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自由な生き方を得た人類の話(ショートショート)

作者: 藻ノ かたり
掲載日:2026/07/02

人類は、とある方法で自由な生き方を手に入れた。しかし、それはやがて……。もっともだ~、もっともだのお話。


近未来、人類は画期的な進歩を遂げる。なんと「眠らなくても良い」方法を見つけ出したのである。


それは薬を服用したり、機械の刺激を受けたりするものではなく、遺伝子の一部を改変するものだった。


この方法の良いところは、眠らない事が”人として自然”な状態となるために、薬や機械を使う方法に比べて副作用が存在しない点である。


いや、確かに最初は「遺伝子をいじるなんて」という忌避感が少なからず人々の心底にはあった。だが当然の話として強制ではないし、遺伝子操作の手術を受けなくても差別される事はない。それは政府が厳しく取り締まった。


数年後、人類の殆どは眠らないでも良い体になっていた。若者たちのタイパの思想が影響したとも言われている。要するに「眠るなんて非効率的、時間の無駄」というわけだ。


働きたい者は一日中働いて金を稼げば良いし、趣味に生きたい者は一日の半分だけ働いて、あとは好みの道楽に生きれば良いわけである。そのライフスタイルは、やがて若者だけではなく全ての世代に広がっていった。


人類は、自由な生き方を手に入れたのである。


しかし最近、良からぬ噂が世間を流れ始めるようになった。それは”秘密の贅沢”と呼ばれる遊びである。言葉だけを聞くと、なにやら怪しげな雰囲気もするが、行為そのものは極めてシンプル、法的にも倫理的にも何の問題もない営みであった。


それは「眠る事」である。


もっともグッスリと眠るわけではなく、いわゆるウツラウツラする程度の状態を、とある方法によって楽しむのだ。眠りを忘れて久しい人類は、その甘美な感覚に徐々に魅了されていった。


起きているような起きていないような、意識がハッキリしているようなしていないような……。


昔々、オハラなにがしが二度寝で味わった快楽が、時代を超えて大流行し始めたのである。皮肉にも「眠るなんて、タイパが悪い」と豪語していた若者たちから魅了され、やがてはその気持ちの良さを思い出すように高齢者にも伝播していった。


ここで慌てたのが政府である。


人々が一日中働けば、それだけ産業は活発化するし、市民の所得が増えた分、徴収できる税金も増す。また法人税もしかりであった。それが人々の間に眠りが蔓延するようになり、目に見えて税収が落ち込んできたのである。


一方、一日の半分を趣味に生きる者たちの場合においても、同様の問題が生じてきた。大抵の趣味には金がかかるわけで、それは企業を潤わせる。これまた莫大な法人税が国に入る事となっていたが、”眠る”という、本当に金がかからない楽しみが浸透したために、企業の利益は落ち込み、そこから入るはずの税金も著しい減収となった。


考えあぐねた政府は、起死回生の一手を打つ事となる。


それは「睡眠税」の導入だ。


眠る時はその時間を正確に計り、それに見合った安くはない税金を所得税に上乗せされる。ごまかした者には容赦なく強烈な重加算税が課せられた。一部の市民からは「眠る自由を!」と抗議の声が上がったものの、良くも悪くも平和になった世の中はこの税金を受け入れた。


数年後、予想通りと言うべきか運命と言うべきか、贅沢な趣味としての”眠り”を、ほぼ全ての人たちが楽しむようになった。そして高額の睡眠税を支払うために、昼間はあくせくと働く毎日なのである


多くの人たちの心に”元の木阿弥”という言葉が浮かんだが、それを口にする者は誰一人としていなかった。人々は現実から逃れるため、心地よく舟をこぐ。

睡眠税も滞納者が徐々に増えているようだ。


人類が”身上をつぶす日”も、そう遠い日ではないのかも知れない。



【終わり】


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