第2話 正体露見の危機
翌日、工房の扉が勢いよく開いた。
「アラン! 君にお願いがある!」
振り返ると、昨日戦場で包丁剣を振るった騎士――リカルドが立っていた。
笑顔の奥に、真剣な目が光る。
「包丁剣を、もっと作ってほしいんだ」
その言葉に、アランの心臓は跳ね上がった。
「いや……あれは失敗作だ。作り直そうとしても、たぶん再現できない」
アランは必死に説明する。
魔術師時代なら、こんな失敗作は笑い話で済んだかもしれない。
だが錬金術師として、自分の“技術不足”が露呈するのは恐ろしいことだった。
リカルドは肩をすくめ、笑った。
「偶然の産物でも構わない。俺はあの剣が好きなんだ」
アランは目を見開く。
「偶然の産物……!? 俺の技術の評価がそれだけで決まるのか……」
しかしリカルドの眼差しは、決して茶化しているわけではなかった。
戦場で包丁剣が切り裂いた敵を思い出すだけで、信頼は揺るがなかったのだ。
アランは仕方なく、工房の作業台に剣を置いた。
「わかった……一応、作ってみるか」
その言葉は、自分でも意外なほど軽やかだった。
だが錬金術師として初めての“量産挑戦”は、すぐに壁にぶつかる。
包丁剣を再現しようと金属を加工するが、刃の形も重心も微妙に違ってしまう。
いくら調整しても、あの切れ味は再現できなかった。
「こんなはずじゃ……」
アランは自分の手を見つめ、頭を抱える。
「偶然が奇跡を生む――そんなものか……」
リカルドは笑いながら言った。
「大丈夫。失敗しても、俺は君を信じる」
その言葉に、アランの心に小さな火が灯った。
たとえ失敗作でも、誰かに必要とされることの重み。
それを初めて実感した瞬間だった。
夕暮れ、工房の窓から差し込む光が、アランと包丁剣を照らす。
「よし……やるしかないな」
錬金術師として、彼の新しい日々が動き出す瞬間だった。
そして、この出来事が、後に大騒動を巻き起こす序章となることを、
アランはまだ知らなかった。




