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寝言は寝て言え。

作者: 忍龍

ズムッ!



「…ぁぐ……っ」



術士が一人、鳩尾を抉り込むように拳を刺し込まれ

空っぽの胃から僅かに胃液を吐いて、冷えた床石に膝をついた


突然の暴挙に、彼らを囲む術者たちも他の者も、ざわりと怯んで息を呑んだ



「…い、…一体何を…ッ」



誰かの声が、暴挙の主に、震える声で問うた



「俺は嫌だと言った筈だ」


「し、しかしっ、

 貴方様はこの世を救う唯一の、」


「俺は、嫌だ、と 言った筈だ」


「ッ、」



ぎょろり、と顔を向けずに此方を眼球だけで据えたその眼は

恐ろしい程に静かに、その怒りを伝えていた



「ここへ無理矢理呼び出される直前、

 俺は、嫌だ、と お前達に言った、そうだな?」


「それは…しかし、」


「俺の命で お前達の平和を買うと、そういうことか?」


「そ、そのようなことは……」


「そういうことだろう、

 俺に死ねと言っているんだろう、違うか」



ごくり、と誰かが固唾を呑んだ


こんな、


こんな筈ではなかった


世界を救うという栄誉に、相手の否やなど無い物だと思っていた


男は、恐ろしい程に冷静で

静かに現実を突きつけ


彼らの高揚とした気分から熱を奪っていく



「俺の命は、少なくとも人一人分の価値がある

 俺の命は、誰が贖う?」



何……?



「答えろ、俺の命の代償は、誰の命によって支払ってくれるんだ?」



その恐怖は、瞬く間に広まった


英雄の命によって成される筈の平和

では、英雄の命の対価は、何によってなされるのか



「この世を救うのならば、

 この世にいる総ての命ある者の、その"命"が代価だ、そうだろう?」


「そんなっ」


「それでは、貴様が世を滅ぼすのと同じではないか!」


「単純な理屈だ、

 お前達は、英雄になんとかしてもらう為の代償は、精々衣食住と酒と金

 後は名誉と身分と女で賄えると思ったんだろう?」



くっくっと、押し殺したような笑い声がひやりと伝わる



「そんなに自分達にばかり都合が良いわけないくらい、分からなかったのか?

 呼び出した事に対する代価は送り返すことだ、しかし、それも出来ないんだろう

 出来るなら、既に俺は送り返されているだろうからな」



図星を当てられ、ひやりとまた、背中を冷たいものが伝う


確かにその通りだった、

出来るものなら、こんな事態になってすぐに送り返している


だが、彼の言うとおり、それは出来ない


引き寄せる時は、彼の気配を目印に見つけることができた

しかし、彼は今、此方にいる

もう目印はないのだ


送り返すことは、できない



「さあ、もう一度聞こうか」





お前達の為に死ぬ俺の為に死ぬ奴は、誰だ?

立ち位置の違いですよね

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