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第2話「解読不能!? 職人の言葉は現場に踊る」

昨日までの私は、日本語を話していたはずだった。

でも、この「現場」という国に足を踏み入れた瞬間、

私の語彙力は、ただのガラクタになった。

「そこ、ハト小屋作っといて」

「トラ置いといたから気をつけて」

「角のメンボウ、忘れんなよ」

ハトを飼うの? トラが出るの?

耳かきの綿棒メンボウで掃除でもするの……?

飛び交うのは、辞書には載っていない「現場の言葉」。

それは、何十年もの間、荒くれ者たちが汗を流しながら作り上げてきた、

最短距離で意思を伝えるための、鋭くて温かい**「職人の暗号」**だ。

新米監督・佐藤てっこ、22歳。

今日は図面とメモ帳を握りしめ、この「現場語」という迷宮に挑む。

分からなければ、聞く。

怒られたら、メモをとる。

鉄の匂いとコンクリートの粉にまみれながら、

一つひとつの言葉の意味を知るたびに、

冷たい建物の骨組みが、少しずつ「私の知っている場所」に変わっていく。

さあ、今日はどんな暗号が待っている?

佐藤てっこの現場手帳、2ページ目が今、開かれる。

1. 朝の事務所


現場配属2日目。てっこは所長から1枚の図面を渡されました。


「てっこ、型枠のパネ美さんとこ行って、この『100のフカシ』が現場でどうなってるか見てこい」


「フカシ……? 深い、んですか?」


てっこが首を傾げると、所長はニヤリと笑って「現場で聞いてこい」とだけ言いました。



2. 現場の迷宮


3階へ上がると、パネ美が大きなコンパネ(木の板)をバールで叩いて調整していました。


「パネ美さん! あの、ここ、100のフカシ……ってどうなってますか?」


勇気を出して聞くてっこに、パネ美は手を止めて尋ねます。


「あー、そこね。今のままだと『ノリ』が悪いから、少し『ふかして』調整しといたよ。あ、ついでにそこの『メンボウ』も取っといて!」

(メンボウ……? お掃除する綿棒?)


パネ美が指差したのは、木枠の角に打ち付けられた細い三角の棒(面取り材)。

(違う! 私が知ってる綿棒じゃない……!)



3. 鉄筋エリアの「暗号」


混乱するてっこの横で、レンが黙々と鉄筋を組んでいます。


「レンさん! パネ美さんが『メンボウ』って……」


「……てっこさん、あれは面取めんとりの棒。コンクリの角を丸くするためのもの。……あと、そこの『ハト小屋』の図面、持ってる?」

(ハト小屋!? 現場で鳥を飼うの!?)


てっこの頭の中には、屋上でクルッポーと鳴く鳩の姿が浮かびます。


しかし、レンが指差したのは、屋上にボコッと突き出た「配管を通すための小さな構造物」のことでした。



4. 職人語の洗礼


「おーい、新人ちゃん! そこ『トラ』置いてあるから気をつけて!」


通りすがりの職人さんが叫びます。

(トラ!? 猛獣!?)


慌てて足元を見ると、そこにあるのは黄色と黒の縞模様の「立ち入り禁止バー」。



「……もう、何がなんだか分かりません……!」


てっこはその場にしゃがみ込みそうになります。建築用語辞典には載っていない、現場独自の「生きた言葉」が、四方八方から飛んできて頭がパンク寸前です。



5. 詰所での答え合わせ


10時の休憩。詰所でパネ美が「はい、新人ちゃん」とコーヒーを差し出してくれました。


「ごめんね、現場の言葉って変でしょ? 『フカシ』は厚みを増やすこと、『メンボウ』は角を綺麗にすること。鳩は飼わないし、虎も噛まないわよ(笑)」


レンが横から静かに付け加えます。


「……言葉がわかれば、建物の声が聞こえる。焦らなくていい」


てっこは、メモ帳に「トラ=黄色と黒のバー」「ハト小屋=屋上の箱」と書き込みました。


真っ白だったメモ帳が、少しずつ現場の色に染まっていきます。


「私……もっと語彙力を『ふかして』いきます!」


「あはは! 使い方がちょっと違うけど、その意気よ!」


パネ美の豪快な笑い声が、コンクリートの壁に響きました。



【今回の現場あるある】

「ハト小屋」「ネコ(手押し車)」「トラ(縞模様)」など、現場はなぜか動物園状態。


「あと5ミリ殺して(削って)」と言われて、一瞬物騒な想像をする。


「フカす」と聞くと、バイクをブンブン吹かす方を想像してしまう。

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