第6話 騎士の信頼
アランは包丁剣の再現に失敗し、工房でうなだれていた。
材料は揃い、魔力も注入したはずなのに、あの切れ味は戻らない。
「どうして……どうして再現できないんだ……」
絶望に打ちひしがれるアランの耳に、扉の開く音が響いた。
「アラン、話がある」
振り返ると、そこには昨日の戦場で包丁剣を振るった騎士、リカルドが立っていた。
その表情は変わらず真剣で、しかしどこか優しさを湛えている。
「昨日の剣、ありがとう。あれで俺は仲間を救えたんだ」
リカルドは深々と頭を下げた。
アランは胸が熱くなるのを感じた。
たとえ失敗作でも、誰かの命を守った事実がそこにあった。
「でも……再現はできません。偶然の産物だったんです」
アランは言葉を詰まらせる。
錬金術師として、完璧な作品を届けられない無力さを痛感していた。
リカルドは包丁剣を握りしめ、笑った。
「失敗作でも構わない。俺にはこれが必要だ」
その言葉は力強く、アランの心に深く刺さった。
「君の作る剣には魂がある。偶然でも、努力でも、それは変わらない」
アランは息を呑む。
誰かが自分を信じ、必要としてくれること――
魔術師時代には味わえなかった感覚だった。
「よし……やるしかないな」
アランは決意を新たにし、再び作業台に向かった。
完全な再現は難しくても、少しずつ改良を重ねれば、必ず剣は強くなる。
リカルドは剣を持ったまま頷く。
「君が作る剣なら、俺は信じて戦える」
その言葉に、アランは小さく微笑んだ。
錬金術師として、初めて“誰かの期待に応える”喜びを知った瞬間だった。
偶然が生んだ奇跡は、信頼によって必然へと変わり始める。
夜、工房の明かりの下でアランは誓った。
「必ず、あの包丁剣を自分の手で作り上げてみせる――」
騎士の信頼を胸に、錬金術師としての新たな一歩が静かに踏み出されたのだった。




