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「──さぁてと、何処に行きましょう」


 王女は転げるように部屋を出て、王城の厨房近くに来ていた。別段そこが良かったわけではない。ただ、幼い頃に何度か来ていたことで顔馴染みになった料理人がいたからだ。


「⋯ん?王女様じゃねーか、何しに来たんだ?」

 噂をすれば影がさすとはこの事で。

 王女がふと思い浮かべた人の声が、ちょうどその時王女の耳に入ってきた。


「あら、クリフ!久しぶりね、今日は探検代わりに来たのよ」

「探検?」

「ええ、誕生日プレゼントとして王城の鍵束を貰ってね」

 そう言いながら王女がウインクすれば、料理人⋯基、クリフルード・エイドは納得した表情を見せる。

「それなら王女様、食糧庫はどうだい?王城に勤めてる全員の三年間の口を満たす分があるぜ」

「嘘、そんなに?」

「もちろん」

「うふふ、それなら楽しみね。勝手に開けちゃっても良いのかしら?」

 そう尋ねると、クリフはうーん、と額を掻く。何やら、彼には決定権がないようだった。


「ホラ、俺は一介の料理人だろ?食糧庫って基本的に料理長(シェフ)の管理下にあるからさ、」

 そこで王女もクリフの言わんとすることを理解し、「あー」と声を上げる。

「そういうことなら、昼終わりに来ようかしら」

「そうしとけー、間違っても昼前は来んなよ、忙しいからな」


 ふうん、と王女は踵を返そうとして、はたと足を止める。

「ねえ、クリフ」「あん?」


 これは、単なる好奇心だ。

「——もし、私が昼より前に来たらどうなるの?」

「⋯」

 しばしの沈黙ののちに、クリフはゆっくりと口を開いた。

「もし、王女様が来たら、」


 ごくり。



「王女様が直々に料理することになる」

「私一応、第一王女よね?(王族に料理させるの?)


 ジョーダンだって、と快活に笑うクリフに呆れたため息をつき、王女は改めて手を振った。

「それじゃ、またね!」

「おん、待ってるぞー」


⋯⋯⋯


 王女の足音が聞こえなくなったことで、クリフルードは再び仕事を再開させる。今回彼は厨房からなくなった材料を取りに、食糧庫まで行っていたのだ。

 食材を並べて同僚と共に頷いた時、ふとクリフルードの頭に過ぎったことがある。


(⋯そう言えば)

 それは、王女に食糧庫について話したときにも頭の隅で考えていたこと。


(食糧庫には三年分の食糧を貯めている、って聞いていたけど、あの場に有った野菜はどう見たって三年分じゃなかったような⋯)



 そこでクリフルードはいかんいかんと頭を振る。

(野菜は基本(なま)だし、なるべく外から買ったものを使ってるって言われたし⋯まあ、予備だし腐りやすいから少ないんだろうな)


 そうして彼は意識を戻し、目の前の料理に向き合う。


 そこについさっきまで王女と笑い合っていた壮年男性はいない。今この場にいるのは、料理人のクリフルード・エイドである。


(昼まで頑張るかー!)

 クリフは口元を上げて、そんなことを考えた。

腐るはずの野菜を、予備とは言え保管しているのは奇妙しいと思わないか?生のものなら、城の何処かから入った鼠に齧られてしまいそうなものを⋯。

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