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あなたが知ってるようで知らないおとぎ話

ネズミの国のランプ

作者: シャム吉
掲載日:2026/06/20

――これは、あなたが知っているようで知らないおとぎ話。


挿絵(By みてみん)


 料理修行のため旅をしている木こりの娘・アンは、精霊・ジンが宿っているランプを持って、木陰で休憩していました。

 するとそこに、時計を見ながら慌てているネズミが現れました。ネズミは、近くにあった穴に飛び込んでいきます。

 ジンと二人で、おにぎりを食べていたアンは、驚き、穴の中を覗きました。


「さっきのネズミ、時計持っていたよね?」


「お前は、カエルが喋っていても動じないのに、ネズミが時計を持っていたら驚くのか?」


 ジンは呆れていました。


「えっ、普通、驚かない? ……それより、この穴の中、どうなってるのかな?」


「試しに物でも落としてみるか」


 そう言って、ジンは持っていたおにぎりを穴に落としました。


――おむすびころりん……。


「ああ~!! 何てことするの!?」


 アンが叫びます。


「別に、俺のだから良いだろ? 腹は、いっぱいになったし」


「食べ物を粗末にしないでよ! 米粒一つでも、色んな人の思いが込められてるんだよ!!」


 いつも淡々としているアンが、珍しく怒りましたが、ジンはヘラヘラ笑っています。


「大げさだな~」


「田植えした人の苦労は!? 育ててる時の天候などで不安は!? 収穫した時の喜びは!? お米を手に入れた時の安心は!? グルメのあなたに美味しいって言わせたくて、握った私の思いは!?」


「わっ、わかった、わかった」


「絶対わかってないでしょ!」


「まったく、面倒だな……。じゃあ、取ってくればいいんだろ」


「えっ?」


 ジンはそう言うと、自らランプを穴に落としました。


「ジン!?」


 アンは慌てて穴の中を覗きました。


――ランプがころりんすってんてん。……わあ、このランプ、何かに使えそうだ!! 女王様のところに持ってこう!


「うわっ!ちょっと待て!」


 中からそんな声が聞こえ、アンは青ざめました。


「ジン!?」


 もう穴から何も聞こえてきません。

 アンは勇気を出して、自分も穴へ飛び込みました。



 穴の中は思ったよりも明るく、アンは驚きました。どうやら、ある部屋の一室のようです。


「ジン!」


 アンはランプを探しますが、どこにもありません。

 足下に、アンでは通れないとても小さな扉があり、それ以外は他へ進める手段はなさそうです。

 アンは困り果てて、ふとテーブルを見ると、怪しげな液体が入った小瓶がありました。横には『小さくなれます』と書かれた紙があります。


「怪し過ぎるけど……。でも、どんな味がするのか、飲んでみたいかも……」


 アンはおっかなびっくりで、一気飲みをしました。すると、見る見るうちに体が小さくなります。


「美味しくなかった……」


 アンは、先程の小さな扉を開けました。


 次は、畳が敷いてある座敷に出ました。そこでは、ネズミ達が宴会をしていました。


「やあ、お嬢さん! 待ってたよ! さあ、食事だよ! お食べ!」


 ネズミ達はアンを見つけるとそう言い、座布団に座らせました。

 しかし、皿にも湯呑みにも何も入っていません。


「空だけど…?」


「遠慮はいらないよ!」


 話が通じないネズミに戸惑いましたが、アンは食べ物は自分で用意するものだと解釈し、立ち上がると厨房へ向かいました。

 ネズミ達を押しのけて、アンが作るご馳走を、ネズミ達はよだれを垂らして見ています。


「ひょっとして、さっき穴から落ちてきたおむすびを作った人?」


「ジンが落としたものだね? そうだよ」


「あの塩加減握り具合、とても美味しかったよ!」


「ありがとう! で、その後ランプが落ちたハズだけど知らない?」


「あっ」


 ネズミは気まずそうな顔をしました。


「知ってるんだね?」


「うっ……、うーん……」


「白状しなさい!」


「……猫の女王様のところに持ってた」


「その女王は、どこにいるの? 連れて行って!」


「……」


「案内してくれたら、この食事あげるから」


「ついてきて!」


 アンはネズミの後に続きました。



 アンはお城に連れてきてもらいました。


「気をつけて、暴君だよ。」


 ネズミはそうこっそり言うと、逃げるように去っていきました。

 アンは勝手に城の中へ入って行くと、王の間で威張った感じで座っている猫の女王がいました。


「何だい? 人間の小娘が?」


「ランプ、返して下さい。あれは、私のなんです」


「ランプ? ……ああ、ネズミが持ってきた小汚いランプかい?」


 女王はジンのランプを取り出すと、人物の足元に転がし足蹴にしました。ジンは出てくる気配がありません。アンは慌てます。


「やめて下さい! そして、返して下さい!」


「このランプはもうあたしのだよ。あたしの機嫌の良い内に帰りな」


「駄目です。ジンには、まだ三つ目の願い叶え終えてもらってないんだから!」


 女王は驚きます。


「ほう……。噂では聞いたことがあるが、これが願いを叶えてくれる魔法のランプか……」


「あっ……」


 アンは「しまった」と口を押さえます。


「馬鹿! 何口滑らせてるんだよ!」


 ランプの中から、ジンの声が聞こえました。


「どうやら本当のようだね」


「待って! ランプは譲れません。私はまだジンと旅をしたいんです!」


「うるさい小娘だね。食べておしまい!」


 横の部屋から、猫兵士が現れました。


「丁度、ネズミサイズ。怖くないわ! 人間なんて食べたことないしね」


「えっ……。料理ならいくらでも食べさせるけど、自分が食べられるのはちょっと……」


 パニックになって逃げられないでいるアンに向かって、兵士は大きく口を開きました。

 食べられる、と思った瞬間、アンの体が大きくなり始めました。というより、元の大きさに戻りました。

 女王と兵士は驚いています。

 アンはランプの方を見ると、ジンがランプから出ていて、親指を立てて見せました。

 アンはニヤリとし、女王に向かいます。


「さあて、誰を食べるんですか? 私、料理の腕に自信があるんですよ。でも、猫を試すのは初めてだな~」


「ひぃ!」


 アンが腕まくりをすると、女王は顔を強ばらせます。


「ゆっ、許しておくれ」


「いくら女王様でも、それなりの態度があるはずですよ?」


「おい、お前! あれを!」


 女王は声をあげると、兵士は慌てて奥へ行き、大小一つずつのつづらを持ってきました。


「大きなつづらか小さなつづらかどちらかやる。家に帰るまで開けなければ、良い物が出てくる」


「そんなのいりません」


 アンはそう言って女王に近づき、足元に転がっているランプを拾い上げました。


「ランプ、返してもらいますね。他はいりません」


「あっ、ああ」


 女王は何度も頷きました。



 アンは、ジンの魔法で地上に戻ってきました。


「ジンが魔法使えば、簡単だったじゃん」


「いや、魔法の制約があって使えなかった。それに、俺は、持ち主が戻ってきて欲しいと思わなければ、元の持ち主のところへは戻れないんだ」


「そんなの、戻ってきてほしいに決まってるよ」


 ジンはうつむきました。


「……悪かった。おにぎり、ネズミ達が食べてしまってた。いつも、食事を食べさせてもらってて、その作ってもらえるありがたみを忘れてた」


「……うん。覚えておいて。いつか、ジンが参りましたと言うくらい美味しい料理見つけるんだから! だから、行こう」


「アン、ありがとな」


 アンは立ち止まり、目を見開きました。


「どうかしたか?」


 ジンは首を傾げます。


「初めてだね」


「何が?」


 アンは答えず、ニコリと笑っただけでした。


「さあ、行こう!」


 アンとジンは、次の国へ向かうのでした。


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