空飛ぶペンギンをもう一度
メモ1
『パンダが人をラッパーのノリで煽っていた』
メモ2
『牛乳を注ぐクマがいなくなっていた』
メモ3
『空飛ぶペンギンが今日はしょんぼりと地面を歩いていた』
友人から貰ったメモ。
その中には奇怪な内容が書かれていた。
「これ、どういう意味……?」
友達にSNSで友人に訪ねてみる。
すると、即座に返信が届いた。
「最近、VRのプラットフォームで発生してる事件だよ」
「えぇ……どういうこと?」
「ほら、アバターがいっぱい使えるサービスがあるっていうのは知ってるだろう?」
「なんだっけ、ブイトレーション?」
「そう、それだ」
ブイトレーション。それは最近流行しているVRプラットフォームだ。
多くの不特定多数の人とVR上で話せるのが特徴的なものとなっていて、イベントも多く開催されている。
今回の友人の話の展開から察するに、今回の話題はそれが関係しているみたいだ。
「不思議な事件だけど、私に調査できると思う……?」
私の友人、エナは事件を解決するのが好きな探偵気質の女の子だ。
付き合わされている私、ミドリはどっちかというと事件現場に赴くタイプの人。
正直人付き合いとかは得意じゃないから、こういうVRプラットフォームに潜ったりというのは勘弁してほしいところなのだけれども……
「少なくともわたしには無理だね。残念ながらPCの性能がよろしくないから、多分ブイトレーションに繋いだだけで落ちるだろう」
「そっか、じゃあ今回の事件はお流れかな」
「まぁ、待ってくれ、ミドリ。ちょうど今宅配サービスが届くだろう」
「えっ、宅配サービス?」
エナが返信を送ったタイミングとちょうどドンピシャだっただろうか。
私の家のインターホンが鳴った。
急ぎ、確認して配達員さんに挨拶する。
「お、お疲れ様です」
「宅配品です。サインをお願いします」
「あっ、はい、わかりました」
おそらくエナが送って来たものだろう。
そう思いながら、それとなく荷物を受け取り、箱を開けてみる。
……そこには新品同様のVRの機械が梱包されていた。
驚きながら、エナに連絡する。
「なんかVRが届いたんだけど」
「わたしからの選別だよ」
「えぇ、こわ……」
「当然、調査してくれるよね?」
言葉だけで伝わってくる圧。
強制的に借りを作られた気がする。
これは、逃げられない。
「……わかった、やってみるね」
「セッティングの方は色々手伝おう。私もその機械には興味があるからね」
そう言いながら色んなセッティング用の資料を画像形式で提出する彼女。
……前もってやる気があったというのがなんとなく伺える。
「自分で買えばよかったのでは?」
「言っているだろう? PCがいまいち性能よくないと。それに持ってないとは言ってないじゃないか」
「持ってたんだ、VR……」
「まぁ、暇なときに遊んでいるからね。しかし、今日君に頼みたいところは高スペックのPCがないとしんどい場所なんだ。だからお願いした」
「はいはい、そういう事情だと思いました」
こうなると、とことんまで付き合わないといけないだろう。
そう思いながら、貰ったVRの機械の調整を行っていった。
頭にヘットセットを装着して、コントローラを手に持つ。
基本的なVRの機械セットと見て間違いないだろう。
サイズも悪くない感じにフィットしている。
「PCに繋いでブイトレーションを最大スペックで遊べるようにはできたかい?」
流石にVRをやりながら文章でやり取りするのはきついので、次は電話で対応してもらう。
エナの少しハスキーな声が私のヘットセットから直接聞こえてくる。
「う、うん。大丈夫」
「どうした、歯切れが悪いじゃないか」
「……ブイトレーションって不特定多数と繋がれる場所でしょ?」
「そうだね」
「私、あんまり対人関係得意じゃないんだけど」
エナと話している時はそうでもないけれど、私はぶっちゃけコミュニケーション能力が高い方じゃない。
あがり症だし、色々トラブルがあると心配に思えてうまく動けなくなってしまう。
正直、プレッシャーが凄い。
ブイトレーションの起動画面一歩前でも緊張してしまっている。
「問題ない、意外と人はキミを見ていないから」
「そうだといいけど……」
「ただ、まぁ……それなりに活動しやすいようにアバターはこっちで用意しておいたから確認しておいてくれ」
「わかった。起動するね」
ブイトレーションを起動。
そしてプライベートな部屋までVR上で案内される。
「アバターってどんなのかな」
下を向いて確認する。
胸が大きい。
下が見えない。
普段の私、というか現実の私はそこまで大きくないからそういうことにはならないけれど、なんだか斬新な視線だ。
「えぇ」
鏡があったので確認する。
全体的に大きい印象だ。
ふとももとか胸とか。
正直可愛らしいけれど、なんだか私っぽくない。
「……ふふっ」
なんとなく笑ってみる。
するとしっかりと鏡に映っている私のアバターも笑っていた。
これは、かわいい。
「フェイストラッキング対応の効力はあるみたいだね」
「え、えっと、可愛いのはわかったけど目立たない? 大丈夫?」
「なに、俗に言う人気アバターだから気にする必要はない。むしろ安心感を与えるだろうね?」
「なんだか不思議」
「軽量化もしてあるから、よっぽど変な人と遭遇しなければトラブルもないだろう」
「そのよっぽどが怖いんだけど」
「まぁ、気にするな。私と会話したいときはブイトレーション側の音声をミュートにすればいい。そしたらこっちの会話に集中できる」
「気を付けます」
「では、よい旅を」
「怖いんだけど……!」
エナから貰ったメモの内容を再び確認する。
『パンダが人をラッパーのノリで煽っていた』
『牛乳を注ぐクマがいなくなっていた』
『空飛ぶペンギンが今日はしょんぼりと地面を歩いていた』
一つ目のメモ以外は正直、今日来たばかりの私ではわからないんじゃないか?
「わからないと言いそうだったから、色々出してあげるよ。牛乳を注ぐクマとペンギンの動画を添付した。SNSの反応とかもあるから参考にしてほしい」
「あ、ありがとう」
「それからイベントをやってる部屋……『ブイトレーション・パレード』に繋がる方法も出しておいたから参考にしてほしい」
「色々用意してくれるね」
「わたしもこの事件には興味があるからね、現場の調査は頼んだよ」
「りょーかい」
とりあえず、ひとつひとつの情報を確認していこう。
『牛乳を注ぐクマ』
これは文字通り、一定の姿勢を維持したまま牛乳を注いでいるクマだ。
VRなこともあって、アバターなのだろうか。しっかりとしたふさふさの毛並みの熊が有名な絵画のイラストのように牛乳を注いでいる。
結構コアなファンに人気なみたいで、写真を撮ってSNSに投稿している人も多い。
『今日、クマと写真を撮った!』
『なんか文学的な気分!』
そんな投稿が多い中、ちょうど三日前あたりからクマが消えたことが話題になっている。
『クマ、今日はどこにもいなかった』
『イベント時間外とかなのかな?』
『いや、ワールドに置かれているやつなら普通にいそうだけど……なんでかな』
そして、投稿の中にはひとつ話題を沸騰させているものもあった。
一日前の投稿。
『ねぇねぇ聞いた!? 牛乳を注ぐクマが襲い掛かったって話!』
『なんだかひとりで探索しているアバターに接近してきたんだって!』
『こわー、クマ注意報じゃん』
VR上の出来事だからクマに襲われて死んじゃうということはないだろうけれど、なんだか不思議な出来事だ。
いなくなったクマが襲い掛かる謎現象。
「これ、何があったんだろう」
「それを調査するのがミドリの役割だよ」
「……隣に友達いないんだけど」
「ふふっ、応援してるよ」
「あ、絶対クマと遭遇させる気だ! こわっ」
多分、これはもう戦わないといけないというやつだろう。
しっかり覚悟を決めておいた方がいい。
えっと、次は……
『空飛ぶペンギンが落ち込んでる』
VRならではの表現、空飛ぶペンギン。
そんなペンギンがなぜか地上で落ち込んでいた。
いや、ペンギンが地上にいるのは普通のことだけど、空飛ぶペンギンというアイデンティティが失われたら何になってしまうのだろうか。
……それはまぁ、細かいツッコミか。
そう思いながら、私は調査を進めることにした。
ペンギンが飛ぶというパフォーマンスがイベント開始時から続いているみたいで、虹をかけながら優雅に飛ぶペンギンが人気イベントとして一定時間にやっていたみたいだ。
『今日、午後の八時に空飛ぶペンギン見に行こうよ!』
『よかったよね、空飛ぶペンギン! かわいかった!』
そういうキラキラした、いかにも眩しいSNSらしい投稿もいくつか見られる。
しかし、これも数日前……大体一週間くらい前あたりからだろうか。雰囲気が違う投稿が見られるようになった。
『なんだか今日の空飛ぶペンギンさん、元気がなかった気がする』
『体調でも悪いのかな。今日、時間よりちょっと始まるのが遅かったような……』
そして、大体二日前。
謎の投稿がこちらでも話題をさらっていた。
『ねぇ、噂だけど空飛ぶペンギンさんがどんよりと地上を歩いていたらしいよ!』
『まじか! 写真撮りたかったなぁ』
『そんなこと言ってる場合? 励ました方がいいんじゃないの?』
『でも、どこにいるかわからないし……ま、ペンギンショーは盛り上げていこうぜ!』
空飛ぶペンギンが地上でどんよりした雰囲気をしていた。
画像もないその投稿が話題を生み、空飛ぶペンギンショーは純粋な盛り上がりを見せられなくなっていたみたいだ。
「空を飛ぶのに疲れちゃったのかな」
「ペンギンは本来水と陸の生き物だからね」
「いやいや、でもVRならこういうのって夢を与えられるのでは?」
「ふふっ、夢は本当に夢のままなのかな?」
「それってどういう……」
「さて、そろそろ情報整理も終わった頃合いでは? 直接探索しておいた方がいいと思うよ、ミドリ」
「う、うん。わかった」
うまくはぐらかされた気がする。
けれど、実際に自分の足とかで確認した方がいいこともあるだろう。
そう思い、私はイベント会場である部屋……『ブイトレーション・パレード』に赴くことにした。
『ブイトレーション・パレード』は文字通りパレードのような空間で、様々な二足歩行の動物が賑わっている様子だった。
兎の着ぐるみのようなアバターが風船を配っている。
まんまる体型のネコのアバターが写真撮影を行っている。
ジェットコースターのようなアトラクションもある。
空間そのものの賑わいも凄く、男性アバター、女性アバター、多種多様のアバターが空間を歩いている。
「すご……」
「調査内容は覚えてる?」
「平気。まずはクマから調べてみる」
とはいえ、ここまで人が多いとどうすればいいのか。
ぼんやりと歩きながら、人込みを避けていく。
「人とは話すつもりがないのがミドリらしいというか」
「VRでも話せない人は話せないものだから……!」
とはいえ、人の話に耳を傾けないのもよくないだろう。
そう思いながら話をしているグループの会話内容に耳を傾ける。
「今日も盛り上げていこうぜ、兄弟」
「あぁ、時間通りにいつもの奴やろうぜ」
「ふっ、きっとテンション爆上げになれるぜ」
あれはなにかイベントをやろうとしている人なのだろうか。
妙にテンションが高い。
アバターは犬、鳥、猿。
少し空間の外側で話しているのもあって、秘密の会話っぽい印象を感じる。
音声をミュートにしてエナに問いかける。
「あれ、どう思う?」
「どう思うっていうとなんだい?」
「いや、なんか見るからに怪しいなぁって」
「怪しいからといってちょっかいをかけるのはあまりよろしくないだろう。もっと丁寧に情報を扱うべきだね」
「そういうものなのかなぁ」
「全ての真相というのはね、しっかりと結びついた時に出来上がるものなのだよ」
「そうだといいけど」
少し頭に抑えながらもさらに奥に進む。
森のエリア。
奥地、かつなにもないのもあってかVRなのに誰もいない空間。
静かな空気が漂う。
「条件は整ったと思うけど……」
ひとりでいると牛乳を注ぐクマに襲われる。
それはSNSにあった情報だ。
正直怖いけど、ここまで来たら覚悟を決めるべきだ。
息を飲んで、状況が動くのを待つ。
すると、森の奥から、クマがやってきた。
ゆったりとした速度で私に向かうクマ。その手には牛乳が入った壺。
襲ってきませんように。
そう思いながら身構えていたら、クマは流暢な言葉で話しかけてきた。
「キミは、迷子になってきたのかい?」
「え、えっと、その、迷子ではないです、はい」
ヤバい、こういう時に限ってコミュニケーション能力の低さが……!
急ぎ取り繕うとする前にクマが言葉を繋げた。
「つまり、僕を付けてきたと?」
クマの目が光ったような気がした。
警戒している。
間違いなく、この目は何かを疑っている眼だ。
「つ、付けてきたんじゃないよ! その、事件が気になって……!」
「事件?」
「えっと、牛乳を注ぐクマさんがいなくなってて、みんな心配してたから……」
「あぁ、そのことか……」
私の言葉を聞いて、演じていたかもしれないクマの演技が途端に静かな男性のものになった。
真剣に悩んでいる問題なのだろう。
「私は、事件解決のお手伝いがしたくて! だから、来たんです!」
「事件解決か。……その言葉、信じてみるのも悪くはないかもしれないな」
不審者扱いされなければいい。
そう思いながらもたどたどしく言葉にする。
そんな私を見て、クマは遠くを見ながら静かに森の中で語る。
「……世の中、綺麗にできちゃいないからな」
「それってどういう……」
「この『ブイトレーション・パレード』はみんなで楽しむ空間だ。しかし、悪いことを考えるやつだっている」
「悪いこと?」
「……マナー違反のお客さんのことさ」
少しの間。
それは別の何かがあると感じさせる内容だった。
「ちょうどあいつらのようにな」
「あいつらって」
しかし、そのことを追求するよりも先に事態は動いていた。
クマが移動した先、そこには先ほどの犬、鳥、猿のアバターがいた。
彼らはなにやら花火を打ち上げようとしていたみたいだ。
「こんな公共の場で負荷が大きくなるようなことはするんじゃない! サーバー負荷が起こったら大変なことになるんだぞ!」
「しったこっちゃねぇよ! こうすりゃみんな楽しいんだよ!」
「そうだそうだ! 口答えするんじゃねぇ!」
「あ……こいつ、あの噂のクマじゃね? スクショしないと!」
「言っても聞かないなら!」
権限を使って強制ログアウトさせたのか、三者のアバターはすぐさま退出させられた。
……これがクマの正体だったのか。
「ボクはサーバー管理の為に派遣されている私服警察のようなものだ。最近はトラブルが多いから、牛乳を注ぐクマとしての仕事ができてないが……こうした事件は少なくない。もし、調査しているのなら協力してほしい」
「私はどうすれば?」
「怪しい集団を見かけたらボクに報告してくれ。連絡先はこれだ」
連絡先を受け取り、頷く。
「う、うん。わかった。次は私、ペンギンを探しに行く予定だけど……」
「空飛ぶペンギンか……あいつはもう、この場所にはいないかもしれない」
「えっ、それってどういう」
「疲れ果ててしまったみたいなんだ」
そこまで言って、クマは仕事だといって去ってしまった。
疲れ果てたペンギン。
これはいったい……
「ねぇ、エナ」
「妙だと思ってるかい?」
「うん。私が気になるのはペンギンのことだけど」
「ここが大型のイベントなら、意外と諦めてないかもしれないよ。空飛ぶペンギンだって夢を叶えたかったのかもしれないし」
「だったら、探したい」
「そういうと思って、人が集まらなそうな場所を探したよ。わたしが怪しいと思ったのは海岸エリアの僻地だ」
「うん、言ってみる」
とりあえず情報を纏めよう。
『牛乳を注ぐクマ』
クマは私服警察で、どちらかというと襲うという情報はマナー違反のお客さんが流した情報の可能性が高い。
疲れ果てている様子だった。
こんな感じだろうか。
次はペンギンだ。
うまく合流できたらいい。
そう思いながら移動していった。
海岸エリア、僻地。
岩に覆われた隙間のような空間で、バーチャルな海も見えない。
隠れ家的な空間。
岩と岩の隙間に歩いていた時、私はアバターを見かけることができた。
「キミは……」
そこにいたのはペンギンだった。翼が立派で、空も飛べそうな印象を感じさせる。
「空飛ぶペンギンさん、ですね」
隣に移動して、確認する。
するとペンギンは下を向きながら返答した。
「そう呼ばれていたね」
「……どうしてそんなに辛そうなんですか」
丁寧に、なるべく寄り添えるように話す。
するとペンギンはため息を付いた。
「僕が空を飛んで、パフォーマンスをする。そのイベントの最中に妨害する人が多くなってね」
「妨害?」
「いや、本人たちは悪意なくやってるんだ。わかってる。でも、僕が飛んでる最中、僕より目立つエフェクトをいっぱい出したりするような人がいて疲れちゃったんだ」
「ひどい……」
「みんなエフェクトを見て笑っていた。僕を見て、笑ってた。嘲笑の笑いだと思った、僕は、僕は怖くなった」
「それは、違うと思う……!」
「わかってる。わかってるんだ。でも、僕はどうすればいいかわからないんだ! 僕が飛んでも人は悪戯をする! 助けてくれる人がいても、妨害する人も多い! 僕は、もう……!」
その仕草は悲痛で。
とても辛そうで。
私は……力になりたいと思った。
「だったら、解決しちゃいましょう」
「解決、だって? そんなうまく行くはずがないのに!」
「だからといって、見逃せるわけないから。……だから、今日の午後八時、飛んでくれますか?」
「僕が、飛んでもいいのかい」
「私が見たいからっ」
笑顔でそう答える。
そんな私にペンギンは嬉しそうに頷いた。
「わかった、これが最後かもしれないけれど、やってみる」
「よし、きっとしっかりとしたフライトにできるように応援するよ!」
そう言葉にして、笑顔で去っていく。
こう決めたならもう、やるっきゃない。
情報を纏めて次のステップにいくべきだ。
『空飛ぶペンギン』
純粋な被害者。心を痛ませている。
悪戯をする人がいて、その人の影響でパフォーマンスが妨害されてしまっている。
エナに電話を繋いで、情報を伝える。
すると彼女は全てがわかったのか、静かに語り始めた。
「今回の事件はシンプルだったね」
「悪いことをする人がいて、噂が広まって、純粋に楽しめる人の妨げになっていた」
「ただ、ひとつ足りない要素があると思わないかい?」
「足りない要素?」
「メモ1だよ」
「メモ1……あっ」
いままでスルーされていた問題。
メモ1。
『パンダが人をラッパーのノリで煽っていた』
煽るパンダ。
何を煽っていたのか。
「この情報は調べている最中のキミに開示すると混乱を招きそうだったからわたしが整理したよ」
そういってファイル形式で添付されていく内容。
そこには動画が貼られていた。
『パレード、ドリーム、盛り上がりなし、悲しみばっかり!』
『俺たちで盛り上げマックスビート! 打ち上げちゃって盛り上げようぜい!』
そう言って怪しげな道具を手渡すパンダ。
パンダの近くには屋台みたいなものがあり、そこから花火のようなものが取り出されていた。
『ペンギン時間にビックバン! そうすりゃキャストも大盛り上がり! ヘイ!』
それを受け取った人はまるでパフォーマンスを受けたかのように嬉しそうにしていた。
そして、ペンギンが飛翔するタイミングにその花火は打ち上げられていた。無邪気に、イベントを盛り上げたいという気持ちで。
人の善意を利用した、悪意ある行動。
「なんで見逃してたんだろう」
「単純な話さ、そういう存在は不思議じゃないという風に思い込んだからさ」
「他の話より深刻じゃないって思ったから、私、スルーしちゃってたんだ……」
「なに、気にする必要はないよ。もう、ここまで来たらやることは決まってるだろうからね」
「うん、大丈夫!」
クマさんに会って、連絡しないといけない。
急いで貰った連絡先に報告をすることにした。
『ラッパー風のパンダが怪しい! 調べて!』
さて、疑ってしまった以上、私も証拠の為に動かないといけない。
「ミドリが次に行くべき場所はわかるね?」
「うん、パンダに会おう!」
急ぎ移動する。
どうやって解決すればいいかはわからない。
それでも、話しておきたい。
パンダの人と対面すれば、きっと何かが変わる。
そう信じていた。
中央広場。
午後七時三十分。
ペンギンのパフォーマンスが始まる少し前の時間。
パンダのアバターはラップ口調でみんなにものを渡していた。
……ペンギンのパフォーマンスを邪魔する道具だ。
走り、急ぎ、そしてパンダの下に到達する。
しかし、なんて言葉にすればいい。
下手なことを言ったら、文句が飛び交うのは間違いない。
いや、でも、でも……!
「八時になったら打ち上げようぜい! ババンと花火打ち上げイェア!」
「ぺ、ペンギンさんが困ってました! その時間に花火を打ち上げるのは辞めてください!」
それ以上の言葉が出てこなかった。
証拠とか、そういうのが出てくるよりも先に、私の感情が出てきた。
「なんだあいつ」
「俺たちがせっかく盛り上がろうとしていたのによぉ」
「そうだそうだ! 邪魔すんな!」
「でも、でも!」
ただ、声をあげる。
「空飛ぶペンギンさんは悲しんでた! 今は怖いって言ってた! でも、飛ぶって言ってくれた! だからっ、だからっ!」
私はひとりのユーザーだ。
これ以上なにかできることはない。
でも、だからこそ、声を出したかった。
今、私にできることは説得すること。
心で、人を動かすこと。
「空飛ぶペンギンさんの、純粋なフライトを見てみてください! 私は、見たいんです! 空飛ぶペンギンのパフォーマンスが! 初めて、VRで見るパフォーマンスだから! 見たい、からっ!」
私はエナみたいに頭がいいわけじゃない。
コミュニケーション能力も高いわけじゃない。
それでも、人の気持ちには寄り添いたい。
そして、自分の気持ちには素直でありたい。
だって、あんなに悲しんでいる姿は見たくないから……!
「……そうだよね、迷惑だっていうなら辞めなきゃ」
「そういえば、私も花火とかそういうの抜きでの空飛ぶペンギンのパフォーマンス、見たことなかったな」
少しずつ道具を手放す人が増える。
まだ、持っている人もいるけれども、それでも私の声は届いていた。
「な、お前! 俺の道具を手放させやがって!」
「ひっ」
ラップをしていたはずの、パンダのアバターが私に迫って来た。
怒声を浴びせ、さっきとは違う態度で襲い掛かる。
「ペンギンばっかり目立ちやがってよぉ、俺も主役になりたかったてぇのに調子に乗ってよぉ! むかついたのさ!」
「そ、それは八つ当たりです!」
「あぁ? てめぇ、なに偉そうなこと言ってるんだ? 俺は主催者様だぞ? 俺にたてつく奴はどうなるかわからないのか?」
「あ、うぅ」
ここまでか。
私は、なにか恐ろしいことをされてしまうのか。
目を瞑った瞬間だった。
「そこまでだ。迷惑行為を取り締まらせてもらう」
クマの声が聞こえた。
ゆっくりと目を開けると、警官服になった牛乳を注ぐクマさんが現場に到着したみたいだ。
「なっ、おま、え……ぇ!」
屋台ごとパンダのアバターが消え去っていく。
それと同時に観客の手に持っていた道具も消え去っていく。
一件、落着なのだろうか。
「すまない、みんなには迷惑をかけてしまった。あのパンダのアバターは非合法な手段で主催者権限を入手していた存在らしく、みんなを騙していたんだ」
その声でざわめく人々。
気が付かずにいたのだ。そうなるのも仕方がないだろう。
「だが、勇気ある若者のお陰で事件解決に踏み出すことができた。感謝する」
そういって私に近づく警官服のクマさん。
私は少し目を逸らしてしまう。
「わ、私はそこまでうまくできたかはわかりません……」
「キミが勇気ある一歩を踏み出してくれたから、あのパンダは捕まったんだ。隙を作ってくれて、ありがとう」
「……どういたしまして、です」
「それから、みんな。不躾なお願いなのはわかっている。だが、聞いてほしい」
ざわめく会場。
そんな中、クマさんは静かに言葉にした。
「……空飛ぶペンギンは、ボクの友人なんだ。彼の心行くまで空を飛ぶさまを見ていってほしい。友人としての、お願いだ」
時間が八時になる。
その瞬間、虹を掛けながら空飛ぶペンギンが軌道を描いていく。
まるで飛行機のように、綺麗な印を作りながら飛ぶペンギン。
VRという空間ならではの自由な世界、みんなが自然と感動する場所がそこにはあった。
「事件解決、お疲れ様。ミドリ」
VRの機械を外して、電話の声に耳を傾ける。
そこにはいつも通りのテンションで話すエナの姿があった。
「現場で私ができたことなんて、そうそうなかったと思うけど……」
「なに、人を感情的にさせるのも探偵として必須な技術だよ」
「探偵になろうとは思ってないんだけど」
「そう? それは残念だ」
そう言いながらいくつかファイルを私に見せてくる。
そこにはパンダの悪行らしきものがいくつか纏まっていた。
「彼の動向は見張っていてね、いくつか証拠として提出しておいたよ」
「流石というかなんというか」
「だから、今日の事件は無事に解決したと見ていいだろう」
「ブイトレーション・パレードも平和になるかな」
「さぁ、それについては人間の心次第だね」
「上位存在みたいなことを言って……エナだって人間でしょ?」
「まぁ、そうだね」
そう言いながら、彼女は私にあるページを送ってきた。
SNSの記事だろうか。
「これは?」
「見ると笑顔になれるものさ」
大見出しを確認する。
『迷惑事件解決! 勇気ある謎のアバター使いの正体とは!』
その記事には色々な話題が飛び交っていた。
中身について考えてたり、その内容は多種多様。
「ふふっ、ミドリが次は謎の存在になったみたいだね?」
「わ、私そんなに大層な存在じゃないからっ!」
でも、悪くない気持ちではあった。
それはきっと事件を解決できたからかもしれない。
ほっとしながらするエナとの会話は不思議と弾んでいる気がした。




