表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今度は畳の上で笑い合おう〜戦国の業火を越えて二人の魂が辿り着いた約束の地〜  作者: 桐生宇優


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/8

第一章:猛将の沈黙、姫の微笑み

挿絵(By みてみん)

※AI生成の表紙

織田家の猛将として恐れられた「鬼柴田」こと柴田勝家。

戦場では無敵の彼が、唯一太刀打ちできない相手

――それが主君の妹、お市の方でした。

不器用で真っ直ぐな男の、四百年にわたる純愛がいま幕を開けます。

挿絵(By みてみん)

春の陽光が、尾張・那古野城の回廊を、柔らかな黄金色に染め上げてゆく午後のことでございました。


庭に咲き誇る山桜の花びらが、そよ風に吹かれては、まるで夢の欠片のようにひらひらと舞い落ち、静寂に包まれた城内に、微かな春の吐息を運んでまいります。


その静謐を破るように、ドシン、ドシンと、地響きにも似た重苦しい足音が廊下に響き渡りました。

織田家が誇る猛将、「鬼柴田」こと柴田権六勝家その人でございます。


戦場にあっては、数千の敵をひと睨みで退かせ、その剛腕から繰り出される槍の一突きは岩をも砕くと恐れられる男。その筋骨隆々とした体躯は、まるで行く手を阻む壁のように猛々しく、すれ違う小姓たちが思わず身をすくめるほどの威圧感を放っておりました。


しかし、その「鬼」が、ある角を曲がった瞬間に、ぴたりと動きを止めたのでございます。


視線の先には、庭を眺めながら静かに座る、一人の姫君の姿がありました。


織田信長公の妹、お市の方様。


透き通るような白磁の肌に、春の雲のようにふわりと流れる黒髪。その佇まいは、乱世の荒々しさを忘れさせるほどに気高く、それでいてどこか儚げな美しさを湛えておられました。


勝家様の心臓は、戦場の太鼓よりも激しく、その胸板を打ち鳴らし始めます。


「お、お、お……」

声をかけようとするものの、喉がまるで鉄で固められたかのように動かず、ただ大きな口を金魚のようにパクパクとさせるばかり。

あまりの緊張に、いつもは軽々と振り回すはずの己の足が、まるで借り物の棒のようにもつれ、あろうことか勝家様は、何もない平らな廊下で派手に躓いてしまったのでございます。


「おっとっと、ぬおぉっ!?」

たたらを踏み、壁に肩を強かに打ち付け、その勢いで飾られていた花瓶が危うく倒れそうになるのを、勝家様は必死の形相で、まるでお手玉でもするかのようにバタバタと受け止めました。

その姿は、まさに曲芸を披露する大きな熊のようでございました。


その騒がしさに、お市の方様がゆっくりと振り返ります。

驚きに目を見開いたのも束の間、彼女の唇からは、堪えきれないといった風な、鈴を転がすような笑い声が溢れ出しました。


「まあ、勝家様。今日はまた、一段と賑やかなお出ましでございますね」


お市様は、立ち上がると、まるでお転婆な息子を叱る母親のような足取りで勝家様に歩み寄ります。そして、彼の大きな額に浮かんだ脂汗を、懐から出した紅絹のハンカチで、そっと、優しく拭い取って差し上げるのでした。


「殿は戦ではあんなに勇ましいのに、私の前では、まるで生まれたての小鹿のよう。そんなに身を硬くしては、せっかくの春風が逃げてしまいますよ?」


勝家様は、その至近距離から漂う白檀の香りと、お市様の柔らかな指先の感触に、もはや息をすることさえ忘れたかのように呆然と立ち尽くすばかり。


「は、はは、申し訳……ございませぬ……」

絞り出した声は裏返り、顔は茹で上がった蛸のように真っ赤に染まっております。


「もう、本当にお手のかかるお方。ほら、兜の緒が曲がっておりますわ。じっとしていてくださいませね」

お市様はクスクスと笑いながら、勝家様の太い首元に手を伸ばし、甲斐甲斐しくその装束を整えてゆきます。


その時、勝家様は思いました。

この人の前でなら、鬼と呼ばれようが、道化と呼ばれようが構わない。ただこの穏やかな時間が、永遠に続けば良いのに——。


しかし、その願いが、後に戦国の非情な運命によって引き裂かれることになろうとは、この時の二人は、まだ知る由もなかったのでございます。


史実解説

読者の皆さん、第一章をお読みいただきありがとうございます!

ここでは物語の背景をもっと深く楽しんでもらうために、当時の歴史について少しだけ分かりやすく解説しますね。


1. 柴田勝家ってどんな人?

物語ではお市の方の前でタジタジな勝家ですが、史実では「織田家最強の武将」の一人です。

鬼柴田おにしばた」というあだ名は、戦場での暴れっぷりが鬼のように強かったことからつきました。

また、別名「瓶割り柴田かめわりしばた」とも呼ばれています。これは、敵に囲まれて水が尽きそうになった時、残りの水が入った瓶をあえて叩き割り、「もう後がないぞ、死ぬ気で戦え!」と味方を鼓舞して大逆転勝利を収めたというエピソードからきています。実はとってもワイルドで熱い男なんです。


2. 舞台となった「那古野城なごやじょう

今回登場したお城は、今有名な「名古屋城(徳川家康が建てたもの)」とは別の場所にありました。今の名古屋市中区、愛知県庁のあたりにあったと言われています。

織田信長が若い頃に拠点にしていたお城で、勝家もここで信長やその家族を支えていました。物語のように、幼い頃のお市の方と勝家がこの場所で顔を合わせていた可能性は十分にあります。


3. 勝家と信長の複雑な関係

実は、勝家は最初から信長に忠実だったわけではありません。若い頃の信長があまりに「うつけ(変わり者)」だったため、勝家は一度、信長の弟をリーダーに立てて信長に反乱を起こしたことがあるんです。

結果は勝家の負け。

しかし、信長はその勇猛さを惜しんで勝家を許しました。それ以来、勝家は命をかけて信長に尽くす「忠義の男」に生まれ変わったのです。


4. 戦国のアイドル、お市の方

お市の方は、信長の妹として当時「日本一の美女」とまで言われていました。

ただ美しいだけでなく、兄の信長からは「市が男だったら、立派な武将になっただろうに」と評されるほど、芯の強い女性だったと伝えられています。

当時の勝家とお市の方の年齢差は諸説ありますが、20歳ほど離れていたと考えられています。

物語はここから、運命の濁流へと飲み込まれていきます。第二章もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ