一
王女がいた。聡明で、美しくて、何より他者を思いやる力があった。
戦火の咼に巻き込まれんとするこの国には、王女のような『思いやり』のある人⋯他者のために祈れる人が重宝された。一箇所に集められ、皆一様に神を崇めた。
即ち、修道院の確立である。
まあ、王女には関係のない話だ。王女の15歳のパーティーは昨日終わった。まだ親から貰っていないプレゼントがあるが⋯
「⋯あら、もう持って来てくれていたの」
この通り、王女の侍女──ジュノが持ってきてくれていたらしい。
「王女様、そろそろ起きてください。いくら今日が休日と言えど、王女様の仕事は明日もあるのですよ」
こう現実を突きつける物言いをする侍女こそジュノだと言っておこう。
「分かっているわ。それに、今日一日は城探検として使おうかなって思っていたの」
「城探検?まさか、城下で流行ってるヒーローものの小説にハマったんじゃないでしょうね」
「そんなことないわ。でも、この行為にぴったりと合う言葉は他にないでしょ?」
そう言えば、うーむと唸って黙り込むジュノ。彼女を横目に、王女はルンルンランランと支度をする。万に一度でも『王女が寝ぼけ眼で城内を徘徊していた』などという噂が立ってしまうことを恐れたからだ。
「鍵、忘れないで下さいよ」
「もちろん、忘れるわけがないでしょう?」
ジュノの言葉に、ニンマリと笑って答える王女。ベッドの側にある小さな丸テーブルに置かれた、これまた小さな鍵束を人差し指でくるりと回す。
「王女様、そんなことしたら落ちますよ」
「落ちるわけがないでしょう」
何を言っているの、と不思議そうな顔でジュノを見る王女。次の瞬間、ジャランと金属音がして、鍵束が床に落ちた。
⋯⋯沈黙。
「い、行ってくるわ〜〜」
恥ずかしさからか、不満からか、王女は逃げるようにして部屋を出た。
残されたジュノは呆れたように王女が出て行った扉を見つめていたが、やがて更に呆れたように呟いた。
「あーあ、言わんこっちゃない」