第3話 錬金術師としての現実
アランは翌朝、工房で材料を並べながら深く息をついた。
錬金術師としての初仕事は、思ったよりも手ごわかった。
「魔術とは全く勝手が違う……」
魔力を直接操る魔術と違い、錬金術は材料、温度、配合、工程すべてが結果を左右する。
一つでも間違えば、ただの金属の塊にしかならないのだ。
包丁剣の再現を試みるが、毎回微妙に形や重さが違う。
「こんなもの、戦場で使えるわけがない……」
アランは頭を抱え、作業台に顔を伏せた。
リカルドはそんな彼を気にも留めず、にこやかに言った。
「大丈夫だ。失敗しても、俺は君の努力を認める」
その言葉に、アランは小さく笑う。
誰かが自分を必要としてくれる――魔術師時代には味わえなかった感覚だった。
しかし現実は厳しい。
街の商人からは「こんな奇妙な剣、誰が買うんだ」と嘲笑され、
材料費はどんどん嵩む。
「錬金術師は、技術だけじゃ生きていけない……経営も必要か」
アランはそう呟き、筆記用具を取り出した。
材料費、手間、可能な改良案――全て計算に入れ、次の作業計画を立てる。
その時、工房の扉が静かに開いた。
見慣れた顔――リカルドだった。
「今日も頼むぞ、包丁剣」
アランは深く息を吸い、剣を手に取った。
「よし……今日こそ、少しでも近づけてみせる」
錬金術師として、初めて自分の力で何かを生み出す――その責任感が、胸を熱くした。
だが、再現作業を進めるにつれ、アランはある現実に直面する。
「偶然の産物だった包丁剣は、二度と同じ形にはならない……」
微細な魔力の循環構造が、手作業では完全に再現できないことがわかったのだ。
「失敗作だから……偶然だったから……」
アランは悔しさに拳を握る。
しかし、リカルドの目が、彼に勇気を与える。
「大丈夫、君の錬金術は間違っていない」
たとえ完全には再現できなくても、錬金術師としての道は始まったばかりだ。
アランはその言葉を胸に刻み、再び金属を手に取る。
包丁剣の噂はまだ街に広がり続ける。
そして、彼が錬金術師として生きる道の試練は、これから始まるのだった。




