに彼女が居たからこうなったのだろう。
そして多分俺は精霊を知らない状態で接したから、彼女を人と同じように認識したのだろう。
だから彼女たち当人でも認識していない事を認識している。
それは取り柄などではなく、ただ「運が良かった」に過ぎないのだ。
大体、魔力が無いから体力でとか。現代っ子のもやしに何言ってんだ。
さっき試したけど、俺の身体機能は全く変わってなかったんだからな!
『あ、そう言えば。それでその後「迷い人」達はどうなったの?』
『皆さん天寿を全うされましたよ?』
……神も仏もありゃしねぇ。