ネズミの国のランプ
――これは、あなたが知っているようで知らないおとぎ話。
料理修行のため旅をしている木こりの娘・アンは、精霊・ジンが宿っているランプを持って、木陰で休憩していました。
するとそこに、時計を見ながら慌てているネズミが現れました。ネズミは、近くにあった穴に飛び込んでいきます。
ジンと二人で、おにぎりを食べていたアンは、驚き、穴の中を覗きました。
「さっきのネズミ、時計持っていたよね?」
「お前は、カエルが喋っていても動じないのに、ネズミが時計を持っていたら驚くのか?」
ジンは呆れていました。
「えっ、普通、驚かない? ……それより、この穴の中、どうなってるのかな?」
「試しに物でも落としてみるか」
そう言って、ジンは持っていたおにぎりを穴に落としました。
――おむすびころりん……。
「ああ~!! 何てことするの!?」
アンが叫びます。
「別に、俺のだから良いだろ? 腹は、いっぱいになったし」
「食べ物を粗末にしないでよ! 米粒一つでも、色んな人の思いが込められてるんだよ!!」
いつも淡々としているアンが、珍しく怒りましたが、ジンはヘラヘラ笑っています。
「大げさだな~」
「田植えした人の苦労は!? 育ててる時の天候などで不安は!? 収穫した時の喜びは!? お米を手に入れた時の安心は!? グルメのあなたに美味しいって言わせたくて、握った私の思いは!?」
「わっ、わかった、わかった」
「絶対わかってないでしょ!」
「まったく、面倒だな……。じゃあ、取ってくればいいんだろ」
「えっ?」
ジンはそう言うと、自らランプを穴に落としました。
「ジン!?」
アンは慌てて穴の中を覗きました。
――ランプがころりんすってんてん。……わあ、このランプ、何かに使えそうだ!! 女王様のところに持ってこう!
「うわっ!ちょっと待て!」
中からそんな声が聞こえ、アンは青ざめました。
「ジン!?」
もう穴から何も聞こえてきません。
アンは勇気を出して、自分も穴へ飛び込みました。
穴の中は思ったよりも明るく、アンは驚きました。どうやら、ある部屋の一室のようです。
「ジン!」
アンはランプを探しますが、どこにもありません。
足下に、アンでは通れないとても小さな扉があり、それ以外は他へ進める手段はなさそうです。
アンは困り果てて、ふとテーブルを見ると、怪しげな液体が入った小瓶がありました。横には『小さくなれます』と書かれた紙があります。
「怪し過ぎるけど……。でも、どんな味がするのか、飲んでみたいかも……」
アンはおっかなびっくりで、一気飲みをしました。すると、見る見るうちに体が小さくなります。
「美味しくなかった……」
アンは、先程の小さな扉を開けました。
次は、畳が敷いてある座敷に出ました。そこでは、ネズミ達が宴会をしていました。
「やあ、お嬢さん! 待ってたよ! さあ、食事だよ! お食べ!」
ネズミ達はアンを見つけるとそう言い、座布団に座らせました。
しかし、皿にも湯呑みにも何も入っていません。
「空だけど…?」
「遠慮はいらないよ!」
話が通じないネズミに戸惑いましたが、アンは食べ物は自分で用意するものだと解釈し、立ち上がると厨房へ向かいました。
ネズミ達を押しのけて、アンが作るご馳走を、ネズミ達はよだれを垂らして見ています。
「ひょっとして、さっき穴から落ちてきたおむすびを作った人?」
「ジンが落としたものだね? そうだよ」
「あの塩加減握り具合、とても美味しかったよ!」
「ありがとう! で、その後ランプが落ちたハズだけど知らない?」
「あっ」
ネズミは気まずそうな顔をしました。
「知ってるんだね?」
「うっ……、うーん……」
「白状しなさい!」
「……猫の女王様のところに持ってた」
「その女王は、どこにいるの? 連れて行って!」
「……」
「案内してくれたら、この食事あげるから」
「ついてきて!」
アンはネズミの後に続きました。
アンはお城に連れてきてもらいました。
「気をつけて、暴君だよ。」
ネズミはそうこっそり言うと、逃げるように去っていきました。
アンは勝手に城の中へ入って行くと、王の間で威張った感じで座っている猫の女王がいました。
「何だい? 人間の小娘が?」
「ランプ、返して下さい。あれは、私のなんです」
「ランプ? ……ああ、ネズミが持ってきた小汚いランプかい?」
女王はジンのランプを取り出すと、人物の足元に転がし足蹴にしました。ジンは出てくる気配がありません。アンは慌てます。
「やめて下さい! そして、返して下さい!」
「このランプはもうあたしのだよ。あたしの機嫌の良い内に帰りな」
「駄目です。ジンには、まだ三つ目の願い叶え終えてもらってないんだから!」
女王は驚きます。
「ほう……。噂では聞いたことがあるが、これが願いを叶えてくれる魔法のランプか……」
「あっ……」
アンは「しまった」と口を押さえます。
「馬鹿! 何口滑らせてるんだよ!」
ランプの中から、ジンの声が聞こえました。
「どうやら本当のようだね」
「待って! ランプは譲れません。私はまだジンと旅をしたいんです!」
「うるさい小娘だね。食べておしまい!」
横の部屋から、猫兵士が現れました。
「丁度、ネズミサイズ。怖くないわ! 人間なんて食べたことないしね」
「えっ……。料理ならいくらでも食べさせるけど、自分が食べられるのはちょっと……」
パニックになって逃げられないでいるアンに向かって、兵士は大きく口を開きました。
食べられる、と思った瞬間、アンの体が大きくなり始めました。というより、元の大きさに戻りました。
女王と兵士は驚いています。
アンはランプの方を見ると、ジンがランプから出ていて、親指を立てて見せました。
アンはニヤリとし、女王に向かいます。
「さあて、誰を食べるんですか? 私、料理の腕に自信があるんですよ。でも、猫を試すのは初めてだな~」
「ひぃ!」
アンが腕まくりをすると、女王は顔を強ばらせます。
「ゆっ、許しておくれ」
「いくら女王様でも、それなりの態度があるはずですよ?」
「おい、お前! あれを!」
女王は声をあげると、兵士は慌てて奥へ行き、大小一つずつのつづらを持ってきました。
「大きなつづらか小さなつづらかどちらかやる。家に帰るまで開けなければ、良い物が出てくる」
「そんなのいりません」
アンはそう言って女王に近づき、足元に転がっているランプを拾い上げました。
「ランプ、返してもらいますね。他はいりません」
「あっ、ああ」
女王は何度も頷きました。
アンは、ジンの魔法で地上に戻ってきました。
「ジンが魔法使えば、簡単だったじゃん」
「いや、魔法の制約があって使えなかった。それに、俺は、持ち主が戻ってきて欲しいと思わなければ、元の持ち主のところへは戻れないんだ」
「そんなの、戻ってきてほしいに決まってるよ」
ジンはうつむきました。
「……悪かった。おにぎり、ネズミ達が食べてしまってた。いつも、食事を食べさせてもらってて、その作ってもらえるありがたみを忘れてた」
「……うん。覚えておいて。いつか、ジンが参りましたと言うくらい美味しい料理見つけるんだから! だから、行こう」
「アン、ありがとな」
アンは立ち止まり、目を見開きました。
「どうかしたか?」
ジンは首を傾げます。
「初めてだね」
「何が?」
アンは答えず、ニコリと笑っただけでした。
「さあ、行こう!」
アンとジンは、次の国へ向かうのでした。




